2014年10月23日

中国どうなる16? 中国共産党と軍隊~軍が抱く党との不整合感~

前回は中国共産党と人事という題材で、中国共産党人事の一切を握っているが故の政治腐敗の状況を切開しました。

今回は、中国の軍隊と中国共産党との関係について詳しく観ていきたいと思います。エントリーの引用は全て「中国共産党 支配者たちの秘密の世界 リチャード・マクレガー著」からの抜粋です。
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◆人民解放軍の軍事力
 
中国では徴兵制を敷いていますが、現在は志願者だけで人員は足りていると言われています。
特に比較的貧しいと言われる農村部では、収入が安定している軍に志願する若者が多いようです。
その兵力を簡単に見てみましょう。
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表1 「軍事力比較」各国の兵力
日本 中国 韓国 北朝鮮 米国 ロシア
通常兵力
陸軍 151,641 1,600,000 522,000 1,020,000 641,470 270,000
海軍 45,518 255,000 68,000 60,000 333,248 154,000
空軍 47,123 330,000 65,000 110,000 344,568 167,000
海兵隊 (10,000)※1 (27,000)※2 206,533 (9,500)※3
その他 3,464 43,598 365,000
合計 247,746 4,585,000 655,000 1,190,000 1,569,417 956,000
予備役 ※4 56,379 800,000 4,500,000 600,000 865,370 20,000,000
準軍事組織 ※5 12,636 1,500,000 3,000,000 189,000 11,035 474,000
※1 中国人民解放軍の海兵隊「中国人民解放軍海軍陸戦隊」は、人民解放軍海軍に所属。
※2 大韓民国国軍の海兵隊「大韓民国海兵隊」は、大韓民国海軍に所属。
※3 ロシア連邦軍の海兵隊「海軍歩兵(Naval Infantry)」は、ロシア海軍に所属。
※4 日本の場合は、自衛隊の予備自衛官が該当する。
※5 「準軍事組織(Paramilitary)」は、軍隊とは別個の国境・領海の警備、暴動鎮圧・治安維持などに専門化された補助的な役割を担う武装組織を指す。日本の場合は海上保安庁が該当し、国外では、アメリカ沿岸警備隊、大韓民国海洋警察庁、ロシア連邦保安庁ロシア国境軍、中国人民武装警察部隊、朝鮮人民警備隊などがある。

表2 「軍事力比較」各国の軍事費(国防費・防衛費)と輸出入額

日本 中国 韓国 北朝鮮 米国 ロシア
軍事費
支出額
(日本円換算)
※1
545.3億ドル
(4兆3623億円)
1,292.7億ドル
(10兆3417億円)
282.8億ドル
(2兆2624億円)
不明 6,895.9億ドル
(55兆1672億円)
641.2億ドル
(5兆1298億円)
対GDP比 1.0% 2.1% 2.7% 不明 4.7% 3.9%
武器の
取引
輸出額 – ※2 13.6億ドル
(1084億円)
2.3億ドル
(180億円)
不明 99.8億ドル
(7987億円)
78.7億ドル
(6299億円)
輸入額 2.5億ドル
(203億円)
11.1億ドル
(889億円)
14.2億ドル
(1137億円)
不明 9.5億ドル
(756億円)
0.1億ドル
(9.6億円)

※1 1USドル=80円で計算
※2 武器輸出三原則により輸出額は事実上のゼロとなっている。

上記はこちらよりお借りしました。
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ご覧のとおり、軍事費はアメリカについで世界第二位。兵力にあってはアメリカを凌ぐ人員を揃えています。
また中国は近年軍事費に力を入れており2014年の国防費予算は8082.3憶元(約1317億ドル)、前年比12.2%増です。これは中国の経済成長自体が急速な右肩上がりとなっているため、それに比例して軍事費も上昇しているとの見方が強いです。
参考
画像はこちらよりお借りしました。
莫大な軍事費は、ロシア製の空母ヴァリヤーグを購入したりと、海軍の整備に投入されています。
これは、南シナ海における制海権や、その先のインド洋、ペルシャ湾を視野に入れた政策によるものと言われています。
参考
◆人民解放軍の成り立ち~設立時から党の私設軍~


