吉田繁治氏の予測~デリバティブの価格崩壊による金融危機第3弾①
吉田繁治氏が、2009年の8月~9月に「デリバティブ(金融派生商品)の価格崩壊」を引き金とする金融危機の第3弾を予想しています。その一部を紹介します。
「090817 ビジネス知識源:米国経済の実情と、控えるデリバティブの危機」
いつも応援ありがとうございます。
結論から言えば、
(1)3月来の世界の株価(金融経済)の同時回復(15%~30%幅)はあったが、
(2)実体経済(生産・消費・設備投資)は、底這いのままです。
(3)特に米経済(1300兆円のGDP)のうち、70%を占める世帯消費(商品+サービス)は、世帯信用(ローン消費)の収縮のため、悪化を続けています。世帯信用の元になる住宅価格は、下落を続けています。
そして、次の危機が損失を先送りする機能を果たしている「デリバティブ」の危機です。今回、この構造を基本的なところから解きます。
【500兆円規模の、世界の政府対策費】
思い起こせば、世界の政府と中央銀行は「08年、09年(今年)、10年の3年間で、500兆円の対策費」を使うことを表明しています。(09年3月) 3月以来の株価は、それに反応したものです。その概略を言えば、[政府の緊急対策資金]→[米英系金融機関・証券会社への注入]→[金融と証券による自己売買の増加]→[株価上昇]という構図です。
【自己売買】
自己売買とは、買いの委託を受けた売買(これが普通)ではなく、金融機関自身がリスクをとって、借金(信用)で買い上げているということです。資金の元は借入金ですから、満期には返済が必要で、いずれは、利益確定し、売り抜けます。その時期がいつかが問題で、次の株価危機を生むことになります。
「1929年~33年のような大恐慌(信用収縮)と、25%の失業、および50%の所得減(GDP減少)は、政府マネーの投入で避けられている。しかしじりじりした、上げれば下げ、下げれば部分的に上げる低空の価格波動が続く。」 これは、日本と同じです。
■危惧は、夏~秋の3度目の危機
こうした中での、最大の危惧は、2009年の8月~9月に予想できる「デリバティブ(金融派生商品)の価格崩壊」による金融危機の第3弾です。
【現状】
今、金融機関は、あらゆる手段を使う政府公認の「粉飾決算」で、偽装されています。その損は、数か月後の決済日が来れば、P/L(損益計算とキャッシュフロー)の実損として、明らかにならざるを得ません。大手金融機関の経営者は、その前に、偽装決算を元に増資し、高いボーナスをもらって、遁走(とんそう)でしょう。ゲンキンなものです。権限がある経営者がもつべき経済倫理は、欠けてしまっています。
背任や犯罪で摘発される違法でないなら、どんなに汚い手段も、いいとする。
●危機が終わった、景気が底打ちと言われるのは、政府容認の、公表B/Sの粉飾からです。これは、政府・中央銀行によるマネーの輸血(貸付)と血圧の偽装で、突然死に至る激しい出血を補ったという意味です。見えない内部(本当のB/S)に空いた空洞は、埋まってはいません。会社でごく少数のトップマネジメントは「空洞の所在」を知っているはずです。社員は、幹部を含めて知りません。実は、理由が分からず、株価が下げるときが危ない。
●デリバティブ(主は金融保険)の、迫りくる決済日を知るトップマネジメントが逃げるための(インサイダーの)、「自社株の大量売り」がその兆候です。デリバティブは、多くが「オフ・バランス」であり、表面が偽装された金融機関のB/S(貸借対照表)では全く見えません。
(補注)米国の中央銀行であるFRBすら、200兆円($2兆1526億)と昨年来2倍になった信用(資産・負債)とは別に、500兆円ものB/Sに記載されないオフ・バランスの保証勘定を持っています。英語ではありますが、ここの、「Memo」が、簿外でFRBが保証している証券です。つまり、マネー供給、信用供給での700兆円規模の「全開」です。http://en.wikipedia.org/wiki/Federal_Reserve_System
デリバティブには限られた当事者(相対取引者)しか、中身を知らない双務契約があります。当事者も退職し、外部者や上司には意味が不明な時限爆弾に似た契約書が残っているだけかもしれません。
●こうした、不動産や債権、あるいはキャッシュフローを担保にしたデリバティブ(Asset Backed Security)が、次の危機の、引き金になるでしょう。原資産(住宅ローンや他の債権)の価値下落が止まらないと、デリバティブの隠された損は、拡大し続けるからです。
【低い自己資本比率】
今、米欧の金融機関の自己資本比率では、政府が、将来のストレスに対し「4%基準で健全」とハードルを低めています。4%は自己資本に対し、負債が25倍であることを示します。
●1億円の手元資金で、25億円を借り、投資しているのと同じです。わずか、4%の投資証券の価格下落、あるいは所有証券の、4%の損失の表面化(決済日到来)によって、連鎖危機が再発します。
連鎖になる理由は、金融機関の間の、CDS(債務保証保険)やCDO(債務担保証券)のデリバティブが、その相手先と双務契約であるためです。それに、もっとも巨額な、長短の金利をリスク率の算定で交換する金利スワップ(長短金利交換取引:$50兆)がある。
いつまで、ロールオーバー(決済の延期)が可能か?
●実勢価格が下げた住宅証券やデリバティブは、今はまだ時価評価されず、価格が膨らんだままになっています。米欧の不動産価格が上がり、ローン債権が健全化する時期が来ない限り、損は回復できません。つまり不動産価格が下げ止まって、上がるのはいつかと、債権・債務(=借金)の質がよくなるのはいつかということです。こうした巨額含み損は、いつまでもは、隠したまま続けることができません。09年3月来の株価の、約30%上昇によって、その損を埋める策がとられたのですが、空洞は埋まっていません。
金融商品での、時価評価のない利益計上は、無意味なものです。生理的食塩水の点滴で、血圧の下落が止まったというにすぎない。
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