2009年05月15日

日本支配の構造27~当時の日本人の意識状況『西洋文明のとらえ方』

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日本支配の構造26では「大東亜共栄圏」を扱ったが、どうして日本は欧米と対立していくようになったのだろうか。ことの発端は、西洋事情(福沢諭吉)にて欧米の脅威を認識したことからはじまる。当時の日本人の意識潮流はどうだったのか。
当時の日本人に大きな影響を与えたベストセラー作家だった福沢諭吉の著作からその意識状況を探ってみたい。
まず【西洋事情】は文久2年(1862)ヨーロッパに渡ったときの経験をもとに帰朝後3年あまりの調査研究を経て、慶応2年にその初編が刊行されたものである。
内容は西洋社会の制度や実態および理念などについての一般的な紹介に始まり、アメリカ、オランダ、イギリス、ロシア、フランス、ポルトガル各国の歴史や当時の現状の記述が、その中心的内容である。
75万部というベストセラーとなり、そのころ、およそ西洋の文明を説いて開国の必要を論ずる者は、朝野の区別なくこの『西洋事情』を読んでいたといっても過言ではない。 事実、徳川15代将軍慶喜は、この書を読んで大政奉還を決断したといわれている。

以下に続く
 

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その後に書いた【文明論之概略】
明治8年の刊行で全6巻からなり数ある福澤の著訳書の中で最も体系的なものとされ、執筆にもかなりの苦心がはらわれた。
【文明論之概略】における福沢諭吉の西洋理解について松沢弘陽氏の論文を紹介する。
《ここをクリック》

・野心的な西洋諸国が自由貿易や社会制度を押しつけるとしても、その真の意図が「文明の移入」にあるのかそれとも「国益の拡大」にあるのかは、よほど注意してかからなければ判断はつかない。福沢が恐れていたのは、1840年代の清国、50年代のインド、でまさに起きつつあった、西洋文明に無防備なアジアの国々とイギリスやフランスとの軍事衝突が再現することであった。福沢の著述の眼目は『文明論之概略』にもある「日本には政府ありて、国民(ネーション)なし」(福沢、1875、p154)という現状を打破することで、西洋社会の理論は国民国家の創造のために活用されるのでなければならないのである。
西洋の社会理論の導入には熱心であった福沢が、それによる内面支配に反対の立場をとったことは十分な整合性を備えているといえる。
・福沢は西洋の社会思想、とりわけフランスの思想家トクヴィルから社会契約説を学び、それに心酔したことによって、かえってそこから西欧諸国による自国下層階級や植民地原住民への過酷な処遇といった現実に目を開かれ、ついには西洋文明そのものをも批判しうる視点を得たのだと考えられる。
😮 次に福沢のいう目的としての西洋文明とは何かについて考えてみたい。

第2章の冒頭で福沢は文明の発展の度合いは相対的なものであるとする。そしてまず、活発な気風をもち旧習に拘泥しない人々が工業や商業を盛んにしているヨーロッパ諸国とアメリカ合衆国を最上の文明国と呼ぶ。ついで、農業は発展しているものの政治制度には不備が多く、また、古い習慣が残存しているため進取の気性に乏しいトルコ・清国・日本などのアジア諸国を半開の国とする。さらに、定住性がなく食糧の獲得が偶然によって左右されてしまうアフリカやオーストラリアなどを野蛮の国と称している。(略)。
福沢は、物質的な豊かさのみが文明というわけではないし、また心の高尚のみがそれに価するわけでもない、として両者ともの進歩を全体として文明と呼ぶのだとしている。
人間の知性と道徳性が進歩して行けばそれにともなって物質的な豊かさや精神の高尚さも高められて行く、そうした進歩の総体が文明なのである。したがって西洋の文明《だから》目的とするわけではなくて、それが人間の智徳の進歩の道筋にあって半開の国々よりも先行しているがゆえにとりあえずの目標としなければならないのである。
これは
国民全体が安楽で品位を保てるような国づくりをするために必要なのは、実質的にそれに寄与できるような学問、すなわち実学であるとする福沢の学問観とも一致している。このように福沢は西洋文明のめざす方向が智徳の進歩であることをはっきりと捉え、現実の西洋はその過程にあって欠陥も多々ある、という客観化を行っている。福沢としては、現実の西洋にどのような欠点があろうとも、『西洋事情』に文明の政治の条件として引用した、
★「自主任意 国法寛にして人を束縛せず、人々自ら其所好を為し、士を好むものは士となり、農を好むものは農となり、士農工商の間に少しも区別を立てず、固より門閥を論ずることなく、朝廷の位を以て人を軽蔑せず、上下貴賎各々其所を得て、毫も他人の自由を妨げずして、天稟の才力を伸べしむるを趣旨とす。但し貴賎の別は、公務に当て朝廷の位を尊ぶのみ。其他は四民の別なく、字を知り理を弁じ心を労するものを君子として之を重んじ、文字を知らずして力役するものを小人とするのみ」(福沢、1866、p290)
といった部分だけは絶対的に否定できない究極の価値として感ぜられたにちがいない。またこの根底ともいうべき部分があってこそ、それを基準にして当の西洋文明そのものをも批判することができたのである。(略)
彼の興味の中心は西洋諸国の人々の考え方、そしてその延長上にある経済や政治などのさまざまな制度にあった。おそらく福沢は生産システムを導入しさえすれば物質文明を日本へもたらすことは容易であると考えたのだ。

