2014年08月05日

脱グローバリズムの可能性をインドに探る プロローグ

『脱グローバリズムの可能性をロシアに探る プロローグ』に続き、同じくBRICsの一角を形成するインドにも注目していきたいと思います。

インド・国旗インドは、1980年代まではアジアの中でも成長が遅れていた国でしたが、1991年に「新経済政策」を打ち出すと、それまでの混合経済から市場経済化へと大きく舵を切り、2000年前後からのIT部門の躍進も相まって大きな成長を遂げて、BRICsの一角として台頭してきました。

また、インドは現在でも中国に次ぐ世界第二位の人口を要していますが、2030年を待たずして中国を抜いて人口では世界一になると予測されており、今後の成長を占う上では、25歳以下が人口の50%を占めているという強みもあります。更に、2年前に5%だった中産階級が2020年には40%(その数5億人)にまで広がるという予想もあり、その動向が次代の巨大市場として世界から注目されています。

こうして、近年の成長振りや潜在的な市場規模に目を向けると、インドは現在行き詰まっているグローバリスト達の、今後の格好の進出先のようにも見えます。

しかし、もう一歩踏み込んで見てみると、インドには欧米のグローバリズムには簡単に染まらない複雑さや独自性、強かさがあり、その特徴の中に、これまでの市場拡大一辺倒の社会とは一線を画した社会形成の可能性が見出せそうです。

今回は、現代インドを概観する中で浮かび上がってくる特徴や疑問を追求ポイントとして取り上げ、今後、シリーズを通じてそれらのポイントの追求を進めながら、脱グローバリズムの可能性をインドに見出していきます。

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脱グローバリズムという視点でインドの現況を見ると、以下のような特徴や、疑問が浮かびあがってきます。

【1.金貸し支配度が低いのは何故か?】

delhiイギリスの植民地であったこと、市場経済化を通じたここ20年の発展などから、インドには外資の侵食や支配度が高いイメージが沸きます。実際、中央銀行の設立、緑の革命、中国・パキスタンとの緊張関係⇒軍備増強、核武装の実現などの動きからは、インドにも金貸しの手が入っていることが伺えます。

しかし一方で、グローバル市場の拡大という視点で見ると、企業の外資による侵食が少ないこと(上位100社の企業の9割以上は国内企業)、急速に増えてきている中産階級をはじめとする大衆への市場原理の浸透度が低いことなど、例えば日本と比べて、まだまだ金貸しによる支配度は低くとどまっています。

金貸しはなぜ支配度を強めないのか? 強められないのか? その必要がないのか?脱グローバリズムを考える上で、インドの金貸し支配度の低さは気になるところです。

 

【2.自給・自治意識の高さ】

indeia collageインドには、市場化後も国内産業を保とうとする傾向や、独立意識の高さなどから、自給・自治意識の高さが感じられます。インドは、国土の全域が統一されて安定していた期間が短く、独立までの長い歴史の中では、常に群雄割拠の戦乱の中にありました。また、イギリス統治下にあっても、大小600にのぼる藩王国が防衛・外交を除く自治権を持って各地を統治してきました。その基盤は現在も州という形で各地に引き継がれています。

そうした藩王国の自給・自治の基盤が、現在でもインド各地で自給・自治意識の高さを保ち、一定の本源性や共同体性、土着の風習や規範を残存させる要因にも、欧米的な価値観の浸透や画一的なグローバル化の障壁にもなっていると考えられます。

日本においても江戸期には幕府の支配の下、藩が各地を治めていましたが、日本の場合、明治期以降は一気に近代化が進み、第二次世界大戦後は更に欧米の価値観に染め上げられて現在に至っています。

インドは何故独自性を保ち続けていられるのか?インドの自給・自治意識の高さの背景に可能性見つけます。

 

【3.観念能力の高さ】

インドは数学の0を生み、世界的宗教や哲学の発祥地でもあります。人口が多いので人並み外れた優秀な頭脳の持ち主が現れる可能性ももちろん高いのですが、インド人はITや経済学そして医学の世界でも国際的に活躍しています。アメリカの科学者の12%、医師の38%、NASAの科学者の36%がインド人だといわれ、ハイテク企業で見てみると、マイクロソフトの従業員の34%、IBMの従業員の28%、インテルの17%、ゼロックスの13%をインド人が占めています。

また、インドの指導者層の多くは、欧米の大学で学び、学位を取得していますが、欧米的な価値観に染まることなく、インドに戻ってからは母国のために欧米と渡り合っています。

前述の様に、インドは常に群雄割拠の戦乱の中にあり、気候風土・民族・言語・宗教の多様性も相まって、国家統合が非常に難しい国です。その常態化した不整合感と強い統合欠乏が、世界的な宗教や哲学的思考の背景にあり、現代も発揮される高い観念能力の背景にありそうです。

高い観念能力の背景や、教育に着目して、インドの観念能力の高さを探っていきます。

 

【4.多様性を許容し、国家を成立させている統合観念はどのようなものか?】

インドは、29の州と6つの連邦直轄領からなる連邦共和制国家です。加えて、憲法で公的に認定された言語だけでも21種類、方言も含めると800種類の言語が話されており、主な宗教だけでも9種類は信仰され、4つの言語族が入り混じった多様性の国です。これだけ複雑な国がどのような観念の下にひとつにまとまっているのか?ここにも今後の世界を考える上で、参考になる点がありそうです。

ひとつ切り口として考えられるのは、国民の8割、10億人弱が信仰しているにも係らず、主にインドでしか広がっていないヒンドゥー教の存在です。

sivaヒンドゥー教は、インドに侵入したアーリア人が信仰していたバラモン教が、土着の信仰や世界観、規範を取り込んで変容して出来上がった宗教で、一神教のような絶対的なものではなく、他の宗教にも寛容な懐の広さがあるようです。

現在の国の定義では、インド以外の地で発祥した特定宗教以外の全てがヒンドゥー教という、曖昧さもあり、宗教の形をとりながら、実のところ現代まで数千年に渡って練り上げられた、インドの土着的な思想や規範の体系のようなものの様にも見えます。

また、ヒンドゥー教と憲法では廃止されているカースト制度は、現在でも、就ける職業の限定・役割分担や同カースト間の密接な人間関係として、実生活の中に色濃く残っています。混沌としたインドのインドらしさの根幹部分を形作る観念としてヒンドゥー教と併せて追求する必要があります。

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こうして幾つかの特色や疑問を挙げてみると、多様で混沌としたインドに一つの纏まりとしての存在感や独自性をもたらし、それを保ち続けているのは、人々の潜在思念に照らして長年練り上げ続けられてきた、何らかの思想、観念体系にあるように思えます。

次回以降、前述の4つの疑問点や特色の追求を足がかりに、ヒンドゥー教などのインド独自の思想の底流にある観念に注目しながら、脱グローバリズムの可能性を探っていきます。

 

List    投稿者 mamoru | 2014-08-05 | Posted in 09.国際政治情勢の分析No Comments » 

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