2012年12月21日

新概念を学ぶ5 生物の進化は安定と変異の両立によって成し遂げられた

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 前回の「新概念を学ぶ4 雌雄に分化は適応可能性を増大させ、生物の急速な進化を可能にした
では、塗り重ねにおける生物の進化過程の中で雄雌分化を見てきました。
 今回は、雌雄分化に至るまでの進化の過程上、最も重要な「変異と安定」について紹介していきたいと思います。

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前回に引き続き『実現論』「第一部 前史 ロ.雌雄の役割分化」から引用します。

 事実、進化の源泉はDNAの多様性にある。つまり、同一の自己を複製するのではなく、出来る限り多様な同類他者(非自己)を作り出すことこそ、全ての進化の源泉であり、それこそが適応の基幹戦略である。しかし、同類他者=変異体を作り出すのは極めて危険な営みでもある(∵殆どの変異体は不適応態である)。
従って生物は、一方では安定性を保持しつつ、他方では変異を作り出すという極めて困難な課題に直面する。その突破口を開いたのが組み換え系や修復系の酵素(蛋白質)群であり、それを基礎としてより大掛かりな突破口を開いたのが、雌雄分化である。つまり、雌雄分化とは、原理的にはより安定度の高い性(雌)と、より変異度の高い性(雄)への分化(=差異の促進)に他ならない。従って、雌雄に分化した系統の生物は、適応可能性に導かれて進化すればするほど、安定と変異という軸上での性の差別化をより推進してゆくことになる。(注:本書では差別化という概念を、優劣を捨象した客観的な概念として用いる。)

■安定と変異の両立とは?            
 安定と変異のシステムは、原核生物から真核生物に進化する過程で、どのように代わったのでしょうか。まず、原核生物の安定と変異のシステムを見てみます。

 原核生物も、安定システム=同じ細胞を増やしていく単純分裂と、変異システム=遺伝子を組み換える接合の両方を持っています。しかし、原核生物のシステムは、かなりおおざっぱで精度の低いシステムなのです。

 原核細胞の細胞分裂は、遺伝子を複製した後に、おまんじゅうの真ん中をぎゅっと握って半分にするような分裂で、分裂の際に遺伝子の配列を間違えていないかチェックするシステムは持っていません。また、接合による遺伝子組み換えも、全部の遺伝子を組み替えるのでは無く、プラスミドと言われる一部の遊離した遺伝子を受け渡す程度です。

参考:原核生物の細胞分裂性の始まり?大腸菌の接合

 これに対して、真核生物は全ての遺伝子を正確に2分割する安定システムと、全部の遺伝子を交換する変異システムを獲得しています。それはどんなシステムか詳しく見ていきましょう。
 

(1)安定性を高めるシステム【有糸分裂】


 原核単細胞よりも多機能な真核単細胞の内部には、ミトコンドリアや、葉緑体や、小胞体・ゴルジ体等の沢山の器官があります。それらを統合する核の情報をきっちり2つに分けなければならない。

 その分裂過程は①ミトコンドリアなどなどの内部器官とDNAを2倍にし、②それらを糸で細胞の両極に引っ張ることによって、正確に2個に分裂する(有糸分裂)。
これによって、真核細胞は安定性を保持しつつ分裂することが可能になりました。
 
(2)変異システムの高度化【減数分裂】


 原核細胞から真核単細胞生物になると、新たなDNA組み換えの仕組みを獲得します。それが「減数分裂」です。

①1セット(1n)のDNAを持つ真核単細胞生物が『合体』。そして、1nが2セット、倍のDNA(2n)をもつ一つの細胞になる。
②1n 2セットを更にコピー。
③(隣り合った)DNAの組み合わせを変える。(交叉・組み換え)
④有糸分裂で2nの細胞二つに戻る(第一分裂)
⑤更に有糸分裂
⑥DNAが1セット(1n)のもとの形に戻る:【完成】


