2022年09月21日

【日本の技術の神髄から学ぶ】~木材①  人類の発展を象徴する資源=“木”の活用技術~

技術の神髄シリーズ、第一部は“鉄”でした。
現在も世界で活躍する金属加工・製鉄技術を持つ企業が数多く存在する日本。その技術を支えていたのは「より良いものをつくる」という答え(与件)のない問いに対して、没頭し、愚直に向き合いつづける職人の精神性と、『無生物に意志=精霊をみる自然観』という世界観。これらが組み合わさり、優れた能力を育んでおり、それらを個人に留めることなく、技術を贈与し、広げ、受け継いできた共同体性こそが、日本の国家レベルでの技術力の高さの根源にあったのではないか、という大きな全体像が見えてきました。

ここからは次のシリーズ移っていきますが、鉄を調べていくうちに浮かんだ疑問があります。
それは“鉄がなぜこれほど発展していったのか?”ということ。探っていくと鉄の発展の背景には “木”  があるということが見えてきました。
人類は”木材を加工するために”、石を使いはじめ、銅・鉄と発展し、切れ味と丈夫さを追求していったのではないか、という視点で、人類の文明発達を象徴的に表す資源は、これまで鉄と言われてきましたが、実は “木” こそが人類の発展を象徴する資源だったのではないか、という仮説です。

にほんブログ村 政治ブログへ

ということで、第二部は木。
優れた木材加工技術を持ち、現代においても世界的に注目されている日本。
木材を切り口に日本のモノづくりの可能性を探っていきます。

—————————————————————————–

1.「日本」木造建築物の生産システム
日本は、木材加工の文化が非常に豊か。木材の加工精度は世界随一だといわれています。
例えば、木造建築の精度。現代でも残る「木組み」の技術は、世界的にみても珍しく木材同士を精緻に組み合わせて、建物を支え、建築を作り上げていました。

しかもそれは、大工がのみやカンナなどを使う「手刻み」で継手や仕口を加工していました。その精度は1ミリ以下。(写真下段が木組み。上段は組子細工)

さらに驚異的なのが、一本ごとに異なる木のゆがみや木目・乾燥具合などの特性をみながら、わざと隙間をつくり、『逃げ』を意図的に調整しているということ。常に全体として丁度いい塩梅になるようにバランスさせながら使うことで、「強固かつ柔軟で長持ち」する構造を実現していたというから驚きです。

事実として、そうして建てられた建築物は今も数多く存在しています。

例えば、世界最古の木造建築である法隆寺。約1400年間、飛鳥時代の創建以来、今の姿をとどめています。その超長寿命を実現した要は、地震や台風に耐える強固かつ柔軟な構造。そして、バラして傷んだものを差し替え、再度組み立て直すことができる「木組み」工法の持続性の高いシステムにあります。

改修は約100年という長期的な時間軸ごとに行われますが、「木組み」という現代の日本にも残る共通のシステム工法のおかげで当初の技術や部材を生かしたまま建物を解体し、修理・復旧することを可能にしています。(ちなみに“世界”最古の木造建築ランキングの10位までは、全て日本にあります。)

こうして、1000年単位で使い続けられてきた非常に優秀なシステムである『木組み』
持続可能な建築システムの実現態であり、非常に優れた工法である一方で、現代まで受け継いできた職人はごく少数。
近年80%以上の建物が工場でプレカットによって建てられていますが、実はいまだに手刻みでないと実現できない工法も数多く存在し、もし工場でカットしても現場では合わない、組めないなどが起きてしまいます。

このように技術が急速に失われつつある状況なのが現実。それは同時に高度な木造建築物の生産力も失われつつあることを意味し、現在の日本では伝統技術としてだけ残り、衰退してしまっています。

 

 

2.「世界」の木造建築物の生産システム
一方で海外はどうでしょうか。ドイツ・北欧・カナダなどに中心に、近年、大規模な木造建築が増えています。
例えばカナダのバンクーバーには、柱や床などの主要な構造材に木を用いた高層ビル「ブロックコモンズ」という建築あります。2017年に完成したこのビルは、木材を多用しているのにもかかわらず、高さ53メートル、地上18階というのだから驚きです。

ブロックコモンズ

同規模の施設をコンクリートで建てる場合に比べ、工期を4ヵ月も短縮できたほか、二酸化炭素の排出量を243万2,000トンも削減したといいます。コンクリート造や鉄骨造と比較し、地球環境に配慮しつつ工期を短く、軽量化もできる木造の大型建造物はメリットが多いと言われ、海外を中心にその技術は急速に発展しています。

 

木造建築が増えること自体は良いと思います。が、その実態はどうでしょうか?

ブロックコモンズ

これらの大規模な建築物の大半は、木材を”接着剤”でくっつけた「集成材」が使われています。
ごく当たり前に使われていますが、接着剤は石油性で近年登場した素材であり、何年持つかは未知数。100年単位の寿命を保証できない可能性もあります。
また需要が急増している理由の一つに「炭素税」の存在があります。コンクリートや鉄骨造は非常に税金が高く、木造は税率が安い。これは地球環境に配慮するよりも、実態は「節税=金」のために、木造建築が建てられているということを意味し、長期的な視点で、本当に合理的な木造建築となっているかは、今後慎重に見ていく必要があると思います。

 

3.「これから」の木造建築物の生産システ
こうして深堀していくと、現代は木造後進国となっている日本も、本質的には勝る面も多く、勝ち筋が見えてきます。
いつ・なぜのこの優れた技術が失われてしまったのか?を今後さらに追求していくことで、日本の戦い方とは?学ぶべきことは何か?を見出していきます。

List    投稿者 suga-masa | 2022-09-21 | Posted in 13.認識論・科学論, 18.市場経済崩壊後の新社会へNo Comments » 

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://blog.nihon-syakai.net/blog/2022/09/13851.html/trackback


Comment



Comment