2008年12月31日

社会をどうする?から勉強に向かう時代へ

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 (12月22日朝日新聞記事より)
文部科学省は22日、13年度の新入生から実施する高校の学習指導要領の改訂案を発表した。「英語の授業は英語で行うのが基本」と明記し、教える英単語 数も4割増とする。
高校の改訂案では英語で教える標準的な単語数が1300語から1800語に増加。同様に増える中学とあわせて3千語となる。中高で2400語だった前回改訂の前をさらに上回り、「中国や韓国の教育基準並みになる」という。
改訂案は「授業は英語で」を初めてうたった。長年の批判を踏まえ「使える英語」の習得を目指すという。
  
  
学力低下をどうする?に対する文科省の方針がこれである。
そんなことでは改善されない、何のために勉強するのかということが問われている、という切れ味鋭い記事を紹介します。
  
内田樹の研究室 福翁の「はげしい」勉強法 からの引用です。
 
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以下引用

(中略)
そして、この書生の狂気じみた勉強のありさまを叙した文章を福沢諭吉はこう結んでいる。
「兎に角当時緒方の書生は、十中の七、八、目的なしに苦学した者であるが、その目的のなかったのが却って仕合で、江戸の書生よりも能く勉強が出来たのであろう。ソレカラ考えてみると、今日の書生にしても余り学問を勉強すると同時に始終我身の行く末ばかり考えているようでは、修行は出来なかろうと思う。さればといって、ただ迂闊に本ばかり見ているのは最も宜しくない。宜しくないとはいいながら、また始終今もいう通り自分の身の行く末のみ考えて、如何したらば立身が出来るだろうか、如何したら金が手に這入るだろうか、立派な家に住むことが出来るだろうか、如何すれば旨い物を食い好い着物を着られるだろうか、というようなことにばかり心引かれて、齷齪勉強するということでは、決して真の勉強は出来ないだろうと思う。」(94頁)
  
私はこれまで勉強について書かれた文章の中でも『福翁自伝』のこの箇所は白眉であると思う。
ぜひ中学高校の国語の教科書にこの箇所を載せて、日本中の生徒たちに拳々服膺していただきたいものだと思っている。
ところが現在の教育行政は「自分の身の行く末のみ考えて、如何したらば立身が出来るだろうか、如何したら金が手に這入るだろうか、立派な家に住むことが出来るだろうか、如何すれば旨い物を食い好い着物を着られるだろうか、というようなことにばかり心引かれて」勉強するのが標準的な人間だと思い、それをデフォルトにしてすべての教育プログラムを構築している。
それは知識や技能を習得することそれ自体ではなく、知識や技能をもつことで得られる「利得」に照準することへと子どもたちを向かわせる。
 
重要なのは知識や技能があることで獲得される「利得」であり、知識や技能はそのための迂回的な「ツール」にすぎない。そう教えられていれば、いずれ子どもたちが「ツール抜きで、利得だけ占める方法」を考案することに知的リソースを優先的に配分するようになるのは理の当然である。
現にそうなっている。
「いかに少ない学力で、いかに高い学歴を獲得するか」という競争にこの国の子どもたちは熱中している。
問題は「費用対効果」だからである。
「中学生程度の学力で一流大学に受かる」というのは、「電話一本で1億円稼いだ」とか「キーボード叩くだけで巨富を積んだ」というのと同類の「クレバーな生き方」なのである。
利得という「にんじん」をぶらさげて子どもを利益誘導して勉強させれば、必ず子どもたちは「にんじん」だけ手に入れる方法を考え出す。
英語ができると「いいこと」があると教えられれば、「できるだけ少ない英語の学力で、『いいこと』だけ手に入れる方法」を考え出す。
論理的に考えて一番効率的なのは、「同学齢集団の英語学力をまとめて低下させること」である。
競争における相対優位を占めることを「にんじん」にすれば、子どもたちは必ず「自分以外の子どものやる気を殺ぐ」という戦術を採用するようになる。
それがもっとも合理的だからである。
 
