変わる生産と消費の繋ぎ方 物流が向かう未来の姿は?
ネット通販が浸透し、いつでもどこでも欲しいものをすぐに届けてもらえることが当たり前になった。配送される物量は増え続け、コロナ禍での在宅需要でさらに増大している。人々は利便性を享受する一方で、商品を届ける宅配の現場は、担い手が常に不足し、人材の活力問題も逼迫している。
今や日常生活を営む上で欠かせない社会インフラとも言える物流業界が、安さと速さの競争圧力の中で疲弊し続けていくしかないのだろうか。その突破口を近代の物流史を俯瞰し探ってみたい。
●明治~戦前 国家戦略としての交通網整備→民間運送需要の拡大
富国強兵政策の元、国家主導で海運→鉄道→道路(車)へと主役が交代していった。軍需・建設関連の物資の輸送に始まり、交通網の整備と共に官製郵便の配達網も整備され、明治中期以降には、大型荷馬車が荷物運搬に使用されるようになった。
大正時代には、道路整備の拡大、自動車の発達に加え第1次世界大戦の特需により、鉄道輸送を補完する道路輸送が広がり、国内物流の基礎を形成。政府の産業振興策により、生活圏での流通の中心を担っていた問屋の中から全国展開するところが現れ、商圏の大規模化を図っていった。
昭和初期には物流事業者も乱立し市場は拡大するも、高額な車を購入し、頻発する故障や交通事故の問題は常に付きまとい事業者を悩ませた。
明治150年の交通の歩み/昭和48年版 通信白書/日本型流通の進展
●戦後~70年代 生活の欧米化と輸送需要の拡大
戦後~高度経済成長期、大量生産・大量消費の時代へ突入。急速に物的豊かさが実現されていった。
日常生活においても、欧米発スーパーマーケットのスタイルが各地に進出し、大きく消費の形を変えていった。
生鮮食品を扱うことから、早く安く大量輸送ができるトラック輸送が拡大していく。
東京万博やオリンピックの開催に伴い、未整備だった道路網が地方まで進展。輸送需要はさらに上昇するも、増大する物量により、各物流会社に効率化という大きな壁が現れる。各社は物流拠点の整備etc物流システムの再構築を余儀なくされた。
スーパーマーケットの歴史/物流の歴史!業界の変遷から現代の課題までわかりやすく解説!
●80年代~現代 個人消費の急騰と徹底した宅配の効率化
70年豊かさ実現~バブル期には、各メーカーが家庭(個人)消費向けの商品やサービスを拡大。
民間運送会社も拡大する個人消費に対応するために宅配サービスを進化させていく。この時代に自宅まで荷物が届けられる宅配便サービスも登場した。全国の個人宅へ届ける宅配需要に応じ、各社はいつでもどこでもなんでもすぐに届けられるサービスを追求してきた。近年では、ネット通販の台頭と物量の急増で、効率化の圧力は更に高まっていく。
当然そこには大規模な設備投資が求められ経営を圧迫。配達員やドライバーの低賃金や労働の過酷さの問題、再配達による効率の悪化、人手不足の問題etcが膨れ上がり、現在でも答えが出ていない経営課題となっている。
ここ数年、効率性を高めるために公共の宅配ボックス設置や置き配サービスの普及といったサービスも台頭してきているが、根本解決には至らず、人手不足は解消されていない状況だ。
明治から現代まで物流業界は一貫して「生産・供給・販売側の市場拡大」に応え続けてきた構造にあると言えるだろう。上流の生産形態が変化し、消費行動が変化し、後発でその間を埋めるよう変化を求められてきた業界だ。故に、常に配送システムや体制整備が追いつかず、疲弊する業界構造にあるのではないだろうか。
●物流の可能性はどこにあるか
これまでひたすらに市場拡大を目指してきた上流の各産業は閉塞する市場に答えを見いだせていない。また、大衆の消費行動もただ安い・早いから安心・信頼・人間関係へとシフトしている傾向もある。
ここに物流や宅配の果たすべき新しい役割が存在する。決して効率的ではないかもしれないが、生産側と消費側をつなぎ、最適な商品・サービスを媒介し、需要を喚起し、双方の活力・充足を生み出す役割だ。既にその萌芽となる実践例も現れ始めている。(ex.ネコサポ)
ただモノを運ぶという枠を越え、人や情報もつなぎ、届けていくことが物流の向かう先でないか。
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