2013年11月04日

日本銀行が負債を引き受けて国家を救う道はあるか?

現代の経済政策はあまりに複雑かつ専門的になり過ぎて、一般の人には非常にわかりにくいというのが実態です。そこで今日は、金融緩和などの政策の内実を日銀の財務諸表を中心に理解し、今後避けては通れない経済破局の際に、国家や市場経済の軟着陸のための役割、あるいは市場メカニズム大転換への橋渡し役が、日銀に可能かどうかを検証して行きたいと思います。

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まず最初に、日銀の貸借対照表(=B/S;バランスシート)をじっくり見て行きましょう。
          
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左図は日銀のB/Sの概略を示した棒グラフです。B/Sとは【資産=負債+資本】で表示される重要な財務諸表ですが、グラフの左側が資産右側が負債+資本です。日銀の資産の主要項目は国債と市中銀行への貸出金です。ちなみに、市中銀行への貸出金の利息が公定歩合です。一方、負債の主要項目は、日銀が発行した紙幣=発行銀行券と各銀行が日銀に口座を開設している当座預金です。日銀をはじめ金融機関のB/Sで錯覚しやすい点は、預かったお金=預金が(現金を金融機関が保有しているにもかかわらず)負債側に計上されることです。
          
それでは、アベノミクスのような金融緩和が行われると、日銀のB/Sはどう動くのかを見て行きます。日銀総裁が今年の4月に打ち出したのは「日銀資産を2年で2倍にする」こと、それによって「インフレターゲット2%」と「円安誘導」を実現することでした。
          
この「日銀資産2倍」は“買いオペ”と呼ばれる市場介入手法によって、市中銀行が政府から購入した国債を日銀が買い受けることを柱にしています。この国債買い受け分は新たな発行銀行券(=紙幣)として市中銀行に支払われます。このようにして、市中銀行の現金保有量(≒マネタリーベース)が増加します。一般に貨幣流通量は実際に市場に出回っているお金(≒マネーサプライ)で評価されるので、マネタリーベースが増加してもそれを市中銀行が貸し出さなければマネーサプライは増えない理屈ですが、現実的にはマネタリーベース増加分の満額ではないというだけであって、マネーサプライはそれなりに増えるはずです。その結果インフレが達成されるというのが今回のアベノミクスの算段です。
          
つまり、日銀が新たに購入した国債費の分だけ銀行に現金が供出され、その結果、日銀B/Sの負債の方は発行銀行券と預金の項目が増加することになります。

          
では、財政法等の改正の手続きを行って日銀が直接国から国債を購入できたとするとどうなるのでしょうか?
          
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この場合は左図に示したように、日銀B/Sの資産では国債が増えるのは一緒ですが、負債側は政府預金が増加するだけになると思われます。「思われる」と書いたのは、まだこの方式が実際に行われたケースがないのでB/Sでの費目の名称が定まっていないからです。
          
仮にこのお金の意味が費目どおり「政府預金」だとすると、国家がこのお金を使わなければ市場に出回る現金は増えませんが、国債の新規発行を政府預金を増やすために行うことなど100%あり得ないので、財政投入というかたちで市場にお金が出ていくはずです。しかも市中銀行とは異なり全額を市場に放出するでしょうから、従来の“買いオペ”よりマネーサプライはかなり多くなります。ただし、紙幣発行権が中央銀行にある以上は、新規国債の分だけ国の借金は増えてしまいます。

以上が日銀のB/Sを分析した結果です。端的にまとめるなら、日銀の資産増減は裏付けとなる証書(≒国債や有価証券など)さえあれば人工的にどのようにでも行うことが可能であり、増加した資産の分だけ新たに紙幣が発行できるというのが現在の日銀の仕組みです。
          

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さて、それでは最後に米ドルや米国債の暴落によって、日本国債も暴落したら、上記の日銀の会計ルール等を使って国内の経済秩序を維持する方策はあるのかを検討します。問題は、一般銀行が保有する国債と現金(=円)が暴落したときに、各金融機関の機能は維持できるのか?、つまり一般銀行は債務超過に陥らずに何とか乗り切れるのか?という点です。さらに、国家が抱えている1000兆円もの借金(=国債残高)が火種になって国家秩序が破綻しないように処理することも重要な課題になります。
          
以下はあくまで非常事態でのシミュレーションですが、これらの問題を一機に解決するには、国民の損失をできるだけ小さくしながら、一般銀行の債務と国の債務を帳消しにする必要があります。そのためには、債権者が債権を放棄しなければなりません。この債権放棄による損失を可能な限り日銀に集約できれば可能性が出てきます。つまり、国内にある国債を速やかに日銀保有にしてしまうわけです。
          
現在の政府・日銀の意図とはまったく異なりますが、破局対策として市中に出回っている国債の引き受けをもっと強力に推し進めるのです。日銀資産が2倍になったときに、市中銀行の国債がどのくらい減っているかは正確にはわかりませんが、下図の日銀と主張金融機関の総資産額を示すグラフから類推すると、ゆうちょ銀行まで含めればまだかなりの国債が一般金融機関側に残っていると思われます。
           
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できれば個人が保有している国債も事前に日銀に集めたいところですが、これは暴落が始まってからでないと実行できない可能性が高いかも知れません。
                    
次に問題になるのが各金融機関のB/Sですが、こちらの方は国債費目で計上されていた額面がそのまま日銀当座預金or貸付金に替わるだけで総資産は前のままです。国債が暴落するということは円も暴落するので、暴落後の決算段階で資産縮小 預金額縮小=負債▼となります。この預金▼とは、取りも直さず各家庭の預貯金が大幅に減価されることを意味しますから、放っておけば取り付け騒動になって銀行が破綻します。したがって、ここでは預金封鎖が不可欠となり、預金引き出しに替えて、生活や企業活動に支障の出ないだけの新貨幣の供給が必要となります。この一連の運びがそこそこスムーズに進めば、銀行も企業も家庭も何とか破綻せずに済むのではないでしょうか。
          
ただ、新紙幣の発行を日銀が行うのでは、その裏付けとなる新国債が必要になるなど、また国家に借金が溜まっていくことの繰り返しになってしまいます。したがって、新紙幣は国家紙幣として発行するのが有力です。そして、この経済的パニックをもって、現在の経済学上の固定観念となっている中央銀行制度を解体してしまわなければなりません。その意味では、日銀はこの暴落を乗り切るための“切り札”として、債権放棄や資産提供などの負担を可能な限り引き受けて、危機を乗り切ったら倒産or解散というかたちで新しい社会への橋渡し役を行っていくべきです。これは、かつての国鉄民営化の際の国鉄清算事業団に似ているとも言えますし、今後は東電の福島原発処理を分社化によって行っていく際の参考にもなり得る認識です。
           
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新紙幣への切り替えの細かな段取りや新旧のお金の交換レートなど、テクニカルな問題はありますが、市場や国民への分かり易い説明と共認形成、そのうえでの現在の財政法や日銀法などのスピーディーな改正が何よりも重要なのは言うまでもありません。「税金で補填」だの「貸借関係がどーのこーの」といった雑音が出ないようにすれば、近い将来に起こるであろう暴落は、要は金融上の(≒帳簿上の)パニックなのだから、日銀を中心とした現在の金融関係企業の帳簿処理をうまく行えば、実体経済への影響は最小限に食い止められると考えられます。

List    投稿者 staff | 2013-11-04 | Posted in 06.経済破局の行方No Comments » 

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