2012年12月10日

新概念を学ぶ4 雌雄に分化は適応可能性を増大させ、生物の急速な進化を可能にした

「新概念を学ぶ3 生物は、種として適応するための成功体験の塊(塗り重ね構造体)である」では、生物の進化とは変異の塗り重ねの歴史であり、その背景には外圧状況の変化・適応、種として適応するための成功体験の塊である、ということみてきました。今回は塗り重ねにおける生物の進化過程の中で雄雌分化を見ていきたいと思います。

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まず『実現論』「第一部 前史 ロ.雌雄の役割分化」から引用します。
 

生物史上の大進化はいくつもあるが、中でも生命の誕生に次ぐ様な最も劇的な進化(=極めて稀な可能性の実現)は、光合成(それによって生物界は、窒素生物から酸素生物に劇的に交代した)であり、それに次ぐのが雌雄分化であろう。生物が雌雄に分化したのはかなり古く、生物史の初期段階とも言える藻類の段階である(補:原初的にはもっと古く、単細胞生物の「接合」の辺りから雌雄分化への歩みは始まっている)。それ以降、雌雄に分化した系統の生物は著しい進化を遂げて節足動物や脊椎動物を生み出し、更に両生類や哺乳類を生み出した。しかし、それ以前の、雌雄に分化しなかった系統の生物は、今も無数に存在しているが、その多くは未だにバクテリアの段階に留まっている。これは、雌雄に分化した方がDNAの変異がより多様化するので、環境の変化に対する適応可能性が大きくなり、それ故に急速な進化が可能だったからである。

  
 
それではまず、単細胞生物の「結合」から雌雄分化についての歩みを遡っていきます。
 
■単細胞生物の接合 
 
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生物の雌雄分化の原初的現象は、単細胞生物の「接合」に見ることができます。
接合は多くの場合、外部環境の変化=逆境を契機として行われます。
つまり、外圧変化に適応するために、細胞同士で遺伝子を組み替えて「変異」を生み出すメカニズムです。同一の自己を複製するのではなく多様な同類他者を生み出すことによって環境への適応可能性を高める戦略が雌雄分化の起点にあります。
同時に重要なのは、変異するだけでは適応できないので、安定的な細胞分裂システム(有糸分裂)、一つの細胞が染色体を2対持つ2n体などの「安定機構」を備えていったことです。安定的に変異を組み込むことor安定と変異の両立が生物にとって大きな課題であったのだろうと推察されます。
もうひとつの注目点は、単細胞生物には類型の異なる「型」がはっきり存在し、それを互いに認識しながら接合が行われている点です。この「接合型」が精子と卵子の分化、進化へとつながっていった可能性が高いと考えられます。
 
 
■殖産分化
  
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約10億年前、生物は単細胞生物から多細胞生物へ進化します。この進化過程の最大のポイントは「殖産分化」です。
単細胞生物は、その細胞一つで生殖も生産も担っています。そのため細胞の負担が大きく高度な機能進化は困難です。
 
一方で、多細胞生物は、生殖を担う生殖細胞と生産を担う体細胞を分化します。体細胞は生殖負担を無くすことで、筋肉、神経、消化器官などの各機能に特化・増殖していくことが可能となりました。また、「殖産分化」により、生殖細胞を生産過程=闘争過程にさらす必要がなくなり、生殖細胞を安定的に守ることも可能になりました。
 
この生殖と生産の専門分化がそれぞれの機能進化へと発展していく要因となったのです。
 
更に、殖産分化(=生殖細胞と体細胞に分化)する中で、体細胞は不死性(テロメラーゼ)を捨てます。体細胞は不死性を捨てることで、さらに生産に特化し捕食などの仕事の機能を高め、有性生殖による変異を必然的に組み込み進化を促進しました。殖産分化が生き物の寿命=個体の死を生み出した原因であり、個体の死を許容した種の方がより適応的であり進化してきたのが実情なのです。
 
 
■精卵分化
  
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多細胞化=「殖産分化」とほぼ同時に、生殖細胞=配偶子は精子と卵子に分化しました。これが「精卵分化」です。もともと有性生殖が誕生した当初は、雌と雄の配偶子は同型同大であった、つまり同型配偶子接合を行っていたと考えられています。そして、徐々に雌の配偶子が雄の配偶子よりも大きくなった異型配偶子接合が出現し、卵生殖へと進化していきました。
 
