日本のエネルギー産業はどこに向かうべきか? ~上野村の事例に学ぶ~
私達が生活の中で当たり前に使っているエネルギー。
約50万年前に人類が初めて火を使用して以降、さまざまなエネルギーに移り変わり、生活をより豊かにしてきてくれました。
私は建築設計の仕事に携わっており、石油や電池をつくる企業とお仕事をさせていただいています。
エネルギー産業は大きなパラダイム転換を迎えており、生き残りを賭けて新エネルギーへの投資を行っています。
私達が日常的に使用するエネルギーは今後どうなっていくのでしょうか。
◆再生可能エネルギーへのシフト
日本も再生可能エネルギーへシフトしていっています。
日本の再エネ発電量は世界で何番目だと思いますか?
2020年時点の日本の再エネ発電量は世界第6位とトップクラスです。
再エネの中の『太陽光発電量』で見ると、世界第3位とかなり力を入れている事がわかります。
なぜ再生可能エネルギーの開発に力を入れているのでしょうか。
近年の電力需要の逼迫状況、世界情勢による輸入エネルギーの不安定化など、昔から輸入に頼っている日本は『エネルギーの安定供給』に対する欠乏が特に高いと言えるのではないでしょうか。
◆日本の再生可能エネルギーの問題点
世界で見ても再エネにかなり力を入れている日本ですが、問題点も見えてきました。
日本で一番普及している再エネの太陽光発電ですが、太陽光パネルはほぼ輸入に頼っています。
太陽光パネルの国内生産量/海外生産量の比は、10/90で国内勢が大きく押されているのが現状です。
また、バイオマス発電の燃料となる木質ペレットも自給率は2割に留まっています。
国土の67%を森林に覆われている日本ですが、本ブログでも紹介した通り、原料の木を切り出す林業従事者が減り、安定供給するためには輸入に頼るしかない状況です。
その他の燃料のグリーン水素、グリーンアンモニアも主にオーストラリアから輸入しています。
輸入しているということは、船や飛行機で石油を使い運搬していることになります。
なぜこんな事が起こっているかと言うと、
エネルギーを発電する過程は関係なく、『発電量』を確保する事を目的とした政策や補助金になっているのが現状です。
このままでは本来目指している『エネルギーの安定供給』の基盤は一向にできていきません。
◆日本のポテンシャルを活かした再生可能エネルギー発電の事例
発電量を確保する事を目的とした再生可能エネルギーでは目先的になってしまいます。
エネルギーの安定供給の基盤をつくるには、日本のポテンシャルを活かした再生可能エネルギーを整備していく必要があります。
ヒントは地方の小さな村『上野村』にありました。
群馬の最南端に位置する上野村。総面積の9割以上という恵まれた森林資源を活かし、約10年前から木質バイオマスエネルギーの地産地消を実現しています。
温泉施設、宿泊施設、生活福祉センターや中学校、単身用集合住宅、農業用いちごハウス等の熱源としてペレットボイラーを使用し、バイオマス燃料の木質ペレットを年間約1300t生産しています。
村内の施設の上野村きのこセンターの事例について、
※【木質バイオマスエネルギーの地産地消システム成功事例! 過疎に悩んだ群馬県の村の地方創生・雇用創出・移住者増加の先進的モデルとは | フォレストジャーナル】より引用しています。http://forest-journal.jp
「現在、春と秋はこの発電施設(上野村木質バイオマス発電所)で100%エネルギーをまかなっています。
木質ペレットの製造のコストなどを考えれば、採算性がずば抜けてよいわけではありませんが、最初の目的である村の林業の活性化に貢献し、きのこセンターで移住者の雇用が生まれています。おかげさまで村営だったきのこセンターも独立して株式会社となり、経営の黒字化も果たせています」。
上野村の木質バイオマスエネルギーは、従来のたくさん発電して売電収入を得る目的ではなく、村の森林資源で地場産業を発展させ、雇用を作り、人口を増やし、村を存続するための礎となっている。
引用以上
元々、上野村は炭や薪で稼いでいた村で、石油が普及し需要がなくなり、林業も衰退していった経緯があります。
村長の「山主に利益を還元したい」という想いを原動力に再生可能エネルギーに着手。上野村のHPにも「灯油や石油などにお金を払い、産油国にエネルギーコストを持っていかれるのではなく、林業従事者に還元。その人達が村内で生活する事で経済循環を生むと考えている。」とあります。
再生エネルギーの発電量のように数字にすれば評価は簡単ですが、大事なのは成果に至る過程です。
日本のポテンシャルを知り、自ら何ができるのかを考え、昔林業が栄えていたときのように、循環の中で周辺の生活もエネルギーも一体で考える事を日本の小さな村に教えてもらいました。
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