米破綻劇の背後にあるもの~暴落を仕掛ける勢力VS防戦一方のFRB
一般企業の発行するコマーシャルペーパー(CP)の直接買い取りをFRBが始めた。CPとは、ある程度の信用力を有する大企業が市場から短期資金を調達するために、発行する無担保の割引約束手形のこと。つまり、FRBは金融機関の救済にとどまらず、企業に直接、資金供給を始めたということだ。
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2008年10月7日朝日新聞「FRB、CP買い取り発表 金融市場への資金供給強化」によると、
米連邦準備制度理事会(FRB)は7日、金融市場への資金供給を強化するため、銀行や企業などが短期の資金繰りに発行するコマーシャル・ペーパー(CP)を市場から間接的に買い取る制度を創設すると発表した。 「禁じ手」とされていた無担保のCP証券も一定条件を満たせば引き受け、中央銀行が実質的に事業金融まで担う。極めて異例な措置で、米政府・財務省も資金供給で支援する特別口座をニューヨーク連銀に開設し、緊急体制をさらに拡充する。損失発生で国民負担が増す危険性も指摘されるが、金融危機の深刻化を食い止めるには必要と判断した。
以下、「田中宇の国際ニュース解説」の2008年10月8日の記事「米経済の崩壊、世界の多極化(2)」からの引用。
▼一般企業のリスクをも背負う米連銀
米国の金融危機は、米以外の世界の金融機関に悪影響を拡大させているだけでなく、同時に、米国内の金融以外の一般の各産業にも、資金調達難というかたちで悪影響を急拡大させている。米連銀は、金融界の次に危険なのは、しだいに資金調達が難しくなっている一般企業と、州市町などの地方政府であると考えている。たとえばカリフォルニア州は、財政破綻直前だと州知事が表明している。
企業の短期資金の調達は、主にCP(手形。コマーシャル・ペーパー)を担保に銀行が金を貸すCP市場で行われてきたが、金融危機による貸し渋りで、CP市場はここ1カ月近くほとんど動きがなく、閉鎖状態だ。CPの満期は30日前後で、毎月借り換えをしないと、企業は運転資金難で倒産する。連銀がいくら米銀行界に緊急融資しても、銀行は貸し倒れを恐れ、企業に対するCP担保貸出を再開してくれない。このままでは今後2週間以内に米企業の大量倒産が起きる。
このため連銀は10月7日、銀行を介して企業に資金を供給することをあきらめ、連銀自身が企業のCPを担保に資金を融資する前代未聞の施策を開始した。これは、米当局自身が銀行業務を開始したことを意味する。米金融界では、政府が動かす連銀だけが機能し、他の民間銀行は機能不全に陥っている。機能不全は昨年から続き、しだいに拡大し、ここに来て急にひどくなった。今後、何カ月も機能不全が続くと予測される。その間、米当局(連銀と財務省)が唯一の貸し手となり、あらゆる金融リスクを米当局が背負い続けることになる。
これで米経済が不況にならなければ、問題は金融界だけですむが、残念ながら、米経済の指標は、9月後半から急速に悪化している。10月3日に発表された9月の雇用統計は、失業者数が予想の10万人を大きく上回る16万人と発表され、失業が急拡大していることが明らかになった。
米経済は、工業生産も急速に減り出し、消費も落ち込んでいる。これらの指標から見て、今後ひどい不況になる恐れが一気に強まった。少なくとも今後半年間は、米経済はマイナス成長になると、ゴールドマンサックスが予測している。
米経済の急速な悪化を受け、連銀が景気対策として近く0・5%程度の利下げを行うことは、ほぼ確実となった。しかし利下げをしても、おそらく効果はほとんどない。利下げは、銀行から一般企業への融資の利回りを下げ、企業が金を借りて設備投資を増やしやすい状況を作り、景気減速を止めるのが目的だが、銀行が機能不全に陥っている米の現状では、利下げしても銀行は企業に金を貸すようにならない。
不況によって米企業に倒産が広がると、連銀が米企業への融資の担保として受け取っていたCPが次々と不渡りになる。米経済における最後の貸し手である連銀と財務省が、融資の担保として、民間銀行や一般企業から受け取った膨大な債券やCPの中に占める「紙くず」の割合が、今後の不況と金融危機の拡大とともに、どんどん増える。米政府の不良債権率が高まり、やがて米国債が世界の投資家に敬遠されて売れなくなり、債務不履行(財政破綻)に陥る。今のペースだと、そこまで行き着くのに1年かからないだろう。
FRBがCP買い取りを発表した翌日10月8日、NY株が暴落し終値9500ドルを割った。この二つの動きは連動していると考えられる。
一方、商品市場は原油も穀物も6月~7月にかけて最高値をつけて以降、先んじて下落が始まっている。原油価格は7月の最高値1バレル147ドルから10月8日段階で1バレル86ドルまで下落し、今や最高値の6割未満である。穀物相場も6~7月の最高値の半値水準である。
こういうことではないか?
