2012年04月12日

魔術から近代科学へ5~私権統合の確立と共に思考停止したローマ時代~

前回(魔術から近代科学へ4~物活論(有機論的全体論)→魔術→ニュートンへ)に引き続き今回は山本義隆著『磁力と重力の発見』「第三章」の要約投稿します。
 前回までは、ギリシャ・ヘレニズム時代において、要素還元主義が成立した背景=「自分以外は全て敵」→「精神の恐怖と暗黒」の塊→「恐怖と暗黒」から逃れるために強力に自我収束→自我をエネルギー源として架空観念(ex.原子論)が登場、そしてもう一方の考え方、磁力を一種の生命的・生体的な力としたガレノスの有機体的全体論について扱ってきました。
 今回は、ローマ科学史の研究者いわく「(中世の)暗黒時代の科学は、その発端からローマの科学と精神的に近親性を有している。その兆候はプリニウスに明白に見て取ることができる。すなわちギリシャの科学を理解しえなかったこと、馬鹿げた逸話と真面目な理論、根拠のない意見と合理的な思想を区別出来なかったことである」といわれた、ローマ帝国の時代について扱いたいと思います。
 
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            ローマ帝国コロッセウム
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 ギリシャ・ヘレニズム時代には近代科学に繋がる要素還元論、有機有機体的全体論が展開されていたのにも関わらず、ローマ帝国時代はどのような変化があったのでしょうか。
 引き続き山本義隆氏の『磁力と重力の発見』から「第3章 ローマ帝国の時代(前半)」の要約を引用しながら、見て行きたいと思います。

1.アイリアノスとローマの科学
 
 アレクサンダー大王の死後、ギリシャ世界はヘレニズム諸国家に分裂しマケドニア人の支配下に置かれていたが、その時代はギリシャ世界の衰退過程であった。紀元前30年にはヘレニズム諸国家は終焉を迎え、巨大なローマ帝国が成立し、安定した支配体制を200年以上にわたって持続させることになった。
 
 ローマがアレクサンドリアから継承したのはギリシャ文化のわずかな断片でありみじめな残骸でしかなく、6世紀頃までは古代ギリシャの思弁的な自然哲学が細々と継承されるに過ぎなかったが、磁石と磁力についてギリシャの文献に書き記されたものとは明らかに異なる言説がこの時代には残されているのであり、その時代の自然力の受け止め方、ひいては自然そのものの見方を特徴付け、後世のヨーロッパ中世に大きな影響を及ぼすことになる。
 
 輝かしいギリシャの哲学と科学を特徴づけた論理性や合理性が見失われていったことは否めないが、紀元200年頃にローマ人アイリアノスがギリシャ語で書き残した『ギリシャ奇談集』に、ギリシャ以来の伝承内容及び当時の教養人のギリシャ文明をどのような次元で見ていたのかについて、その一端が示されている。哲学者たちのたわいないエピソードに終始し、それら哲学者たちの教義や理論は全く触れられていない。ギリシャ文化を語ることが当世風の流行であり、知識階層の見栄であったようである。
 
 この手の書物がいくつも出され、もっとも包括的で徹底的、その後の書物に出発点に当たるプリニウスの大著『博物誌』(AC.70)、その少し前に書かれたディオスコリデスの『薬物誌』(AC.60)はローマの学問の特徴を捉える上で外せない。
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                 ギリシャ奇談集
 
2.ディオスコリデスの『薬物誌』
 
 ディオスコリデスは軍医として軍隊とともに周遊移動しながら『薬物誌』の資料を編集した。本書はギリシャ遺産の再現模倣にとどまらず、独自の調査や観察を加えて薬物学・薬草学の集大成というべきものである。同時代のガレノスも本書を医用薬物の集成として「もっとも完全なもの」と評し、近代初頭、16世紀中期のイギリスにおいても、ガレノスやヒポクラテスとならんで権威として認められていた。
 
