吉田繁治氏の予測~デリバティブの価格崩壊による金融危機第3弾②
引き続き、吉田繁治氏の「090817 ビジネス知識源:米国経済の実情と、控えるデリバティブの危機」の紹介。
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今後の推移を想定するため、前記のようなデリバティブである「資産担保証券(Asset Backed Security)」の、発展経緯と構造を基礎から見ます。起点は、1970年代に始まった住宅ローンの証券化と転売でした。わが国では、なじみの薄いものですが、これを知っていないと、金融における危機の本当のところが見えないからです。
わが国のバブル崩壊は、不動産と株の値下がりで単純なものでした。米国バブルの崩壊は、今はまだ隠れていますが、いずれくる複雑なデリバティブの崩御に帰着するでしょう。以降では、それを、可能な限り単純化して見ます。今、早ければ8月にも迫り来る「第3次の危機」を感じているからです。
■住宅ローンの証券化は、米国にとってのマネー創造だった
●伝統的ローンでは、住宅ローンの貸し出しが、急に、大きく増えるということはない。そのため、住宅価格の値上率も、抑制気味になります。ただし低金利で住宅ローン金利が大きく下がるとき、住宅価格にバブルが起こりやすくなります。
【1970年代に始まった住宅ローンの証券化】
ローンの回収リスクを計量する金融工学を応用し、米国で住宅ローン債権の証券化が始まったのが1970年代です。最初、政府系ローン会社のジニーメイ(連邦政府抵当金庫)が開始します。MBS(Mortgage Backed Security:住宅抵当証券)と言われます。
●MBSは、一戸一戸のローンではなく、信用度(回収リスク)が類似したローンをパッケージにした「MBS証券」とし、機関投資家(年金基金等)に販売するものです。住宅ローン会社は、そのローンをまとめて、MBS証券にして販売すれば、顧客からの長い期間がかかる回収を待つことなく、次のローンを貸し出す原資が入手できます。しかも回収のリスクは、その証券を買った国内・国外の機関投資家が負うことになります。住宅ローンを組むローン会社や銀行は、国債より金利が高いMBSが、機関投資家にどんどん売れたため、いくらローンを貸しても、資金に困ることはなかったのです。
このMBSは、米国にとっては「マネー創造」でもあります。証券化で増えた現金の再投資によって、米国は1990年代以降「資産が高騰する資産インフレの経済」になって行きます。ローンの負債を証券化して売ることで、現金が回収できたからです。
伝統的住宅ローンでは、借りた顧客からの現金回収に20年、30年と長期がかかりました。しかしMBSとして証券化されて売られると、米国の社会全体で見れば、即刻、その2倍の現金に変わる。米国の住宅ローンの総残高は1000兆円(日本の5倍)くらいですが、そのうち500兆円分は、MBS化され、転売されています。これによって、膨大な額の現金が、創造されたことになる。
現在のようなFRBによる200兆円の信用創造(要は貸し付け)がなくても、証券化されたAAA格のMBSが売れる限り、米国は海外に証券を売って、国内のマネー創造に困らなかったのです。
■住宅ローンのMBSの後は、ABS証券の発明
住宅ローン証券が、国債並みのAAA格に証券化されたあと、更に幅広く、証券化の方法が適用されます。(注)AAAとは、かつては、下落リスクがゼロとされていた証券の格付けです。
▼ABSが1820兆円もある
(1)個人へのクレジットカードの売掛金、自動車ローン、教育ローン、
(2)企業への商業用貸し付け金、
(3)車・機械・設備・工場・店舗・オフィスビルのリース、
(4)特許、音楽や著作の版権等・・・現金が回収できるものすべてが、まとめた証券化の対象となって行きます。
これらを、住宅ローンのMBS(住宅抵当証券)と区分し、ABS(Asset Backed Security:資産担保証券)と言っています。ローンの回収権を、原資産とするからです。これらのABSは、2007年で、$19.2兆(1820兆円)に達してます。住宅ローン証券の500兆円と合わせれば、2320兆円(米国のGDPの2倍)です。これらの巨額なMBSやABSは、「AAA格の国債並みに回収が確実な債券」として、それを買った銀行は自己資本にもでき、最近では中央銀行のFRBすらも、銀行に貸し付けするときの担保にしています。
まとめれば、「ローンの証券化+回収保証のデリバティブ」という方法で、リスクのあるローン回収権(原資産)がリスクのない証券に化けて、世界に売られていたのです。このMBSとABSが、米国に、膨大な現金を創造させ、株、住宅、不動産価格をバブル的に上げる元になりました。
しかし、こうした保証付きの証券も、世界の通貨に対する実効レートでのドル安の懸念が高まると、売れなくなります。MBSやABSによる保証は、ドル建て証券における「ドル安のリスク」までは保証しないからです。FRBの、国債を買うことによる信用創造(資産増=貸し付け増)の拡大は、(何回か見たように)ドル安要素です。
今は、FRBが住宅ローン証券を買って、住宅資金を供給または保証しています。これは、日銀が住宅ローンの回収の保証をするような、異常事態です。
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