商品価格を高騰させてきた勢力が売りに転じて多額の資金を手に入れている。その表れが商品価格の急速な下落である。彼らは商品市場で手に入れた資金を使って株式市場で大量の売りを仕掛け始めたのではないか? それが10月8日の米株式暴落だろう。
そうなると今後、破綻は金融機関にとどまらず一般企業、さらには地方政府にまで及ぶことになる。それを見越してFRBがとった防衛策が、禁じ手とされてきた無担保のCP買い取りではないか? もしくは、FRBのCP買い取り発表を受けて、暴落を目論む勢力が株売りを仕掛けたとも考えられる。
つまり、現在の金融破綻→株式暴落の構図はこうである。米国債・ドル暴落を目論む勢力が商品市場で手に入れた大量の資金力で以って売りを仕掛けている。それに対して防戦、つまり金融機関や企業に対して資金供給を拡大し続けるFRB。
この闘いの勝敗は双方の資金力で決する。2004年以降の商品市場の高騰で貯めこんだ資金力を有する勢力と、大量の不良債権を抱え込みつつあるFRB・アメリカ財務省では、優位に立つのは前者である。彼らの狙いはFRBを潰すことにあり、そのためにFRBの資金が枯渇するまで、今後も断続的に暴落を仕掛けてくるであろう。
田中宇氏が述べているように、この闘いの決着は大量の紙クズ債券を抱えたFRBと米財務省の敗北に終わり、1年以内に米国債とドルの暴落が始まる可能性が高い。
(本郷猛)
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コメント6件
わたか | 2008.12.25 21:23
「外貨を呼び込むため」のドル固定相場制は、基軸通貨国の没落構造と同じ必然構造を孕んでいるんですね。
国の発展のための、バクチ経済による目先の経済成長という選択肢が、金貸しが一国を食い物にし支配するためのシナリオに、まんまとはめられているということがよくわかりました。
のりか | 2008.12.26 2:53
(IMFの様な)国際機関も、金融家たちの手の内。。都合の良い様に役割を変化させてきたんですね。。。
今回の金融危機においても、IMFからの支援を受けた国が沢山ありますね。それらの国も同様に、経済をおさえれれてしまっているのでしょうか?
しのぶ | 2008.12.26 17:23
ヘンプヒルズさん、こんにちは★
いつもコメントありがとうございます(^▽^)
ほんと、このシナリオすごいですよね~。。。
抜け目が無いっていうか、ある意味やっぱりさすがです。。
でも手法(構造)が分かったことで、ヘンプヒルズさんの言われているように、弱点というかヒントも見えてきたので、やっぱり構造をおさえるって大事だなと思います!!
これからも一緒に考えていきましょうね♪
しのぶ | 2008.12.26 17:31
わたかさん、はじめまして☆
伝わって良かった~(^^)
コメントまで返してくれて、嬉しい&やる気↑です♪
ありがとうございます!!
>ドル固定相場制は、基軸通貨国の没落構造と同じ必然構造を孕んでいるんですね。
そうなんです。。
しかも「元々、後進国」という前提なので、基軸通貨よりも不安定で、ちょっとしたきっかけでアッという間に暴落しちゃうんです。
でもこのシナリオ(構造)に気づけば、わなにはまらなくて済みますもんね!!
しのぶ | 2008.12.26 17:39
のりかさん、お久しぶりです♪
コメントありがとうございます\(^▽^)/
アイルランドとかですよね。。
たぶん、金融支配のシナリオに組み込まれてるんじゃないでしょうか。
『EUって、どうなっているの?』2 D・ロックフェラーの狙いは「東欧」!?
http://blog.trend-review.net/blog/2008/11/000918.html
というハナシもあるので、今回の金融支援を受けた国については、そういう視点での検証も必要ですね。
一つずつ、構造(手の内)を明らかにしていきたいです。
一緒に頑張りましょう☆
ヘンプヒルズ | 2008.12.25 18:21
ブレトンウッズ体制のドル固定相場制で、特に中・後進国はIMFに支援を受けていく必然構造があり、そこでの条件に、被支援国の中央銀行を法的に独立させ、国家の管理から離れた中央銀行をIMF(→アメリカ→金貸し)が支配するというシナリオがよくわかりました。
ある意味、金貸しの用意周到なシナリオはすごいですね。
しかし逆に見れば、金貸しの生命線は、中央銀行が国家管理から離れていることで成り立っていることを示しています。
これが、金貸しを排除したこれからの新たな金融秩序を考えるヒントですね。