2014年09月10日

中国どうなる!? 11 中国の社会福祉政策の歴史と今後の展望

中国どうなる!?シリーズ11回目の今回は、中国における社会福祉政策の歴史的な流れと今後の展望から、今後の中国がどうなっていくのか追求していきたいと想います!

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■日本と中国の国家支出の違い

国家支出
出典はコチラから。
日本の国家支出のトップが社会保障で30%となっているのに対して、中国の国家支出のトップは教育で14%、社会保障・就業は10.2%となっており、中国では社会保障よりも教育に力を注いでいる。一人当たりの社会保障額を比較すると、日本:213,000円/人、中国:138,000円/人となっている。
また、中国は国内の治安維持に関する公共安全費が5.8%と国防費の5.5%を上回っているのが特徴。(日本の防衛関係費は5.2%)

中国財政 5
社会保障支出についてもう少し細かく見てみると、90年代後半に急増し、2000年台に入ってからは10%強で安定的に推移している。
以前紹介した中国はどうなる!? 3 ~中国都市部は2000年前後に豊かさを実現した!!~ともリンクしている。

■計画経済期の社会保障制度

労働保険制度をはじめとする各制度は、ほぼ1950 年代に施行されている。社会主義国家である中国において、社会保障制度は、社会主義計画経済にとって例外的なものではなく、むしろ賃金とともに労働者の生活を支える不可欠なものとして考えられていたといえる。
特徴としては、完全雇用・終身雇用の実施により、社会主義社会には失業者は存在しないことになっていることから、失業保険制度が設けられていないこと、また、労働者への保障という考え方から、労働者の保険料拠出義務はなく、全て国家及び企業等の負担で成り立っていた。

■生活保証制度から社会保障制度への改革

中国では1970 年代末から市場経済化が進められ、かつての計画経済期のシステムは大幅に改革されるに至った。国家が持っていた権限の多くは地方政府や企業に譲渡され、企業には、経営自主権が与えられるようになった。当然、職員を解雇する権利が認められ、国家によって行われていた労働力配分も市場を通じて行われるようになった。
この市場経済化により、社会には失業者が登場し、また、企業が経営を重視するようになった結果として、社会保障費用が過重と感じられるようになり、これを放棄する企業が出現した。市場経済化は、従来からの労働保険制度を中心とした企業による生活保障制度に改革を迫ることとなった。
これを受けて、1980 年代後半から社会保障改革が開始された。「国民経済発展第7次5ヶ年計画」(1985~89)の中で、中国の国情に応じた社会保障体系を整備する方針が打ち出され、この時中国で初めて「社会保障」という言葉が使用された。1990 年代に入り、行政機構にも労働・社会保障部が作られ、新たな社会保障制度が整備され始めた。

■現在の中国社会保障制度

「中国の社会保障制度」~社会保険を中心として~ 10
現在の中国社会福祉制度の一般的な課題としては、
①財政支出が少ないため、一部の地域では社会保障基金の不足が指摘されていること
②中央政府が年金制度、医療保険制度などの基本的な制度の枠組みをつくり、これに基づいて、地方政府は各地域の実態と現状を踏まえた上で、各地方の制度基準をつくるという仕組みであるため、地域間の格差が存在していること
③全体の7割を占めている農村人口が現在の社会保障制度から除外されていることが挙げられる。

<都市部>

■社会保険制度

社会保険の種類としては、①医療保険、②養老(年金)保険、③工傷(労災)保険、④失業保険、⑤生育(出産)保険がある。都市部住民対象の社会保険制度は、国籍・戸籍(都市戸籍・農村戸籍)により参加が制限されるが、近年の出稼ぎ経済の発展により、北京市・天津市等の大都市では、地方農村からの出稼ぎ労働者も各種社会保険に加入することができるようになっている。

■医療保険制度

「中国の社会保障制度」~社会保険を中心として~ 17

医療保障の差は、都市・農村間の問題だけでなく都市内部でも格差拡大の傾向にある。大都市の大学卒業者で何ら医療保障を受けられない人の比率は、30%程度であるのに対し、小学校卒業者では70%程度にも達するなど、治療費用の全額自己負担を強いられる人たちが急増している。その原因の一つが、医療費の異常なまでの高騰である。現在、家庭の消費支出を圧迫する要因として食費、教育費につぐ三大支出の一つとなるほど、医療費の高騰は凄まじい。医療費の高騰は、当然、「軽い病気では病院に行かない、重病でも耐えられなくなるまで病院に行かない」との思考を生み出し、実際に多くの人々が病院での治療を敬遠している。
改革以前の医療は、低コストと比較的優れたパフォーマンスで国際的に高い評価を得ていた。しかし、市場化経済は医療水準の向上とともに、儲け主義の横行により、過剰処方・過剰検査が蔓延している。