福沢諭吉は3度の渡欧をしている。 1度目は万延元年(1860年)、福澤は咸臨丸の艦長となる軍艦奉行木村摂津守の従者としてアメリカ合衆国へ渡る。なお咸臨丸の指揮官は勝海舟であった。
2度目の渡欧は文久2年(1862)で【西洋事情】はそのときのヨーロッパに渡ったときの経験をもとに帰朝後3年あまりの調査研究を経て、慶応2年にその初編が刊行されたものである。 3度目の渡欧は慶応3年(1867年)には横浜から再渡米し、ニューヨーク、フィラデルフィア、ワシントンD.C.にも到達した。彼はこの3度の渡欧で何を考えたのだろうか
《ここをクリック》
福澤の代表的な言葉で戒名にも用いられた言葉が「独立自尊」である。その意味は「心身の独立を全うし、自らその身を尊重して、人たるの品位を辱めざるもの、之を独立自尊の人と云ふ」(『修身要領』第二条)。
福澤は、明治維新になって欧米諸国の女性解放思想をいちはやく日本に紹介し、「人倫の大本は夫婦なり」として一夫多妻や妾をもつことを非難し、女性にも自由を与えなければならぬとした。女も男も同じ人間だから、同様の教育を受ける権利があると主張した。

福沢諭吉は、日本の国益を考えると必須であるとは考えた。その上で物質文明偏重(市場競争社会の)結果としての戦争や貧困という矛盾までは、気づいていたが、結局は「独立自尊」を自分の思想の中心とせざるを得なかった。それはまさしく西洋思想の中心思想たる個人が原点という個人主義が言葉を換えたものであった。
福沢は様々な欧米の社会制度を日本に紹介したが、同時に個人主義も輸入したのだ。福沢の【西洋事情】【文明論之概略】に多大の影響を受けた当時の知識人はそれらをどう受け止めたていったのだろうか。

List    投稿者 tennsi21 | 2009-05-15 | Posted in 04.日本の政治構造14 Comments » 

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コメント14件

 匿名 | 2009.08.20 19:48

>いずれ、全米に広がるローン(借金)のいずれかが返済不能であることが明らかになる。それは遠い将来ではなく、決算期ごとに危機が訪れる。早ければ9月末、次は12月末、その次は3月末というように。それを引き金といして再び金融危機が勃発する。
ドル暴落のタイムリミットが、FRBの国債直接引き受け禁止となった以上、いよいよ本格的になってきたように思われますが、返済可能な次なる手が決算期ごとまでに打てれば、暴落は防げる事になるのかもしれません。
 しかし、防げてもそれは一時的で、いずれにしても暴落せざるを得ないのは借金が天文学的数字である事から明らかでしょう。

 tennsi21 | 2009.08.20 19:50

「FRBの禁じ手である」ということだが社会保障基金、メディケア、軍隊退役基金などほとんど政府関連基金であり、現在それぞれが厖大な負債を抱えてつつ、すでに半分もアメリカ国債の保有者にもなっているのは実に不思議である。http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/Economy_of_the_US/05.htm

