脱グローバリズムの可能性をロシアに探る9~秩序崩壊の危機(不整合感)と欧州右翼の社会統合期待
「2012年、プーチン大統領再選。反米路線の強化」では、再選されたプーチンの外交路線は、ユーラシア連合構想を旗印に、中国との同盟、欧州・インドとの経済的連携を図る一方で、反米路線を強化することを紹介した。
では、プーチンが大衆から支持される基盤は何か?
注目すべきは、欧州の極右がプーチンを支持しているという点である。
『The Economist』2014年4月25日「欧州の極右がプーチン大統領を賛美する理由」
5月に予定されている欧州議会選挙で、多くの人が期待するとおりに極右政党が善戦した場合、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領以上に喜ぶ人間はいないだろう。ウクライナのロシア系住民をファシストやナチスから庇護していると主張するプーチン大統領に、欧州政治の非主流派から支持が集まっていることが興味深い。同大統領を支持するのは不気味な制服姿が印象的なハンガリーの極右政党「ヨッビク」のメンバーから、それよりは洗練された着こなしのフランスの極右政党「国民戦線」まで様々だ。
かつて、ロシアの友人といえば左翼だった。今でもギリシャなどには親ロシア派の共産主義者がいる。だが最近、ロシアの同志としていちばん目につくのはポピュリストの右翼だ。ウクライナ危機は、ロシアに対する彼らの共感を引き出した。クリミアでロシア編入の是非を問う国民投票が行われた際には様々な急進派が“オブザーバー”として招かれ、その感はますます強まった。“オブザーバー”にはギリシャやドイツの左翼や数々の”変り種”に加え、国民戦線、ヨッビク、ベルギーのフラームス・ベランフ、オーストリア自由党、イタリアの北部同盟の党員もいた。西側諸国の大半が国際法違反だと非難する今回の国民投票を、彼らは「手本とすべきもの」と称した。
欧州の極右主義者たちはプーチン大統領に何を見ているのだろうか。形は違えど国粋主義者である彼らは、ロシアの影響を逃れるために戦うウクライナに肩入れしてもよかったはずだ。ハンガリーのシンクタンク「ポリティカル・キャピタル」のピーター・クレコ氏は、プーチン大統領が支持を集めているのはロシアが運営するメディアの好意的な報道だけが原因ではないと指摘する。
プーチン大統領が力強く国益を主張する姿や、キリスト教の伝統的な価値観を重視する姿勢、同性婚への反対、そして重要な経済部門を国の管理下に置くその手腕に多くの人々が惹かれているという。加えて、東欧に根づく「汎スラブ主義」(スラブ民族の連帯と統一を目指す思想)も一役買っている。そして一般に言われるのは、極右主義者の多くがプーチン大統領と同様に米国・EU(欧州連合)が主導する世界秩序を嫌っているということだ。プーチン大統領にとって、極右主義者たちからの支持は欧州で影響力を持つための第2のチャンネルとなる。
2014年5月の欧州議会選挙では、極右政党(反EU勢力)が躍進している。
「欧州議会選挙 EU懐疑派が躍進」
EU=ヨーロッパ連合の加盟国で作るヨーロッパ議会の選挙は、信用不安問題への対策として緊縮策が進められ、失業率が過去最悪となるなか、不満の受け皿となっている極右政党など、EU統合に懐疑的な勢力が議席を大幅に増やす勢いです。5年ごとに行われるヨーロッパ議会選挙は、加盟国ごとに人口比率で割り当てられた751の議席を選ぶもので、投票は22日から4日間、加盟国ごとに順次実施され、日本時間の26日朝から開票が進んでいます。ヨーロッパ議会が日本時間の午前8時30分に発表した予測によりますと、議会の最大会派で中道右派の「ヨーロッパ人民党」が212議席、それに次ぐ中道左派の「社会民主進歩同盟」が186議席で、ともに議席を減らすものの、二大会派が過半数を占める構図には変わりはない見通しです。しかし、フランスの極右政党「国民戦線」が初めて国内で最も多く票を集めたほか、イギリスやオーストリア、それにデンマークなど各国で、EU統合に懐疑的な勢力が支持を伸ばして、議席を大幅に増やす勢いです。
