緊迫するウクライナ危機~情報戦で欧米に勝るプーチンのロシア~
今回は、緊迫した情勢が続くウクライナ危機についてとりあげてみます。
ウクライナ危機
2013年11月、ウクライナのヤヌコビッチ大統領は、EU加盟の一歩となる「連合協定」を見送って親ロシア路線に舵を切った。この事件をきっかけに、親EU派の市民や野党指導者たちが反政府デモを起こした。ソチオリンピックが始まるとエスカレートし、死者が100人にも上るなど収集不能になった。そして反政府側は主要施設を掌握、ヤヌコビッチ大統領がキエフを脱出するに至った。この緊急事態にウクライナ議会は、ヤヌコビッチを解任すると同時に、トゥルチノフ議長を大統領代行に任命した。こうして、「民主主義」を唱えてきた欧米側勢力による、流血革命が起こったのである。
オリンピックが終わると、ロシアはウクライナのクリミアに「クリミア自警団」という名目でロシア軍兵士を投入し、半島を実効支配した。これに対し、西側は経済制裁をおこなっているが、大部分の天然ガスをロシアに依存しているEU諸国は及び腰になってしまっている。(リンク)一方ロシアは中国と天然ガスの契約が合意間近であり(リンク)、制裁を恐れないその強気な態度を維持している。
このウクライナ危機は、世界大戦の引き金か?とも言われるほど重大らしい。それほどまでに、ウクライナという国の持つ重要性は高い。豊かな人口、広い国土、高い技術力、安い労働力と、あらゆる観点からロシアにとっても欧米にとっても死活的なのである。そして中でもクリミア半島は、天然ガスの輸送の経由地でもあり、歴史的に争われてきた要所だ。ウクライナを誰がおさえるかで、今後の世界を大きく左右するだろう。
また今回の危機では、今まで(少なくとも表向きには常に)「民主主義」を標榜してきた欧米側の勢力が、ネオナチ等極右勢力を巻き込んで流血革命を引き起こしたという点で、新しい事態であるといえる。もはや、今までのマスコミ支配等の手法では思い通りに政権や民意を動かすことができないようだ。
情報戦で上を行くロシア
・ウクライナ危機も予想済み
上で書いたウクライナ危機は、実は(リンク)にあるように、2010年に「ウクライナ内戦」と米英独で合意された、計画的なものだった。しかし、それに対するオリンピック後の早いロシアの動きも、同じく用意周到な軍事作戦であったことはよくわかる。欧米の計画はその情報網でおさえた上で、ヤヌコビッチ政権が崩壊した場合にもしっかり備えていたと思われる。それがオリンピック直後の迅速な秘密部隊の展開であった。
また、ロシア国内でオリンピックが行われ大きくは動けない中、欧米にダメージを与えるリークが発信された。
2月7日、まさにオリンピックの開会式その日に、米国の欧州担当のヌーランド国務長官補と駐ウクライナ大使の電話会話の内容がすっぱ抜かれユーチューブに投稿されたのです。
それは、米国が、直接ウクライナにおいてどの野党がどのような役割をするべきか指導している話で、どの人物をウクライナ政府に送り込み、どのような話し合いが行われるかまで決定している内容だったのです。
まずはボイス オブ ロシアから全ロシア並びに全世界に向けてユーチューブは発信されました。ロシア側からウクライナにおける米国の諜報活動の一端を暴露したのです。(リンク)
このように、近年ロシアが関与していると思われるリークが次々におこっている。(リンク)スノーデンを味方につけた、KGB出身のプーチンの諜報能力は計り知れない。
・拡大する影響力
3月16日にクリミアで行われた「ロシアへの併合」の是非を問うた住民投票では、95%以上の住民がロシアへの編入を支持した。プーチンによるプロパガンダの成功ともいえる。欧米側の戦略(反対派への支援等)も事前に掴んでおり、巧みに利用して勢力を拡大している。アメリカや日本のメディアではいつものように、国際法を犯して主権国家を軍事的に侵略するロシアと、これを阻止し、ウクライナの民主主義を守るアメリカとEUという構図が喧伝されている(リンク)が、世界的に見ると、ロシアが一方的に非難されているような状況ではない。クリミア併合を認めない国連決議への賛成派は100国に対し、反対・棄権も69国にも上っている。これは、後16カ国がロシア側につけば、決議がひっくり返るほどのわずかな差である。(リンク)
また、英インディペンデント誌の投票で、世界最高のリーダーにプーチンが選ばれている。
インディペンデント紙は3月末、HP上で、世界の指導者の人気投票を実施した。8日時点で得票率92%の圧倒的首位を占めているのがロシアのプーチン大統領だ。オバマ大統領は2%、ドイツのメルケル首相は4%を占めるのみ。(リンク)
ロシア国内では依然人気は高いが、世界的にも認められているのだ。
今後、ロシアはどう動く?
今協議されているIMFによるウクライナ支援さえも、うまく利用する可能性が高い。そして、今回のクリミアでの作戦で欧米を圧倒したロシアは、引き続きその勢力圏を拡大していくだろう。
1)財政的に破綻したウクライナを支援するために、IMFが乗り出してくる。IMFは、社会保障費などの大幅な削減を含む厳しい緊縮財政を要求する。この結果、国内では抗議運動は起こり、ウクライナの政権は不安定化する。
2)これはロシアにとって都合のよい状況となる。ロシアは時間をかけながらEU寄りの政権を不安定化させ、新たに親ロシア派の政権の樹立に成功することだろう。
3)したがってロシアは、ウクライナに親ロシア派の政権を樹立するために、東部に武力侵攻する必要性はまったくない。プーチンは武力侵攻のコストをよく分かっているので、これを実行することはない。
4)ロシアのクリミア併合は、ロシアがなにをできるかを西欧に示すことが狙いであった。同じことを他の地域にもするとは言えない。
5)ロシアはグルジアとモルドバにも軍事侵攻はしない。両国にはロシアの飛び地があるが、そこのロシア人住民への支持を表明することで、グルジアとモルドバ政府がEU寄りにならないように牽制するはずだ。
6)これに対するアメリカの対応も限定したものになるだろう。ロシアに対するEUの姿勢は分裂しており、共通した強い対応策を取ることはできないからだ。
7)アメリカはグルジアとモルドバのEU加盟を支持するだろう。だがロシアを過度に刺激しないために、これらの国々が、軍事条約であるNATOに加盟することには消極的になる。
(リンク)
近代以降、教育やメディアを通じて欧米の基準=国際基準というような世界が築かれてきた。欧米が支持する政党が正しい、そうでないリーダーは野蛮、強権的、独裁…という洗脳が世界中で行われていた。しかし、今回の状況をみてももはやそのような世界は終わりを遂げ、(日本はまだまだだが)非欧米勢力の影響力が大きくなってきている。逆に言えば、欧米の情報コントロール力や諜報能力がここにきて失墜しているともいえる。このタイミングを利用して、ロシアや中国が勢力をより拡大していけば、今後数年間で世界の覇権構造は大きく動きそうだ。
今回の記事で、プーチンが確実にその影響力を増して欧米を圧倒していることがわかった。しかし、プーチンは何を狙っているのだろうか。彼は、本当に脱金貸し支配のリーダーといえるのだろうか?あるいは、ただの復古主義者なのだろうか?次はそのあたりにチャレンジしてみたい。
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