2008年05月11日

多極派VS一極派のせめぎ合い①

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昨年末から、「日経をはじめとする日本のマスコミがドル暴落→ドル基軸通貨体制の崩壊を後押しするような記事を連発するのはなぜか?」という疑問を感じていた。それが最近、米英のマスコミでは、アメリカの金融危機は最悪の状態を脱したという報道が始まったらしい。
その背後には国際金融資本同士のせめぎ合いがあるようだ。ドルを暴落させて多極化を目論む多極派VSドル基軸通貨体制を保持せんとする一極派との空中戦の様相を呈している。
以下、『田中宇の国際ニュース解説』の5月10日の記事「アメリカの覇権は延命する?」からの引用。
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昨夏以来のアメリカの金融危機が最悪の状態を脱したという報道が、米英のマスコミで散見されるようになった。「金融危機は最悪の事態を脱したようだ」「いや、まだまだだ」といった議論が4月から載るようになり、5月1日にはイギリス中央銀行(イングランド銀行)が「危機はまだ残っているが、今後数カ月のうちに、しだいに投資の活況が戻ってくるのではないか」とする予測を発表した。

英米の金融危機が終わりつつあるという雰囲気作りが市場でさかんになると同時に、ヨーロッパ大陸では景気が悪化しそうだという見方が増えているという景況感悪化の話が出てきた。アメリカは不況だが欧州は良いという従来の見方をくつがえす展開になり、ドル安ユーロ高に歯止めがかかり、ドル相場は持ち直した。欧州中央銀行も米連銀も「強いドルが望ましい」と考えているとも報じられた。

とはいえ、米経済の全体像を見ると、経済環境は良くなっていないどころか、悪化を続けている。米経済の65%は、米国民の消費で成り立っている(アジアと異なり、製造業の比率が低い)。米国民の家計が大赤字では、米経済は不況から立ち直れない。米住宅市況は悪化の一途で、市況が底を打つまでは、サブプライムの破綻も終わらない。

しかも米当局は、金融危機への対策として、ドルの大規模発行を続けている。米当局はドルの刷りすぎ状態を隠すため、2006年から通貨供給量(M3)を発表しておらず、代替指標としてセントルイス連銀が発表しているMZM(money of zero maturity)がある。MZMによると、昨年はドルの増刷は年率9%だったが、今年1-3月には年率30%の驚くべき大増刷となっている。

連銀は今年、金融危機対策として大幅な利下げを行い、銀行への巨額の救済融資を行っている。しかし、それに伴ってドルの大増刷が実施されており、増刷はインフレを悪化させ、石油や穀物などの世界的な高騰を招いている。ドルの価値の下落を嫌気して、世界からアメリカに流入していた投資資金が止まっている。世界の投資家は今年1-3月、米欧に投資されていた1000億ドルの株式投信の資金を引き揚げている(昨年同期は190億ドルの流入)。

このように、危機が去ったわけではないのに、3月後半以来、アメリカの株価は底を打ち、上昇傾向に転じている。株価の上昇を理由に「もはや危機は去った」とマスコミは喧伝している。

実体とかけ離れた相場の上昇傾向の背後に、何らかの政治的な仕掛けがあるかもしれない。良く指摘されるのは、ホワイトハウスに作られた「下落防止チーム」(Plunge Protection Team)が、統計指標を粉飾し、主要銀行を動かして潰れそうな銀行を救済させたり、株価が急落した日にS&P500やダウ平均の銘柄の株を買わせたりしているという話だ。今回の、昨夏以来の金融危機でも、昨年8月中旬の米株急落の際、金融機関に株を買わせたのではないかとか、今年3月のベアースターンズ救済劇を演出したのではないかとか指摘されている。今年3月以降、このチームが活躍し、米経済の実態と乖離した株価の再上昇など金融情勢の好転が演出されているのかもしれない。

とはいうものの、下落防止チーム以上に、米金融の好転を演出する黒幕なのではないかと私が疑っているのは「イギリス」である。ホワイトハウスや連銀は、アメリカの覇権を自滅させようとする傾向があり、以前は自滅的な金融政策を展開してきた彼らが、3月中旬から急に態度を180度転換し、自国の経済覇権を延命する政策に転換するとは考えにくい。

チェイニー副大統領ら隠れ多極主義者が、何も知らないブッシュ大統領を騙して色々な失策を展開し、自国の覇権を壊して世界を多極化しようとしたが、イギリス政府や、米国内の米英中心主義者たちが、アメリカの自滅を止めるためブッシュに取り入って入れ知恵し、下落防止チームを発動させて、延命策が開始されたのではないかと考えられる。

バーナンキ連銀議長は、昨年末からの何回かの議会証言で、金融危機の悪化を率直に認めすぎ、そのたびに相場を引き下げている。率直なのは良いが、相場を引き下げるほどのことを言う必要はないはずだ。グリーンスパン前連銀議長は今年2月末、サウジアラビアでの講演で、アラブ産油諸国にドルペッグを止めることを勧めたが、これもドルの自滅を誘発する危険な発言だった。

連銀は、もともと第一次大戦前にニューヨークの大資本家たちによって作られた組織だ。ニューヨークの大資本家たちは当時から今まで、折に触れて、ホワイトハウスに子飼いの勢力を送り込み、世界の覇権の多極化や、中国やロシアやアラブ産油国などを経済大国化して世界の経済成長地域を拡大することを画策してきた。連銀の歴代議長の言動に多極主義者くささが感じられるのは当然とも言える。グリーンスパンの前の連銀議長だったボルカーも多極主義的な人だ。

連銀やホワイトハウスの隠れ多極主義者たちによって、金融危機がドルの危機とアメリカの覇権の崩壊に発展するかという3月中ごろに、イギリスを筆頭とする米英中心主義の勢力が出てきて崩壊を止め、アメリカは延命策に転じた。そう思える一つの理由は、3月後半からの延命策の多くが、米英や米欧、もしくはG7による協調体制によって行われているからだ。G7は、アメリカが動かしているように見えて、実はイギリスがシナリオを描いている機関である(アメリカは時々G7を攪乱する行動をとるが)。

ベアースターンズが救済された数日後には、イギリスとEUの中央銀行が米連銀と協調し、各々が保有する金についてスワップ取引を行い、金相場を引き下げた。当時、市場には「ドルはもうダメだ」という見方が広がって、ドル売り金買いの動きが広がっていた。英米欧の連銀は、いっせいに金を売る動きをして金相場を引き下げ、金からドルに資金を戻し、危機に瀕していたドルをテコ入れした。

4月前半には、ワシントンでG7の金融会議が開かれた。異例なこととして、ウォール街の大手の銀行家たちが招待され、各国の財務相・中銀総裁たちと、金融危機の回避策について話し合った。G7が民間企業経営者を招待するのは前代未聞だった。このG7会議は、米金融界を動かすホワイトハウスの下落防止チームにイギリスや日独仏などが参加したような形だった。

このG7では「ドルやポンドが突然急落する恐れがある」という発表もなされている。こちらはドル急落を誘発しかねない発表なので、多極主義者的な感じだ。アメリカの経済覇権を守りたい英政府と、自滅させたい米政府との相克が感じられる。

~この頁続く
(本郷猛)

List    投稿者 hongou | 2008-05-11 | Posted in 09.国際政治情勢の分析No Comments » 

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