 K.G | 2009.08.20 20:17

>「FRBの国債直接引き受けは禁じ手である」という批判が登場する
とのことですが、FRBは既に国債買い入れを今年の春から行なってきてるにも拘らず、そうした批判が無いばかりか、13日のニュースでは「米連邦準備制度理事会(FRB)は12日、連邦公開市場委員会(FOMC)を開き、金融危機対応として今春から実施している最大3000億ドル(約28兆8000億円)の長期国債買い入れを10月末で終えることを決めた。」とあり、これにより市場の資金が不足することを懸念する向きもあるようです。
そもそも、「禁じ手」という意味も、直接引き受けか(市場から間接に)買い入れるかの違いだけで、政府の国債発行に見合う通貨供給を行なう点では変わりは有りません。日本では「直接引き受け」は、政府の財政政策の健全性を失うと認識されているようですが、ことは財政ではなく市場の不活性化の問題なので禁じ手ともいえないように思います。
「引き受け」の話は置いておいて、これだけ通貨がジャブジャブになっているのに貨幣価値が下落しないのは何故なのでしょうか?これまでの様に通貨の偏りによって金儲けをすることがそもそも難しいので、例えジャブジャブでもこれを利用した上げ下げが演出しにくいからではなかろうかと思います。
更にお話の発端であるデリバティブですが、今後次々爆発するのはもはや避けられないとも思いますので、そのことによって破綻する金融機関や投資家は今後も出るでしょう。しかし、これによって統制経済化が強まるきっかけにもなる=国家が存在感を高める→国家が補償すれば貨幣は暴落しない若しくは政府紙幣に必然的に置き換わる、と考えられ、結局デリバティブは早々に破裂させるしかない(した方が良い)ように思いますが、如何でしょうか?

 本郷猛 | 2009.08.20 21:44

匿名さま、コメントありがとうございます。
>防げてもそれは一時的で、いずれにしても暴落せざるを得ないのは借金が天文学的数字である事から明らかでしょう。
ドルや国債を買い支える原資は、貿易黒字・企業利益・家計の貯蓄といった利益からしか生まれません。アメリカのように貿易赤字や家計赤字のままでは、問題を先送りするしかありません。そして先送りすればするほど、借金が増えていき、ますます危機を深めていく。そんな構造にアメリカはなっていますね。

 本郷猛 | 2009.08.20 21:47

tennsi21さま、コメントありがとうございます。
>ほとんど政府関連基金であり、現在それぞれが厖大な負債を抱えてつつ、すでに半分もアメリカ国債の保有者にもなっているのは実に不思議である。
これは別に不思議ではありません。
日本の財政投融資も国債購入に投入されています。

 本郷猛 | 2009.08.20 22:01

K.Gさま、コメントありがとうございます。
>これだけ通貨がジャブジャブになっているのに貨幣価値が下落しないのは何故なのでしょうか?
貨幣価値の下落、つまりインフレは既に起こっています。一般商品については需要<供給力ですから物価上昇しませんが、ジャブジャブの金が投機商品に向かい高騰しました。つまり、バブルとは投機商品のハイパーインフレと考えればよいかと思います。
>統制経済化が強まるきっかけにもなる=国家が存在感を高める→国家が補償すれば貨幣は暴落しない若しくは政府紙幣に必然的に置き換わる、と考えられ、結局デリバティブは早々に破裂させるしかない(した方が良い)ように思いますが、如何でしょうか?
デリバティブ、さらには市場原理は、いずれ国家、さらには共認原理(国民の世論)によって封じ込めなければならないことは私も同意見ですが、国家が市場を管理する仕組みが作った上で、デリバティブ破裂、というか金貸しから財産没収という手順になるべきかと思います。いきなりデリバティブ破裂→ドル・米国債暴落では社会秩序が維持できない可能性さえありますから。

 ななし | 2009.08.21 13:32

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かつて米国政府のブレーンであったマイケル・ハドソン博士の警告
http://www.ashisuto.co.jp/corporate/totten/column/1176091_629.html
「何世紀にもわたり世界は戦争によって形成されてきた。それにもかかわらず、戦争や暴力がいかに歴史を作り、世界の国境を書き換えてきたかという現実を子供たちに見せないように導くことは賢明な方法ではない。」
「このことからもわかるように、歴史の流れを決めてきたのは公正な取引きにおける合理的な計算などではない。経済的な権力は、武力や威嚇、詐欺、公然と行われた窃盗によって手中に収められてきたのである。」
「しかし、経済学者は、正当な価格は公正な市場均衡点で落ち着くと説明し、……世界が架空のしかも「おとぎ話」のようなすばらしい世界であるかのように、公正な市場がいかに機能するかという研究を続けている。」
「一方、世界が実際にどう機能しているかの研究はなされていない。」
「世界がどう機能しているかを知らずして、日本を含む正直な国家が、自分達の国を操作し、威嚇し、騙そうとする世界規模の略奪者から自国を守ることはできないだろう。したがって、軍事的征服者や弁護士、煽動政治家、腐敗した政治家や官僚、財界の詐欺師が、いかに歴史を作り上げてきたかを学ぶことから始める方が得策である。」
「現実を形成しているのは、武力や他の圧力、または窃盗や詐欺行為なのである。さらに重要なことは、国家の支配によって権力が確立されるということである。国家支配のためには、不都合な政治ライバルが暗殺されたり、誘拐されたりすることもあり、それに協力した仲間には報酬が支払われる。」
「公費を使い労せずして利益を得ることこそ、最も熟練した経済の勝者が行っていることの本質である。土地や独占権、その他の資産を実際の価値よりも安い価格で購入すること、しかも自分の存在を可能な限り隠してそれを行うことは、裕福になるための最も確実な方法である。」
「今日、学生たちが受ける経済教育は、世界が実際にどのように機能しているかを示す学術的な描写ではなく、特別利益団体を擁護するための粉飾的理論にすぎない。」
「したがって日本が行うべきことは、米国の大学に送る学生の数を減らし、将来の日本の政治家や官僚に、世界的ゲームという認識への妨げとなる「おとぎ話」を学ばせないことである。経済モデルの構築より、世界に対する穿った見方を含み史実を理解することが必要なのである。」
「(アメリカが日本や他の国々に対して)惜しげもなく無料で提供される助言は、結局、自らの利益に資するためのものである。この教訓を学ばない限り、日本は自国の運命を自分達で決められるようにはならないであろう。」