■最低生活保障制度

生活困難者に給付を行う最低生活保障制度は、1993 年頃より一部地域で導入が進められ、1997 年以降、全国規模で整備が進められた。また、各地の最低生活保障制度をできる限り統一的に運営するため、1999 年に「都市住民最低生活保障条例」が公布され、全国に適用されている。地方政府の予算でまかなうことが原則とされているが、中央政府からも財政資金が投入されている。2006 年末の受給者は2,233 万人で、2000年の5.6 倍に達しているが、最近は、制度が全国をカバーするようになり、伸びは頭打ちになっている。

・対象者
収入(各家庭成員1 人当たり平均収入。現金収入及び現物収入を含む)が最低生活保障基準未満の都市戸籍を持つ住民である。具体的には次の通り。
①収入、労働能力、法定扶養者のいない「三無人員」
②失業保険受給期間が切れても再就職ができず、収入が最低生活保障基準以下の住民
③賃金・年金等をもらっても収入が依然として、最低生活保障基準以下の住民

・最低生活保障基準
各地の生活状況や財政状況等を勘案して、県級以上の地方政府が定めることになっている。概ね各地の平均賃金の20%~30%が一般的であり、全国平均で169元であるが、地域により相当ばらつきがある。最低生活保障基準が地域の平均食費を下回る行政地区も多数あり、最低生活保障基準はかなり低く設定されている。

■浮浪者等の救助

2003年「都市部浮浪者等救助管理規則」が正式に施行され、「自らの意志により無償で援助する」というボランティア精神に基づいて、生活の当てがない浮浪者等に対し食事・宿泊場所の提供、医療援助、帰郷援助等を実施する活動が展開されている。全国に設置されている救助管理ステーションは1,000ヶ所にものぼり、毎年約20万人が救助されている。

<少数民族と農村部>

■実力無き社会保障

経済発展の遅れは、社会保障にも影響する。少数民族地区の社会保険制度は、制度としては基本的に整備されているが、保険料支払能力及び給付能力が極めて弱いのが現状であり、社会保障基金が大きく不足する中で、経済発展の遅れによる保障対象のみが増加するという悪循環に陥っている。少数民族地区の社会保障制度は、「地方政府は保障したいが、実力が伴わない」という状態である。

■農村新型合作医療制度

農村の基本医療制度として、1959年農村住民の互助共済医療保険制度である「合作医療保険制度」が設立された。この制度は、年間1人1元程度を拠出することにより、治療費の全額または一部が保障される仕組みである。農村合作医療保険制度は、都市部の医療保険が強制加入であるのに対し、農民の自由意志による共済医療保険制度に過ぎず、政府の関与も少なかった。1970年代には、農村人口の95%が加入するまでに発展したが、1980 年前半運営主体となる人民公社などの伝統的な集団経済組織の解体、家族生産請負制の導入に加え、医療費の高騰に対応できず急激に崩壊した。
そこで、政府は、2002 年に農村新型合作医療制度を開始した。政府が組織・指導し、中央政府・地方政府・個人の保険料3者負担により、主に重病に対しての医療費用援助を図ろうとするシステムである。加入は農民の自由意志であり、保険料は、当初、中央政府・地方政府・個人がそれぞれ年10元ずつ拠出していたが、2006年より、政府支出が拡大し、中央財政20元、地方政府20元、個人10元が一般的となった。

しかし、新制度も医療費高騰には全くついていけていない。新制度では年間最高2,000~3,000 元の医療保険金を受けとることができるが、重病でなくとも、一度入院すれば10倍かかることもそう珍しいことではなく、早くも給付能力不足が囁かれている。農村住民の平均医療費負担が1人当たり300元程度といわれている中、年間50元/人程度の基金による医療保険が、高度な医療サービスを提供できる理由は無く、ある程度豊かになっても一旦病気にかかる家族が出ると、すぐにまた貧困に戻ってしまう現象が、農村ではしばしば見受けられる。また、農村新型合作医療制度は、経済がやや進んでいる地区等一部の地区で行われているのみであり、経済後進地区等の約7億の農村住民は、依然として医療保障がない状態にある。農民は長期間の加重労働を強いられ、病気に陥ることも少なくない。しかし、医療費が日ごとに高くなっている現状では、多くの農民は治療を受けることができない。