親たちが子どもに幼児期から英会話を教えたがるのは、それによって会話能力が身につくということをそれほど信じているからではない。そうではなくて、「うちの子、もう英語でしゃべるのよ、やっぱり英語は幼児からネイティヴの先生につかないとね~おほほほ」などということを言いふらすと、周囲の親たちが「ああ、うちの子はもう取り返しのつかないビハインドを負ってしまった。ああ、もうダメだ」とがっくり意欲を失ったり、あるいは「こうしちゃいられないわ」と子どもを殴りつけて英語教室に通わせたりして、めでたく「英語嫌い」の子どもを量産する結果になることを(無意識のうちに)見抜いているからなのである。
競争の相対優位者に利益を独占させるというやりかたで子どもを勉強させようとすれば、それは社会全体の知的劣化をしかもたらさない。
過去30年間の経験から教育行政はそれくらいのことは学習していてもよいはずである。
現に、子どもたちは「利得」のめどが立てばできるだけ費用対効果のよい勉強をし、「利得」のめどが立たなければ、端から何もしないというかたちで二極化した。
 
私たちの国の子どもたちの中から福沢諭吉や勝麟太郎のような桁外れの知識人を再び生み出したいと教育行政の要路の人々がほんとうに望んでいるなら、「粗衣粗食、一見看る影もない貧書生でありながら、智力思想の活発高尚なることは王侯貴人も眼下に見下すという気位」はどのように生み出されるのかそれについて考えてみてもよいのではないか。
その「気位」はコストパフォーマンスのよい「キャリアパス」を選択できる知のはたらきとは無縁のものだということをときには思い出してみてもよいのではないか。

 
 
以上引用終わり
福沢諭吉が引用のように激しく勉強したのは決して「利得」のためではなく、社会をどうする?という想いに突き動かされていたからである。
当時は開国から近代国家へと日本が大転換していく渦中にあり、だからこそこれからの社会をどうする?という未明課題に対し、寝る暇もなく勉強していったのだと思われる。
一方、文科省が打ち出した学習指導要領の改訂は、ゆとり教育の揺り戻しで勉強範囲を増やすだけの表層的なものでしかなく、「何のために勉強するのか」という勉強動因、活力部分には至っていない。
日本が近代国家となり、市場社会化を徹底していく中で、人々は私権の獲得を目標に一定勉強してきたわけだが、私権の終焉に伴い勉強する意味が見えなくなってしまっている。
しかし、私権の終焉から新たな社会、活力源を作り上げ、新たな社会統合を築いていく現在の状況は、幕末よりももっと大きな転換点を迎えたと見ることが出来る。
「社会をどうする?」と言う意識は現在高まりつつあり、そこから勉強に向かう潮流も明確に出始めている。
来年は、金融破綻で皆が気づいた市場原理の限界から私権時代の終焉という時代の大転換を肌で感じ、「社会をどうする?」から皆が勉強に向かっていく年になるのではないだろうか。

List    投稿者 sinkawa | 2008-12-31 | Posted in 12.現代意識潮流8 Comments » 

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コメント8件

 雪村総也の不安 | 2009.04.18 22:47

失言というよりは・・・

「麻生さん「ガハハ」上機嫌、バー通い復活…側近は失言警戒」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090

 二階堂定晴 | 2009.04.21 21:13

家系図、ものすごいですね。。
もしかすると政治家というのはほとんど家系で繋がっているのか?
あと、吉田茂とか宮沢喜一とか、日本のためになんとかしようとした政治家の家系が切れてるのも気になりますね。

 米流時評 | 2009.04.21 22:30

オバマミラクルの握手!お友だちになりたいチャベス

  ||| オバマ マジックにかかったチャベス |||
 第5回南北アメリカサミットで、オバマにひと目惚れのチャベス大統領の接近
 基調演説で感動…

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