人民解放軍は一見、中国の国軍のような印象を持ちますが、実質は中国共産党に属する政党軍隊です。

1921年に中国共産党が設立、その6年後の1927年に中国共産党の軍事組織として「中国工農紅軍」が結成され、それが「人民解放軍」となり今日に至ります。

この「中国工農紅軍(通称、紅軍)」は、蒋介石の中国国民党を打倒するために集められた鉱夫、農民、労働者らの集団がその始まりで、1927年8月に南昌蜂起(周恩来,朱徳,賀竜,葉挺らが指導),9月の湖南,湖北の秋収蜂起(毛沢東らが指導)など各地で暴動を起こしていました。

毛沢東と朱徳が共産党を率いる頃には「朱毛軍」と呼称されてもいました。中国共産党が政権政党となって以降は、文字通り国軍として君臨していますが、成り立ち当初からの私設軍隊であることには変わりありません。

 

◆軍に「党への絶対忠誠」を強いる中国共産党

国内が安定し、また米国や台湾、日本とも良好な関係が続いていた2009年の前半に、ある主要な党機関紙が、軍の最高幹部の一人が執筆した記事を掲載した。PLA(人民解放軍)を統括する最高機関、中央軍事委員会のメンバーである李継耐(リ・ケイタイ)将軍が寄せたその論評は、現在は安定した時代などではなく、重大な危機に瀕しているのだと警鐘を鳴らしていた。
「軍がニュートラルな存在とか国家・国民のための存在とかいう考えは誤りであり、われわれはそのような考えに断固として反対する」彼は党機関紙『求是』でこう述べている。「PLAの全軍は常に共産党の理念を自らの理念として、また共産党の意思を自らの意思として掲げなければならない」
一つの政党が軍を支配している中国では、軍隊は政治的中立であることこそが、党に対する背信に等しい重罪とされます。これは、かつてソ連共産党が西側諸国の国内侵食に屈したのは、軍部をコントロールし続けられなかったからだという反省に基づいています。そのため人民解放軍の幹部学校では将来有望な将校たちにこの理論を叩き込んでいます。
「東欧諸国における大変動ののち、帝国主義はまるで暴れ馬のように世界中を自由気ままに走り回り、発展途上の社会主義国家を長期にわたって、不安定な状況に追い込んだ。」
「西側の敵対勢力は、中国人民解放軍の『西洋化』と『分割化』のために費用を惜しまず、あらゆる手段を講じるだろう。そして『軍を党から切り離す』という考えを広めようとするだろう」
2009年、国内で最も影響力のあるシンクタンク、中国社会科学院の機関紙に雇明智(コ・メイチ)少将は、論評を寄せ、「思想、政治的見解、組織において党は軍を支配すべきである」と述べている。さらに次のページでは「人類の普遍的価値としての自由、平等、人権という考えは、西側資本家階級の覇権主義が生み出した絵空事に過ぎない」と述べて、そういった思想の伝播を痛烈に批判している。
国防予算が膨張し続け、軍が近代化していくことは世界情勢の流れから不可避ですが、これが進行することは即ち「党の軍」という根本思想を離れ、軍がプロの軍隊へと変貌していくことを意味します。これを危惧してか、上記のような論説は近年増えている様子です。
これは一体何を意味しているのか?軍が党の意思と一心同体であれば、このような論説をわざわざ発表する必要がありません。つまりその逆でないかという仮説が成り立ちます。

現在は、どうやら軍と党に何らかの距離と相違があると見られます。それは一体、何なのでしょうか?

この疑問を明らかにするためにも、もう少し人民解放軍について観ていきます。

◆人民解放軍の営利ビジネス

人民解放軍はかつて、貧しい予算では賄いきれず、自前で資金を集めるために様々な仕事を行っていました。

1950年代の後半、中国国内(大慶)で原油が発見された。だが当時、採掘能力を持つ(たとえばスタンダード・オイル社やエクソン・モービル社のような)大石油会社は国内になかった。そのため毛沢東は何万もの兵士たちを使って原油を汲み上げることにした。
1950年代のPLAは、黎明期の石油産業の発展の先頭に立ったことで、すでに工業技術を身につけており、第十九集団軍は師団を一つ分離し、これが共産主義中国の最初の石油工学兵団となった。
PLAは建軍以来、つねに本来の軍事活動に加えて副業的な仕事にも携わってきた。収入を増やすため、あるいは乏しい予算を補うために自力で稼がなかればならなかったのだ。
PLAが営利目的のビジネスに力を入れ始めたのは1980年代で、トウ小平の指示によるものだった。1980年代後半にはPLAの商業部門はおよそ2万もの会社を抱え、そのピークを迎えた。大慶油田の開発による石油事業に加えて五つ星ホテルや製薬業、軽工業、正規の商取引から密輸、兵器の輸出にまで手を出すようになった。その利益は、名目上は兵士の生活水準向上のために用いることになっていたが、実際はその大半が腐敗した将校、その家族や取り巻きのポケットの中に消えた。
党よりさらに秘密主義のPLAは、もはや国家のなかの国家となっていた。軍は党と国を守るという責務を遂行すると同時に、上層部が密かに商業的利益を追求する場ともなった。
しかし、この営利ビジネスも1998年、江沢民の決定により撤退することになります。そのかわり党は軍に対してこれまでになく豪華で近代的な兵舎と十分な報酬を与え、予算も一段と増やすことになりました。