 『薬物誌』の記載項目の大部分は薬草についてであるが、鉱物も100種が記載されている。中には現時点でもほぼ正確な、水銀の抽出方法や、誤飲時の対処方法なども記載されている。古代の本草書と宝石論には“占星術的な植物学と鉱物学”がいっぱいつまっていると言われるが、この書には伝説や迷信的ヨウ素がきわめて希薄である。にもかかわらず、磁石についての記述だけは、全面的に俗信口承に依拠したものであり、磁石や磁力が当時どのようなものと受け取られていたのかを示している。
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               薬物誌                ディオスコリデス
 
 第1にギリシャでは磁力の「なぜ(根拠)」が問われたが、ローマでは磁力の「どのように(効力)」のみが問われているのである。そして第2に、その「どのように」においては、物理的な作用と生理的な作用の区分だけではなく、自然的な作用と超自然的な作用の境界すらもが融解し消滅している。論じられている数多くの鉱物の中で超自然的な効能が記載されているのはわずか6例であり、磁石についての記述は異質で浮き上がっている。
 
 磁石には婦人の不貞を見破る力が備わっているというような、現代科学の観点からも、キリスト教の立場から見てもいかがわしい話が、じつはヨーロッパではその後1千年以上にわたって途切れることなく語り継がれてゆくのである。

 
 
 冒頭でも論じた通り、一般的にはローマ帝国時代というのは近代科学史における暗黒時代と見られている。本文中にも示されているが、ローマはギリシャ文化のわずかな断片のみしか継承しておらず、要素還元主義や有機体的全体論といった架空観念も息を潜め、語られることすら無くなっている。
このように、
ローマ時代に(架空観念とは云え)自然追求力が衰弱したのは、何故なのでしょうか?
 ギリシャ・ヘレニズム時代とローマ時代帝国では一つ大きな違いがあり、ローマ帝国時代において私権統合が確立したという事です

寄せ集め集団を結集することに成功した大勢力が勝ち抜き戦に勝利し、国家を形成・支配してゆく。
単位集団であれば力の原理だけで統合できるが、大勢力を結集するには力の原理だけでは無理で、私権統合するしかない。実際、私権統合に長けていたの遊牧部族⇒交易(騙し)部族が、大勢力を結集し国家を形成していった。
これが私権統合が必要になった第一義的要因だが、もう一つ副次的要因もある。
略奪闘争が始まったとは云え、戦闘期間よりも非戦闘期間の方が長い。戦闘状態であれば力の原理だけでも統合できるが、非戦闘状態ではそれだけでは統合できない。とりわけ出自バラバラの生き残りを寄せ集めた集団は末端まで私権収束しており、集団を統合するには私権統合するしかない。
力の原理と私権原理の関係をまとめると、
①根底にあるのは力の原理であるが、戦争を勝ち抜く⇒大勢力を結集するには私権統合が必要になり、
②私権統合は戦争時だけでなく平和時でも統合できるので、力の原理を下敷きにして、配下の戦功に応じて身分=領地を与えるという形で私権統合が成立したのである。

ところが、敵部族を征服し支配に組み込んで行くようになると、かつ戦争が終ると、戦功に応じて身分=領地を与えるというやり方では国民全体を統合できない。そこで、末端まで私有権を法的に認めるという法制共認に移行する。私有権を法制共認させることによってはじめて、力の序列共認も確立し、国家は国民全員を統合することができるようになったのである。
『るいネット』「力の原理と私権原理(統合)の関係構造」

 西欧で私権統合をはじめて確立したのがローマです。だからこそ、ヨーロッパ、西アジア、北アフリカに至る広大な帝国を築き上げ、数百年に亙って支配することができたのです。
実際、ローマ法と呼ばれる法律が整備され、私有権が法制共認されてゆきます。このローマ法が西欧の近代法の起源です。