この背景には、信用不安問題への対策として緊縮策が進められた結果、失業率が過去最悪になっていることへの不満や、各国の予算の監視などEUの権限が強化されたことに対する強い反発があるとみられます。ヨーロッパ委員会のバローゾ委員長はツイッターで「われわれの価値観や利益を守ることができる世界秩序を作っていくには、ヨーロッパの人たちが結束することが不可欠だ」と述べて、危機感をあらわにしました。(後略)』
『新世紀のビッグブラザーへ』2014年5月27日「続 欧州議会選挙2014」
日本のマスコミは相変わらずフランスの国民戦線などを「極右政党」などと呼んでいますが、本当の極右政党とはギリシャの「黄金の夜明け」のような無茶苦茶な連中のことを指すのだと思います。フランスの国民戦線やスウェーデン民主党などは、「移民を制限する」「国民主権の回復」と言っているだけで、別に外国人排斥をやっているわけでも何でもありません。この手の印象操作はいい加減にやめるべきです。
まあ、移民の制限(国境を越えたヒトの移動を制限する)や各種主権の回復は、簡単に書くと「反グローバリズム」というわけでございますので、グローバリゼーション信奉者の皆様にはお気に召せないのでしょう。それにしても、何しろフランスの国民戦線はフランスで最大得票になってしまいました。となると、フランスで最も国民の支持を受けている政党が「極右政党」という話になってしまいますが、それでもいいのでしょうか。
ちなみに、ギリシャは急進左派連合(SYRIZA)が最多票を集め、ツィプラス党首が勝利宣言をしています。ツィプラス氏は、「反緊縮財政が歴史的に勝利した」と、語っております。SYRIZAは勿論、右派政党でも何でもありません。右派、左派無関係に「反EU」「反緊縮財政」「反グローバリズム」の政党が支持を大きく伸ばしたというのが今回の選挙結果であり、「極右政党」といったフレーズで印象操作を図るのは問題があると思います。
イギリスでは、EU離脱を掲げるUKIP(独立党)が第一党となってしまい、与党保守党は第二位の労働党にすら及びませんでした。もっとも、キャメロン首相は今のところ、「EU離脱を問う国民投票(2017年予定)を前倒しすることはない」と、言明しています。とはいえ、何しろ保守党の議員からまで「国民投票を17年から16年に前倒しするべきだ」という声が出てきております。
ドイツでは、一応、与党のCDU(キリスト教民主同盟)が首位を守りましたが、「親緊縮財政の反EU派」というややこしいAfD(ドイツのための選択肢)が7%を超える得票率を確保しました。スウェーデンの民主党も、前回は3.3%だったのが9.8%に躍進。デンマークは、反EUで右派の国民党が26.7%の得票率でトップ。
フランスのバルス首相は、25日夜の記者会見で、「政治的な地震だ」と発言しましたが、わたくしはむしろ「政治的な必然」なのではないかと思います。
興味深いのですが、今回の欧州議会選挙において「反EU」で票を伸ばした政党は、
◆反移民・反緊縮・右派 国民戦線、ス民主党、デ国民党
◆反緊縮・左派 SYRIZA
◆親緊縮もしくは構造改革的 イ独立党、AfD
と、経済政策でや国内政策がバラバラなのです。すなわち、彼らの共通点は「国民主権を取り戻す」一点につきます。とは言え、これはこれで健全な動きであるように思います。別に、独立党やAfDが英独の政権を取り、緊縮政策や構造改革に邁進したところで、それはイギリス国民やドイツ国民の自由です。現在のEUが問題なのは、「自国の行く末を、自国民では決められない」ことが問題なのであり、事は右だ、左だ、経済左派だ、構造改革派だ、ではなく、各国が主権の一部を「協定」に委譲する形のグローバリズムに対する拒否感であることが分かります。
「極右」とされている勢力の共通点は「国民主権を取り戻す」という点にあり、現在のEUでは「自国の行く末を、自国民では決められない」ことが問題だとされている。
金貸しの暴走による秩序崩壊は全世界的な現象であり、秩序崩壊の危機(不整合感)と社会統合期待は、全世界的に高まっている。欧州において、その意識潮流に応えたのが、マスコミによって「極右」と誹謗されている反EU・反グローバリズム政党であり、その現れが欧州議会選挙における彼らの躍進である。同時に、金貸しの暴走による秩序崩壊の危機(不整合感)と社会統合期待こそが、ロシアのプーチンの支持基盤になっていると考えて間違いないだろう。
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