 !うにまろ!日記 | 2009.08.21 23:44

財源 宗教法人課税 なぜ誰も言えない?

利益団体ではない、は言い訳にもならんがなwww
「必要経費」は利益団体にも非課税と認めているでしょ、普通の部分は。
宗教団体は必要経費以外の収入に課税を容…

 unimaro | 2009.08.21 23:51

お疲れ様です!
勉強になり興味深いエントリをありがとうございます!
コメント欄も大変勉強になります。
>「このことからもわかるように、歴史の流れを決めてきたのは公正な取引きにおける合理的な計算などではない。経済的な権力は、武力や威嚇、詐欺、公然と行われた窃盗によって手中に収められてきたのである。」
>「しかし、経済学者は、正当な価格は公正な市場均衡点で落ち着くと説明し、……世界が架空のしかも「おとぎ話」のようなすばらしい世界であるかのように、公正な市場がいかに機能するかという研究を続けている。」
>「一方、世界が実際にどう機能しているかの研究はなされていない。」
>「世界がどう機能しているかを知らずして、日本を含む正直な国家が・・・
このようなきちんとした言い方はできませんが、私のエントリでもちょくちょく似たようなことを、、
「日本以外は嘘を悪いことと思っていない。嘘ついて騙した者が賢い、と思われている」
ってな幼稚な言い方ですがw
マイケル・ハドソン博士って、毛唐の中で村八分にされているでしょうね、毛唐の中ではまとも過ぎます。

 本郷猛 | 2009.08.23 18:27

ななし様、unimaro様、コメントありがとうございます。
マイケル・ハドソン博士の文章は、ビル・トッテン氏のコラム「今日の世界経済を理解するために」で紹介されていました。全文は次のアドレスで読むことができます。
http://www.ashisuto.co.jp/corporate/totten/column/1176091_629.html
この指摘通り、経済学はペテン学だと私も思います。

 unimaro | 2009.08.23 23:37

レスありがとうございました。
読んできました。
盛んに「リスクがなく利益を得ようと・・」というようなことが書いてありましたが、
リスクはあります。「信頼」が無い社会を築いてしまったことです。
海外(後進国)にいましたが、仕事で信頼できないということは非常に手間暇が増えることです。仕事を部下に依頼しても、ちゃんとできているか必ず確認しなければなりません。
また、最低限のレベルで済ませることが当たり前になってしまいます。
日本に帰ってきて、「ああ!!日本は仕事をするには天国だ、いかに覇権の仕事であっても!!!」
と感動しています。
どんなにレベルが低くても、「信頼が基本の社会」と「嘘が基本の社会」では、比較さえできるものでは無くまったく違う次元のものであると思います。
この博士でさえ、「信頼が基盤になっている社会」を知らないのでしょう。
と言いつつも、もう日本の「信頼社会」は崩壊の最終過程になりつつありますが。
などと愚考いたします。

 本郷猛 | 2009.08.25 21:42

unimaro様、再度のコメントありがとうございます。
ご指摘の点は全く同感です。
「自分以外は全て敵」とする社会と、「相手や周りとの信頼」を前提とする社会のどちらが、今後の世界をリードしていくか? 私は後者だと考えています。つまり、今後の日世界をリードするのは日本だということです。その根拠も含めて近いうちに投稿しようと考えていますが、その記事文中にunimaro様のコメントを引用させていただいてもよろしいでしょうか。

 unimaro | 2009.08.25 23:27

レスありがとうございます。
>unimaro様のコメントを引用させていただいてもよろしいでしょうか。
大変恐縮いたします。
少々でもお役にたてれば本望です。ただ、恥ずかしいので名前(HNですが)は控えていただければありがたいです。
今後とも勉強させていただきますので、どうかよろしくお願いいたします。
ありがとうございました。

 hermes handbags apricot | 2014.02.03 9:10

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