アメリカのイランへの歩み寄りは“不安定化のための和平”!?
緊張状態と言われて久しいアメリカとイランの関係。
しかし、7月19日のイランと国連側(安全保障理事国+ドイツ)の交渉におけるアメリカ国務次官の出席、トルコを仲介国とした交渉、テヘランに米政府の外交代表部を30年ぶりに再開する検討、というように急速に緊張状態を緩和する方向へ動いている。
アメリカとイランの関係については、2008年7月17日の当ブログの記事でも触れているが、そこにイスラエル、そして中東の状況を組み込んでもう少し考えてみたい。
1980年代以来、米政府の対イラン強硬策は、主にイスラエルのためにやってきた政策である。イスラエル右派は70年代後半に米政界での影響力を拡大し、1979年のイラン・イスラム革命と、その直後のテヘラン米大使館人質事件を誘発し、イスラエルに有利な中東戦略を米にとらせた。イランでは、親米反イスラエルのパーレビ国王(シャー)の政権が倒され、反米反イスラエルのイスラム主義ホメイニ政権ができた。米イラン間の敵対が強まったが、米は人質占拠事件でイランの大使館を失っており、イランについての諜報はイスラエルに頼らざるを得なくなった(イランには多くのユダヤ人が住んでいた)。
イランは革命後、イラクとの8年間のイラン・イラク戦争に入り、中東でイスラエルにとって最も脅威だったイランとイラクは相互の戦争で自滅的に弱体化した。1990年代には、米クリントン政権がイランとの和解を模索したが、米政界では依然としてイスラエル右派の支配力が強く、対イラン制裁解除は許されなかった。2001年の911後、米は完全にイスラエルの支配下に置かれたかに見えたが、実際にはブッシュ政権は、イスラエル好みの好戦的な中東戦略を過激にやりすぎることで、イスラム主義の台頭、イランとヒズボラ・ハマス・シリアの結束など、イスラエルにとって致命的に不都合な事態を引き起こした。イスラエル右派の中に「隠れ反イスラエル」的な二重スパイ勢力が混じっているのだろう。
世界のユダヤ人社会は、表向き「一枚岩のかたい結束」を演じているが、裏ではイスラエル建国前から、活動家的なイスラエル建国派=シオニストと、黒幕資本家的・親ディアスポラ的な建国反対派とが対立暗闘してきた。チェイニーはシオニストに人気だが、それは騙しの成果であり、実際には黒幕資本家側の人だろう。黒幕資本家は、ロスチャイルド系のヤコブ・シフがロシア革命に資金援助したころから、ロシアや中国を強化し、イギリス(のちに米英)中心の世界体制を壊して多極化する拡大均衡戦略を進めていたが、何度もイギリスに阻止された(冷戦など)。
イラク侵攻後、チェイニーの過剰好戦戦略は、イスラエルにイランを攻撃させ、イラン・シリア・ハマス・ヒズボラがイスラエルに報復して中東大戦争を起こし、イスラエルを潰す試みになった。イスラエル政府は、いったんはチェイニーに騙されて06年にヒズボラと戦争し、一時は自滅の道に引っ張り込まれかけたが、ゴルダ・メイア以来の英雄的女性指導者と目されるツィピイ・リブニ外相らの活躍によって、自滅的戦争を何とか食い止めた。イスラエル政界では、右派の野党リクードは好戦的で、チェイニーやネオコンなど米の右派とつながっているが、今のイスラエル政府・オルメルト政権は、2005年にリクードを捨てて中道化したシャロン前首相の流れをくむ現実派である。
「米とイランの急接近」田中宇の国際ニュース解説より
イスラエル建国はユダヤ民族の悲願として取り上げられることが多いが、全ユダヤ民族が望んでいるわけではない。
中東世界の緊張状態につけこんで、軍事産業や資源取引、それらに投資するための金融を扱って莫大な利益を得ている者たちにとっては、建国の確率よりも不安定な情勢を維持することが重要なのだ。
イスラエル政府は最近、トルコの仲裁を得て今春から開始したシリアとの和解交渉の工作、ハマスとの相互停戦の実現、ヒズボラとの捕虜交換といった、周辺各勢力との緊張緩和・情勢安定化戦略を進めている。チェイニーらは、イスラエルのオルメルト首相が、米のユダヤ系財界人から賄賂的な資金を受け取っていたことをイスラエル捜査当局に流し、自滅の道から脱出しようとするイスラエル政府を汚職スキャンダルで潰し、リクードに政権を交代させ、戦争を再発させようとした。