■農村最低生活保障制度

同制度は、広東省や浙江省など先進的に経済発展を遂げた一部の省・直轄市や大都市郊外などで1997年から試行実施されている。2006年末までに、24の省2400余りの農村で最低生活保障制度が立ち上げられており、2005年の受給者数は、850万人に達している。中央政府は今後速度を速めて、全国範囲で農村最低生活保障制度を整備していくこととしており、中央政府が貧困地区での制度確立に必要な補助金を提供することを条件に、各地方政府に、地域の実情に照らした農村最低生活保障制度構築を求めている。今後政府は、最低生活保障制度と特別困窮世帯救済制度に重点を置き、農村の生活保障に取り組む方針であり、全国規模で農村最低生活保障制度を打ち立て、「三農」問題への取り組みを強化する予定である。

■今後の展望

・都市化の進展により都市病が深刻化
都市化の進展に伴い、都市部の発展格差、特有の戸籍制度などが原因で人口が沿海部の大都市に集中し、就職難、大気汚染、交通渋滞、環境破壊といった都市病がますます深刻になっていった。

・都市化に伴い1億人に戸籍を付与
1978年から2013年までの間、都市の常住人口は1.7億人から7.3億人に増加し、都市化率は17.9%から53.73%に上昇した。しかし、都市部に戸籍のある人口の割合は2012年で35.3%にとどまり、常住人口の都市化率52.6%と17.3ポイントも差がある。
常住人口都市化率が2012年の52.6%から2020年までに60%前後に達し、戸籍人口都市化率は2012年の35.3%から2020年には45%前後に達する。このため、2020年まで1億人に居住している地域の戸籍を与えるという目標を掲げている。

・都市規模に基づく戸籍制度の差別化を検討
中国では、戸籍制度は単に人口登録の手段だけではなく、教育や医療、社会保険など社会保障全般に関わっている。それは、北京、上海、広州などの特大都市で特に顕著である。それらの地域の戸籍は価値が高く、取得希望者が大勢いるため、都市部の人口バランスが崩れ、「都市病」の問題が深刻化する要因となっている。現在、出稼ぎ労働者は中国産業労働者の重要な部分を占めている。中国特有の戸籍制度の影響で、現在2.34億人の出稼ぎ労働者および一緒に移動するその家族は、教育、就職サービス、医療、年金、社会保障型(中低所得者向け)住宅などの都市住民が享受している公的サービスを受けることができない。その上、農村に残る待機児童や女性、老人などの問題も日々深刻になっている。「新型都市化計画」はこれらの問題を解決するため、都市規模に基づき、戸籍登録制限を一定程度自由化する対策を盛り込んでいる。

■まとめ

以上より中国における社会福祉制度について簡単にまとめると
1.社会福祉制度は国家主導で1950年代(毛沢東時代)にほぼ整備されている
2.1970年末頃の市場経済化によって国家の持っていた社会福祉に関する権限は地方政府や企業に譲渡
3.結果、地方・企業財政を圧迫、格差拡大
4.政府が介入し立て直しを図るも資本の集中する都市部の保障が厚くなるばかりで都市と農村の格差は益々拡大。

総じて、市場経済化により資本と人が都市に集中するので政策としても都市化を推進する方向にある。また、市場化による格差によって生まれた生活困難者、浮浪者を政策でフォローして暴動が起こらないよう制御しているが、一方で暴動を鎮圧する公共安全費が国防費を上回っている状況なのでまだまだ不十分
日本に比べると社会保障に掛ける一人当たりの政策費用も低く、自己負担や相互扶助のかたちで国家財政を圧迫しないような制度としておりまだまだ社会保障の確立としては不十分な状況であると言えます。

政策的には2020年を目処に実現目標を掲げているので、都市部の今後の動き(政策へのぶら下がりっぷり)を注視しながら都市化に取り残された農村は政府に対するぶら下がりから脱して自治を取り戻すのか追視していきます!

次回は、現代における中国と金貸しの関係について追求したいと想います!

List    投稿者 nihon | 2014-09-10 | Posted in 01.どうする?マスコミ支配No Comments » 

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