現在は軍事予算も潤沢にありますが、かつては「自分たちの力で自集団を強くする、集団を守る」という主体的な意識が根底にあったと考えられます。集団存続を第一課題とする中国の民族性が反映されていることが見て取れます。

 

◆軍をダメにする政治委員という管理システム

人民解解放軍は党によって管理されていますが、それは他国の軍にはない独特のシステムです。
軍の内部に日常業務に至るまで偏在的に張りめぐらされた党の管理システムや9万もの下部組織は、時代遅れと言っても過言ではない。「軍をダメにしているのはこの政治システムです」と、ある退役将校は私に言った。
中国では建軍当初から、軍の将校の階級に二重の統率システムがあった。つまり一つの地位を同じ階級の二人の将校(一人が指揮官、もう一人が政治委員)が占める。こうすれば頭が二つある人間のように、互が互いを監視しあうことができる。二人の任務の違いを識別するのは難しく、誰が誰にいつ従うのかも曖昧だ。
かつては指揮官は政治委員の意見を仰いで答えなければならなかったらしく、同じ将校であっても二人の立場は明らかだったといいます。ところが近年になって、指揮官は政治委員が徐々に脇に追いやられ、何を思おうが全く気にしていないと言われています。
口先では党の支配を認めながらも、若い世代はより軍事力を高めることに関心が向いている。「世界のめまぐるしい変化に敏感な若い世代は、世界各国に負けないグローバルな軍事システムを構築したいと考えています。」
このような様子から、党が軍を管理するシステムとして運用されている政治委員体制や、党が考える軍としての在り方に対して、軍が違和感を抱き、党と軍が一枚岩に成り切れていない実態が、浮かび上がってきます。

そのためか、党中央宣伝部は、軍との対立を最小限に抑えるため、軍が独自の意見を公の場で表明できないようにしています。軍の意見を禁じる代わりに、党は大々的に軍の宣伝を行おり、その演出はさながらフィクションであるとの声もあります。

このような党と軍との構図を見ると、“国家”を視野に入れている軍からすれば、腐敗が進むだけの党に対し「党は国家の行く末をどう考えているのか」という不整合感だけが蓄積されているように映ります。 

◆まとめ

人民解放軍は、軍閥時代に敵を倒し自集団を守るための私設軍として設立。最初の構成員は鉱夫、農民、労働者らでした。また、強い集団を創るために軍事以外の仕事で資金を捻出してきた歴史を持つ人民解放軍は、集団存続第一のもと自給を取り入れながら軍事力を蓄えてきたと言えます。
おそらくこれまで軍は軍なりに世界情勢を読み、自らの進むべき方向、取るべき方針を模索していたのではないかと考えられます。

軍のビジネスを廃止した江沢民は、表向きは軍上層部の腐敗を排除するという目的でしたが、本音は軍の自活的な活動によって中国共産党の支配体制が、内部から崩壊していくことを恐れたためではないかと考えられます。

また今日、党が軍に対して数々の「絶対忠誠」キャンペーンが繰り広げているのも、そんな軍の独断を許さないという、どちらかと言えば党の腐敗した体制に、軍を強力に組み込もうとする意図の顕れなのかも知れません。上記に紹介した事例から、党は武器を持つ軍を恐れているようにも見えます。

軍事という世界情勢、そのパワーバランスの外圧を直接受けているのは、中国共産党ではなく人民解放軍と見てよいでしょう。そういう意味では、自国を外圧(西側の圧力)から守るという意思を中国で最も強く持っているのは建軍以来、集団第一を貫いてきた人民解放軍なのかも知れません。

そんな人民解放軍と中国共産党との対立が、近い将来に顕在化してくる可能性もあるのではないかと考えます。

List    投稿者 nihon | 2014-10-23 | Posted in 01.どうする?マスコミ支配No Comments » 

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