しかしオルメルトは辞任せず粘り、7月16日には、ヒズボラとの捕虜交換を実現し、着々とイスラエル周辺の緊張を緩和する作戦を進めている。ガザのハマスは、停戦協定を破ってロケット砲をイスラエルに撃ち込むガザ内の他のイスラム武装勢力を逮捕するなど、和平を維持する気運を強めている。イスラエルは、シリアとの和解工作も進め、最近ではシリアが、パレスチナ自治政府・ハマスとイスラエルの3者間の和解を仲裁する構想を出すまでに至っている。イスラエルの和平策は軌道に乗りそうに見える。
「米とイランの急接近」田中宇の国際ニュース解説より
エルサレムにユダヤ人国家を作るシオニズム運動が、不安定化の火種である限りは支援しても、イスラエル建国が安定的に進んでいく様相を見せれば、黙って指を咥えているようなことはしない。
結局、イスラエルのオルメルト首相は、今年9月の党首選に出馬せずに首相を辞任する意向を7月30日に表明した。
汚職を擁護する必要はないが、汚職疑惑が発覚した結果、和平交渉が実現困難になったのではなく、和平交渉を暗礁に乗り上げさせるために、このタイミングで汚職疑惑がリークされたと考えるのが妥当だろう。
イスラエル政府は、米を無視して周辺勢力との和解を進め、チェイニーが画策する「イスラエルにイランを攻撃させる」という策略は失敗する可能性が高まっている。そこでチェイニーら米政府中枢は、軌道に乗りそうなイスラエルの和解策を壊すため、アメリカ自らがイランと仲直りしてしまう新戦略を採り始めたのではないかと考えられる。
ヒズボラ・ハマス・シリアという、イスラエルと隣接する3つの敵対勢力は、いずれもイランからの支援を受けている。イスラエルは、この3勢力と和解することでイランから遠ざけ、同時に欧米には長期の対イラン経済制裁を実施させ、90年代のイラクのように経済難による弱体化に陥らせ、イランとの敵対に勝つことをめざしている。
欧米がイランを悪者扱いしている限り、イスラエルが3勢力と和解することは、3勢力をイランから引き離す方向に誘導する。しかしそこで、欧米の中心にいるアメリカがイランを許してしまうと、3勢力はイランと関係を疎遠にする必要がなくなる。3勢力はイランとの親しい関係を保ったまま、イスラエルから譲歩を引き出せるようになり、優劣が逆転する。イスラエルが3勢力と和解しかけている最中に、アメリカがイランを許すことは、イスラエルの策略を失敗させる動きである。
「米とイランの急接近」田中宇の国際ニュース解説より
不安定情勢は、それによって引き起こされる不安発の市場拡大で利益を貪る資本家たちが意図的につくり出している。
彼らにとっては、同胞の悲願である建国運動も、(今回のアメリカのイランに対する動きのように)“和平(歩み寄り)”も、不安定情勢をつくる手段なのだ。
特定の国家の利益追求や、特定の国家間の“利害調整”である限り、常に世界に不安を生み出す構造を持っているのだ。
金融資本家たちはこのことをよく理解していて、自分の利益獲得に利用しているのだろう。
逆にみんなが求めている安心できる世界を作っていくうえでも、重要なポイントとなるのではないだろうか。
最後まで読んでくれてありがとです。
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コメント3件
羽角 | 2008.11.01 22:49
現在の金融システムの破綻に対する「新ブレトン体制」。それによる多極化路線が執られようとしているとのことですが、多極化で得られるメリットがよく分かりません。
だれが得をするのか?
デビッドも多極化を進めているといわれますが、この「新ブレトン」では‘金貸し’排除のようにも見受けられ、多極化にもいろいろあるような・・・
いろいろ疑問が湧いてきます。教えてください!!
大室テツヤ | 2008.11.04 20:31
>だれが得をするのか?
これをめぐって各国がシノギを削りあうのが11月中旬からのブレトンウッズⅡ。
とゆうか、すでに主導権争いは水面下で始まっている!
ことが↓に書いてあります。
http://archive.mag2.com/0000012950/index.html
あと、このブログの11月2日の記事にもあったね。
ただ今、勉強中☆ | 2008.11.01 22:35
すっごい勉強になりそうなブログや投稿の紹介☆
ありがとうございます!
じっくり読んでみます☆