 減数分裂が終わったあとの成果品をよく見てみましょう。
・もとの1セットのDNAを単純に交換して合体させた細胞(ピンクと青が二つならんだもの)が2個。
・もとの1セットのDANを交互に組み替えた(ピンクと青が1入り混じった)DNAを1セットもつ細胞が2個。あわせて4つの細胞に分裂しました。この4つの細胞はいずれも、同類他者。これが大きなポイントです。

 単純分裂では、分裂前と後で全く同じ遺伝情報が伝わりますが、減数分裂では大幅な情報の組み換えが行われます。例えば人類の場合、23対の相同遺伝子を組み替えることで、2の23乗=838万8608通りの組み合わせが可能になります。
 

(3)安定と変異システムの高度化【二倍体単細胞の減数分裂】

 図は左が一倍体生物の接合→減数分裂を表し、右が二倍体生物の単純分裂→減数分裂を表しています。

●安定システム
 真核単細胞生物の段階になると、一倍体(n体)単細胞生物から二倍体(2n体)単細胞生物へと進化するものが現れます(現存するものではゾウリムシなど)(二倍体についてはコチラ)。

 この二倍体単細胞生物は、通常状態では単純分裂によって子孫を残します。しかし、これだけだでは安定的に変異体を作り出すことができません。そこで、減数分裂により一倍体細胞を作り出し、同種の個体から発生した一倍体細胞と接合することで、次代の二倍体単細胞生物となります。

 二倍体生物は、遺伝子のスペアーがあるので、一方が傷ついても直ちにスペアーを鋳型として複製することが可能です。また一倍体生物に比べて余剰たんぱく質も多く、このたんぱく質を使って膜から膜へ情報伝達していくことができ、外圧適応上「安定的」といえます。

●変異システム
 一倍体は環境が悪化した時に接合し、減数分裂をします。逆に言うと環境が安定状態の時は変異を生じません。

 一方、二倍体は、一定の回数単純分裂を繰り返すと環境の変化に関係なく減数分裂を起こすようになっています。つまり、常に環境変化に対応できるように準備をしているのです。
 さらに遺伝子交差は一倍体に比べ4倍の組み合わせが生まれるため、変異システムとしても優秀です。


 以上まとめると、生物が外圧に適応し続けるために高度化させた『安定/変異システム』は、

(1)安定性を高めるシステム【有糸分裂】をし、
(2)変異システムを高度化するために【減数分裂】を行って
(3)安定・変異システムを高度化し、両立させるために【二倍体単細胞の減数分裂】
に至ります。


 そして、その後生物進化の歩みを辿っていくと、この二倍体単細胞生物の中から多細胞生物が生まれます。
 多細胞生物は、単純分裂を子孫を残すためではなく「体細胞を作り出すためだけ」に使います。また、減数分裂を「子孫を残すためだけ=受精卵を作り出すためだけ」に使っていきます。
 つまり多細胞化(=細胞の役割分化)への布石は、この二倍体単細胞生物の分裂システムにあるのです。

 多細胞生物以降に生まれるほとんどの生物は、この安定・変異システムを元に進化を遂げていくことになります。それは、私達人類も変わりません。
つまり、遺伝交差という小変異を組み込んだこのシステムは、外圧適応態たる生物の最も重要な適応システムであり、生物の大進化と位置づけられるのです。

 改めて、生物のこの巧妙なシステムを見つめ直してみると、私達生物(正確には真核生物以降)は主体的に変異していく存在であるということに気付かされます。現在の生物学会の主流を占める「突然変異・自然選択説」では変異はたまたま起きるというその一点に集約されますが、そうではなくて私達は逆境に対峙した時、自ら変異していくことで新たな適応可能性へと収斂していく存在、そんな気付きを生物の進化から見出すことができます。

 次回は、雌雄分化と各々の役割がどのように決まってきたか、その歴史と必然性に迫りたいと思います。

List    投稿者 ginyu | 2012-12-21 | Posted in 13.認識論・科学論No Comments » 

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