『アメリカの共和党と民主党』6・・・アメリカ(人)の意識(1/3) :「排他意識」と「アメリカ価値観の絶対化」
このシリーズで、ここまで、植民地時代~独立戦争~南北戦争~第一次大戦~ニューディール、とアメリカ史を追いながら共和党と民主党を追求してきました。
ここまでくると『アメリカ(人)の意識』に焦点を当てるのも重要で必要かと思います。
ここまでの流れを踏まえて分析してみます 😀
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
衆知のように、アメリカは、独立以来わずか200年の歴史(イギリス領植民地の設立からでも400年)しかなく、アメリカ社会は近代(市場)とともに始まった。
そして、当時のヨーロッパの封建・君主制の固定的身分社会の抑圧から決別してきた移民によって建国され、そして現在までも移民を受け入れることで国家を維持してきた。
この単純な事実は、アメリカの精神という視点で見ると、非常に重要なことが含まれている。
ブログランキングに参加しています。よろしくお願いします 😮
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「国内での変革」ではなく「移住による変革」を行おうとする移民の精神。
「“場”を変えることで私権獲得の可能性を求める→新たな“場”で自らの力で私権を奪っていく」というのがアメリカの精神の源流にある。
このことは、『誰にも自由に私権を獲得する機会が平等にある』というアメリカン・リベラルとデモクラシーという観念に置き換えられ、それが国家統合の観念になっていることからも頷ける。
(「アメリカン・リベラル=自由→私権を勝ち取る自由」、「アメリカン・デモクラシー=政策決定の参加が開かれている→私権獲得の参加が開かれている→誰にも私権を勝ち取る機会が平等にある」)
だから、場を変えて私権獲得の夢を目指す移民の受け入れは、「自由の国」、「機会の国」という国家の精神に照らしても否定できず、アメリカにとって存在理由そのもので、仮に否定すると自己の存在を否定する恐れすらあるもので、建前上も譲れないものです。
これが、アメリカにとって市場拡大・成長・大国化の源泉であり、逆に、限界、そして(他国にとっても)問題の素にもなっている。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
.何が問題か
アメリカ史は移民を受け入れて拡大してきた歴史だが、一方で、内部的には古くから来たものと新入りとの争いの歴史でもある。
アメリカは市場を拡大するうえで労働力が不足していたが故に、抽象的には移民を歓迎するが、他方では潜在的ライバルとして新しく来た移民を排斥しようともする。
例えば、あのピューリタンの町ボストンは、古いアングロサクソン・プロテスタント(WASP)と新しいアイルランド系カトリックとが地域的にも分かれて相対立した歴史をもつ。
そして、アイリッシュ(アイルランド)は数の力で勝ち、その代表ともいえるケネディー一家の歴史は、移民間の壁を一歩一歩乗り越えてのし上がってゆく歴史でもあった。
また、黒人奴隷制度の存在は、「機会の国」アメリカを正面から否定するものにほかならないが、なぜ、アメリカで世界から問題にされる黒人奴隷制度が根強く存在するのか
アメリカでは、ヨーロッパの固定的身分制の壁はないが、市場原理に則った貧富の階級の壁は頑然と存在する。特に、南部社会は、奴隷制を土台に少数の大プランターを頂点とする厳格な階層社会をつくっていた。
そこでは、階級の壁(白人の貧農の存在)は、人種の壁(白人優位の象徴の奴隷制)によってすりかえられている。
黒人奴隷制の存在はここに本質がある。
つまり、アメリカは移民国家で、見ず知らずの人同士という血縁・地縁(→共同体)とは無縁の多元的な移民人種の集まりで、このことはヨーロッパ的固定的身分制の壁は顕在させないが、強固な警戒心をもった移住民間の“排他的な壁“を頑然と存在させている。
☆ つまり、移民国家ゆえのアメリカ(人)の深層には、『排他意識』を強固に内在させている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そのため、民族的統合性(共同性)を欠くアメリカ社会は、社会的に分裂構造を内包しているため、他の社会より人為的な統合の観念を強力に必要としてきた。
これは、アメリカが、メイフラワー誓約の成分契約からはじまり独立宣言憲法から一貫して法文化で統合してきたことや、アメリカの政治体制を定めた憲法(1787)が世界最古の成文憲法ということからも頷ける。
つまり、「契約→法文」そして「理念→価値観念」に意識過剰なぐらい強迫観念的に拘る。
また、アメリカはヨーロッパのように体制の変革を経験していなく、近代より始まり近代しか経験していない国家だからか、アメリカにとって近代史が「超歴史的なものとして固定」しようとする意識が強い。
