2014年03月09日

【情報戦】9.中世から近代における情報の支配者の変遷~マスコミ支配の登場~

 前回の記事では、ヨーロッパにおける諜報の原点は、ローマカソリック教会にあり、また、ヴェネツィアを出自とする金貸しはカソリック教会を隠れ蓑に、十字軍遠征等を通して大きな利益を得てきたこと、そして、教会の勢力拡大の実行部隊であるイエズス会は現代もおいても暗躍している様を見てきた。
 一方で、近代に入ると、情報の支配者はヴェネツィアを出自とする金貸しであるハプスブルク家タクシス家から新興勢力であるロスチャイルド一族に移っていった。
 今回の記事では、上述したような情報の支配者の変遷が何故起こったのか、そして近代における諜報勢力の中心はどこにあったのかを見ていく。
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タクシス郵便

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□郵便事業を統合・独占することにより、情報網を握ったタクシス一族
 中世から近代にかけて、ヨーロッパにおいて情報を支配する力を持っていたのは、タクシス家である。タクシス家は、15世紀から18世紀の間、各地の飛脚や色々な郵便を統合し、16世紀初めに一般に利用される郵便事業をおこし、郵便のスピードを飛躍的に上昇させることで、ハプスブルク家から任命を受け、郵便事業を独占した。

中部を支配したハプスブルク対反ハプスブルク勢力で戦乱に明け暮れた16世紀、この両勢力に資金を貸し付けたり、傭兵を貸し付けることで金儲けをする専門的な情報屋(スパイ活動する集団)がいた。その中で、タクシス家はこの2つの勢力両方に、「敵軍の情勢、軍勢」の情報を教える、戦争のための情報提供を行っていのである。
リンク

□情報を「利用」し始めたロスチャイルド一族
ロスチャイルド家が情報をいち早く入手し、情報戦線における優位性を獲得したのはタクシス家と強い関係性を結んだことに始まる。タクシス家に取り入り、大量の資金を提供することによって、ロスチャイルド一族は他人の手紙の内容を知ることが出来た。そのとき使われていた手法は一番早く手紙を湯気の上に翳(かざ)して糊がはし、中を急いで読み取って糊を付けて何食わぬ顔で元に戻すという手法である。
 ロスチャイルド一族は、各地の事件をいち早く知り、証券取引所に駆けつけては、得た情報を利用し、株式等の売買を行って利益を得ることで、その勢力を拡大していった。タクシス家が、情報を要人に流すスパイ活動によって利益を得たが、ロスチャイルド家は、その情報の流れを利用して、株の取引に応用することでその財を蓄えていった。
☆15世紀当初、情報の流通経路自体はタクシス家が握っていた。タクシス家は、同時争っていた二つの勢力の間で、スパイ活動を行うことで利益を得ていたが、情報自体の利用はしていなかった。
☆それに目を付けたロスチャイルド家は、資金を提供することで、その情報を商売に利用し、利益を蓄えていった。ロスチャイルド一族はここで他者の情報ネットワークを利用することで、自ら利益を拡大するという手法を生み出したのである
□独自の情報ネットワークを作り、利益を増大させたロスチャイルド一族
独自の情報網を確立し、一族の繁栄を可能にしたのがロスチャイルド家だ。彼らは、独自の駅伝網を確保し、伝書鳩も飼育して緊急時にはこれを活用した。またその手紙は機密保持のためヘブライ語を織り交ぜていた。こうした素早い情報収集が可能となる体制作りがロスチャイルド家が他の銀行や商人に対して優位に立つことを可能としたといえる。 

その情報網が、ロスチャイルド一族の大きな繁栄もたらした最も顕著な例が、ワーテルローの戦い(1815年)の際の英国債の売買である。時のロンドン・ロスチャイルド家の当主であったネイサンが、ナポレオンの敗戦をいち早く察知し、英国債を売ることで、他の投資家を「売り」に誘導して暴落した国債を安値で買い叩いた。その結果、ただ同然で英国債を買いまくることに成功した。これにより、ロスチャイルドの資産は2000倍にも膨れ上がったとも言われている。(リンク

☆ロスチャイルド一族は、タクシス一族から情報を盗み取る一方で、その情報をいち早く欧州各地の同族に伝える独自のネットワークを形成することにより、益々大きな利益を生み出すことが出来るようになった。つまり、他者の情報のネットワークのみに依存していた状態から自前の情報ネットワークを作り出すという転換が起こった。
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ワーテルローの戦い(William Sadler II )
□通信社をつくり、実質的な情報支配をはじめる
株式市場の拡大により相場情報、株式市場の情報を求める人が増えたことで、新聞(通信社)の登場する。これは、大衆が日常的にニュースや相場情報を得られるようになったが、これは同時に情報の発信者が大衆に対する情報の発信力が大きくなったことを意味する。つまりは、情報を操作することで大衆を洗脳することが可能になったのである。
このような時代背景の下、ロスチャイルド一族はフランスで1832年にシャルル=ルイ=アヴァスを雇った。アヴァスは通信社立ち上げ、フランス政府が運営する「腕木通信」を望遠鏡で盗み見、その情報をロスチャイルド一族に速報として伝えた。その後でパリ中の新聞社に提供することで、大きく成長した。
ロスチャイルド一族は金融取引で得た利益を背景に、このような通信者の広告枠を引き受ける代わりに、通信社から重要な情報の提供を受けていた。このような情報は大衆には流されない、或いは遅れて流されるため、実質的にはロスチャイルド一族が大衆に対して情報操作を行っていた。
また、ロスチャイルド一族は、アヴァスに継ぎ、ドイツのヴォルフ、イギリスではロイター通信社を傘下におさめ、欧州における情報支配網を拡げていった。
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フランスにあった腕木通信の中継局

アバスの2代目、オーギュスト・アバスは1856年、広告代理店と提携して広告部門を新設。新聞社に対し、海外ニュース提供の代償として、広告スペース(新聞の第3、第4 面)を申し受けることとした。広告を制するものは新聞を制する。アバスは非協力的な新聞に広告の割り当てを見合わせるなどして、新聞に対する支配力を強めていった。(リンク

☆ロスチャイルド一族は、一連の諜報活動によって金融取引を優位に進めた結果、大きな利益を手にした。利益の蓄積によって資金力も大きくなり、当時大きな力を持ち始めた通信社を支配することに成功した。この時点で、過去に郵便事業で財を成したタクシス家との資金力の差はかなり大きくなっており、情報網における優位性もロスチャイルド一族が勝っていたのである。
☆これによりロスチャイルド一族は、自前の情報ネットワークによる情報の収集のみならずマスコミによる大衆に対する情報発信が可能になり、「受信」→「受信+発信」という情報戦略上の変化を実現する。つまりは、自らは秘匿情報を優先的に入手し、大衆を情報洗脳することが出来るようになったのである。
 中世から近代の初め、郵便網を独占することによって情報のネットワークを握っていたタクシス家であったが、その情報を金稼ぎのために利用するのはロスチャイルド一族の方が上手であった。
その後、蓄えた資金を独自の駅伝ルートのような情報インフラへの投資や、株式市場の発展に伴って影響力を増したマスコミへの素早い参入などに費やしたロスチャイルド一族は、近代における情報戦を優位にすすめていった。

List    投稿者 yoko3 | 2014-03-09 | Posted in 14.その他No Comments » 

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