西洋の近代法の基礎にあるのは、6世紀に確立された「ローマ法大全」にあるようです。つまり近代法の殆どの出所はローマ法及びその解釈にある、というくらいに決定的な存在であるようです。
ローマはヨーロッパ、西アジア、北アフリカに至る広大な帝国を築き上げました。首都の人口は当時既に100万。その際ローマ人には「ローマ法」を、異民族には「万人法」が制定され、それらそれぞれ別に適用したという歴史があります。実はこの異民族向けの「万人法」が近代ヨーロッパ法典の基礎となっています。
法律とは、支配秩序をズッポリと追認し、その中で起こるいざこざ=私権対立の解決の指針を与えるものです。つまり社会の秩序化の為に、力の序列=身分秩序を体制の骨格とし、それを観念化された法令で部分的に補強する、という性格のものです。
【参考】近代法⇒普遍法は異民族支配と商業のために生まれた

 
そして、婚姻制度もギリシアが略奪婚を残したのに対して、ローマでは一対婚(一夫一婦制度)が確立します。略奪婚であれば「いざとなれば女は略奪すれば終い」ですが、一対婚では女が浮気していないかどうかが、男たちの心配事になります。だからこそ「磁石には婦人の不貞を見破る力が備わっている」という如何わしい話が古代ローマから1000年以上に亙って西欧では語り継がれたのでしょう。
 逆に云うと、ギリシャ・ヘレニズムの時代には未だ私権統合は確立しておらず(だからこそ、アレクサンダーのマケドニア帝国も短期間で滅んだ)、出自の異なる(守護神の異なる)寄せ集めの集団を統合するため、自然の守護神ではなく、要素還元主義や有機体的全体論といった誰にでも共有出来る架空観念による統合が必要不可欠であったのに対し、ローマ帝国時代には①異民族を服属させることによって領土を拡大し、彼らの縄張りを認めることで帝国(私権体制)を安定させる、②法制度と身分制度の確立によって国民末端まで私有権を認め、私権統合を追共認させたのです。
 
 
そして、

この私有権がいったん共認されると、社会の全ての土地と物財は私有の対象となり、人々は私有権を獲得しなければ生きていけなくなる。従って、誰もが私権(地位や財産)の獲得を目指して争うようになり、私権闘争の圧力が社会の隅々まで覆い尽くしてゆく。かくして、飢餓の圧力を下敷きにして作り出されたこの私権闘争の圧力は、否も応もない強制圧力となって人々をその中に封じ込める。
「私権圧力と過剰刺激が物欲を肥大させた」

 そして、ローマ人、とりわけ支配階級やローマ市民にとっては己の私権の確保が第一義課題となり、私権を確保しさえすればそれだけで生存が保障される様になり、その結果、己の私権に関わること以外のことは、己の属する集団のことも社会のことも、何も考えなくなって終いました。
私権統合は思考停止を生み出すのです。
自然認識においてもローマ人たちは思考停止し追求力を衰弱させ、ギリシャでは磁力の根拠「なぜ?」が問われたが、ローマでは磁力の効力「どのように?」しか問われなくなりました。
 
 当然、法制度と身分制度により私権統合可能となれば、従来に必要とされた架空観念は不要となる。このように、ローマ帝国時代には要素還元主義や有機体的全体論といった架空観念は忘れ去られる事になったのです。
 
この私権統合の確立に加えて、ローマ時代は温暖期でした。
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その結果、ローマ帝国は非常に安定した時代を迎え、水道橋や道路などのインフラ、そしてコロッセオのような娯楽施設が出来るまで繁栄・拡大してゆきます。その結果、外圧が低下し、支配階級やローマ市民たちは自我肥大し妄想収束すると同時に、快美欠乏と娯楽欠乏を肥大させてゆきます。
その象徴が「パンとサーカス」という言葉です。支配者から無償で与えられる「パン(=食糧)」と「サーカス(=娯楽)」によって、ローマ市民が愚民化していることを指摘した言葉です。
 次回は、引き続き第3章 ローマ帝国の時代(後半)を扱いながら、当時の支配階級の快美欠乏と自然認識の実体に迫っていきたいと思います。

List    投稿者 pandaman | 2012-04-12 | Posted in 13.認識論・科学論16 Comments » 

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