そして、近代の「自由」主義社会と始まりそれしか経験がないゆえに、自由主義社会の相対化の機能がなく“絶対化”しようとする面も強い。
つまり、近代の経験しかない多元的な移民の集まりの国ゆえに、強い警戒心をもった排他意識で、自己の存在(アイデンティティー)を常に問い、歴史がない国家でありながら、建国以来の自らのアイデンティティーとなっている『自由』という観念に伝統性をもとめ異常に執着する。
だから、アメリカ社会の統合価値観念の「リベラル」と「デモクラシー」という『誰にも自由に私権を獲得する機会がある』は、絶対的な正義の観念として存在している。
ここまで見て、
アメリカは、根底に『排他意識』に侵されながら、一方で、『誰にも自由に私権を獲得する機会が平等にある』というアメリカン・リベラルとデモクラシーに執着するという、相矛盾する意識の混濁を抱え続けており、
本音と建前、肉体と観念の混濁を抱え続け、それゆえにその価値を他者に押し付けて絶対化するために拡大(拡張)してきた面がある。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
.なぜアメリカは限界を迎えるのか
ただ、(建国から)第一次大戦頃までの、産業を支柱にして広大な大陸を市場化していくまでは、新旧のどちらの移民にも私権獲得の機会がハッキリと意識できていたため、意識の混濁は表面化することが無かった。
しかし、第一次大戦を経て、大陸内でのフロンティアが消滅すると、『誰にも自由に私権を獲得する機会が平等にある』は崩れ閉塞していく。
ニューディール前夜の1920年代は、繁栄の時代ですが、
人口統計上も都市人口が農村人口を超えて都市化が進んだことから見ても新たな土地開拓が終わり、
移民受け入れを制限する“移民法”が制定されたことからも、『誰にも自由に私権を獲得の機会』が急激に閉塞していく時代でもあります。
また、大量生産・消費が進みマスメディアの普及も相まって、中産階級の大衆の声が膨張していく時代でもあります。
また、WASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)以外の人種率も増えて下層・新移民の声も段々と無視できなくなりつつある時代でもあります。
このような状況から、私権獲得の機会が閉塞していくなかで、大衆は政治に対して“自ら私権を獲得する機会より、保障を求めだす”基盤がニューディール前夜に熟成されていたのでしょう。
そして、バブル崩壊の大恐慌を迎え、特に私権獲得の可能性が封鎖されてきた大衆から保障の声が噴出し、その期待に応えるようにニューディールが登場した。
しかし、「排他意識」と「私権意識」の強いアメリカでは、国家主導で平等に福祉を施すニューディールは成功しません 😈
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
しかし、ニューディールでの大衆の意識の変化は非常に大きいのではないかと思います。
ニューディールまでは、まがりなりにも「“自ら”私権を獲得する機会を求める」という能動的意識から、「私権そのものを要求する→権力によって獲得した私権の配分に参加することを要求する」という受動的意識に転換したのです。
.そうなるとどうなるか
国家が能動的に私権を獲得して、その私権を国内に還元して分配する必要が生じます。
国家の能動的行動は、他国への私権略奪行為を助長し国家権力が肥大していきます。
つまり、国家が私権を獲得するための行為に収束していく=帝国主義。
そしてその手段として、
最も手っ取り早く効率的な“武力介入”が発生し、そのために国内の軍事力が肥大していく
→ 軍産複合体の肥大
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ <つづく>
次の 「アメリカ(人)の意識(2/3):特殊性意識と孤立主義と膨張主義」 で、
殖民領時代、独立戦争時代の歴史背景も踏まえ、もう一歩、アメリカ(人)の意識に突っ込んでいきます 😀
引用・参考文献: 「アメリカとは何か」 斎藤 眞 著
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://blog.nihon-syakai.net/blog/2008/03/658.html/trackback
コメント8件
ボクチャイrルド | 2008.07.02 10:52
分かりやすかったです。田中宇さんも似たような事言ってますよね。イギリスの米英中心主義対アメリカ多極主義が今の構造だとか。それと照らし合わせながら読みました。
たっぴ | 2008.07.02 21:01
未明点は、なぜドイツの中央銀行だけは国有化されなかったのか?
①ユーロの発行機関である欧州中央銀行は、本店をドイツのフランクフルトに置く。
②欧州中央銀行の組織はドイツ連邦銀行およびドイツの州立銀行をモデルにしている。
③欧州中央銀行の本店、敷地の隣には、元ロスチャイルド邸宅があった。
④ロスチャイルドは、ドイツ出身(ユダヤ系)である。
⑤米・ロックフェラーもドイツ出身である。
以上①~⑤の要因から、
ドイツの中央銀行だけは国有化されなかったのは、ドル基軸通貨の衰退を見越したものではないでしょうか?
本郷猛 | 2008.07.03 0:33
ボクチャイrルドさん、コメントありがとうございます。
「ドル基軸通貨体制で儲けているのは、専らイギリスの金融資本で、アメリカ(産業資本発の)金融資本は、海外で儲ける(多極化する)しかない」という視点は結構重要で、この切り口で1970年以降の様々な出来事の真相を解明できるのではないか、と考えております。ご期待ください。
本郷猛 | 2008.07.03 0:42
たっぴさんもありがとうございます。
アメリカをしゃぶり尽くした後にヨーロッパに舞い戻る。その時に金融支配の拠点としてドイツ連銀を国有化せずに残しておいたという仮説かと思います。
ありうる話だと思いますが、それとからめて気になるのが、最近の地球温暖化キャンペーン⇒排出権取引の先に、炭素本位制という構想もあるようで、それとドイツ連銀⇒欧州中央銀行が絡んでいるのではないか?と直観的にですが、考えている所です。
米流時評 | 2008.07.06 3:45
勇者は帰りぬ・解放されたベタンクールさんフランスへ
||| 勇者は帰りぬ 自由の闘士パリへ |||
コロンビアゲリラから解放されたベタンクールさん、フランスへ帰還
フランス政府、パリ市をあげて…
saito | 2008.07.19 22:40
>イギリスの金融資本はドル紙幣をばら撒き続け、ボロ儲けである。
とのことですが、イギリス資本であるFRBがドル紙幣をばら撒いたのが「ドル基軸通貨」である、とのことですが、もしそうなら、産業の優位性を失っても金融に特化する=(その時々で)産業の優位性を持っている国の紙幣発行権を支配する、ということで何故これが可能だったのでしょうか?ロックフェラーとの競争は?そもそも、ドルを増刷して石油を大量に仕入れることが出来る石油メジャーへの恩恵が大きかったのでは無いのでしょうか?
それと、
>イングランド銀行をはじめとするヨーロッパの中央銀行の多くが第二次世界大戦前後に国有化された。それは、アメリカ国家という大口貸付客を掴んだので、小国相手のチマチマした貸付業は店仕舞いしたということだろう。
とのことですが、FRBへ出資して紙幣発行権を支配することと、「貸付」とは違うものと思うのですが如何でしょうか?
更に言えば、ただの株主というだけで発行した紙幣が自分の資産になる「流れ=仕組み」を作らなければ儲けたことにはなりませんよね。これは何だったのですか?
hermes handbags beige | 2014.02.02 7:05
hermes bags online buy 日本を守るのに右も左もない | ドル基軸通貨体制で儲けていたのはイギリスの金融資本では?
自業自得、でしょうね。大手マスメディアの広告収入の落ち込み&アメリカの変調。
ひたすら大広告主である外資系金融企業や経団連系の輸出中心企業の意向に沿って、国内経済弱体化のために張り切って論陣を張って来た大手マスメディア。
アメ…