同型配偶子接合の時代はお互い動きあっていた配偶子ですが、一方が動き、一方が静かに待つ方が出会う可能性が上がりエネルギー保持にも優れていることから、運動役割を担う精子と栄養役割を担う卵子という形に進化していったと考えられます。
精子は運動を担うとともに、卵子を目指す過程で数多くの精子が淘汰され、より強い精子の遺伝子が伝えられると言う形で、変異に対応する役割も担っています。さらに、哺乳類のオスの体細胞には抗原タンパク質(HY抗原)という物質があり、精嚢と精巣を結ぶ輸精管の途中には、抗原物質を精子に浴びせるシャワー機能があります。これは、体細胞で外圧変化をキャッチして、精子に伝達するシステムが存在している可能性を示しています。
精子は変異に対応する「変異配偶子」に、その一方で卵子は栄養の蓄積から発生を主要に担う「安定配偶子」に進化しました。
 
配偶子が精子と卵子に分かれたのは、運動と栄養の役割分担により、受精過程(出会い)と発生過程(栄養を必要とする)の両方に適応的な形態への分化だといえます。そして精卵分化の本質は、精子:変異配偶子と、卵子:安定配偶子への分化なのです。
 
 
■躯体分化
  
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生殖細胞の分化(精子と卵子)によって、安定と変異の分化が一段進みました。この段階では、生物は雌雄に躯体が分かれたわけではなく、一つの個体の中に精子と卵子を作る生殖器官が共存しています。
生物史を振り返ると、種間闘争圧力が強まり、運動能力防衛能力の強まりが必要。オスは生殖負担が少ないため、闘争にいった。
精卵分化から雌雄の躯体が固定的に分かれるようになるまで、
その後、摂取機能の高度化が進み、その結果闘争圧力の上昇が生じました。これによって、更なる運動能力・防衛能力(体細胞系統)の高度化が要請され、同時に生殖器官の緻密さが求められます。このような外圧に適応するためには、オス・メスに躯体を分化していくことが適応的だったのです(特に脊椎動物以降に顕著)。この結果、雌雄躯体分化が進むにつれて、メスの生殖負担が増大すると共に、オスは闘争負担が増大する方向に進化していきました。
 
改めて、オス・メス分化史(殖産分化⇒精卵分化⇒雌雄躯体分化)を通してオス・メスの本質を整理してみると、
・オスとは、変異性の上に闘争能力(役割)が塗り重ねられた存在
・メスとは、安定性の上に生殖能力(役割)が塗り重ねられた存在
といえます。
生物は塗り重ね構造体であり、安定と変異を生み出すシステムを塗り重ねて進化を遂げました。
 
■まとめ
雄雌分化の歴史は、同類他者を生み出すために、安定と変異という軸上で、性の差別化を広げてきた歴史でした。雌雄分化の歴史を大きく分けると、以下の4段階に分かれます。
 
 
1.単細胞の接合:
真核生物の段階で安定と変異を両立しながら遺伝子を組み替える減数分裂のシステムを獲得。接合できる型が分かれ雌雄分化への歩みが始まる。この段階では単純分裂が中心で、遺伝子組み換えは環境が悪化した非常事態に限定されている。
2.殖産分化:
単細胞から多細胞に進化する段階で、細胞が生殖を担い安定性が求められる生殖細胞と、変異に対応し生産を担う体細胞に分化。体細胞は死ぬ事で、必ず変異した子孫を残すようになる。
3.精卵分化:
生殖に特化した生殖細胞は、安定が求められ栄養を蓄える卵子「安定配偶子」と、淘汰される事で変異をにない運動する精子「変異配偶子」に分化する。
 
4.躯体分化:
原始的な生物は雌雄同体が主流だが、安定が求められる卵子を生み出す体=メスと変異に対応する精子を作り出す体=雄に分化し、進化が進むほど雌雄の分化は固定化する。更にメスは安定性の上に生殖能力(役割)が塗り重ねられ生殖負担が大きくなるように、オスは変異性の上に闘争能力(役割)が塗り重ねられ闘争負担が大きくなるように、差別化を広げながら進化していく。
  
つまり、最初は雌雄の別はなく、環境変化に対して単細胞同士が遺伝子を交換することで変異し適応した。これが単細胞生物の接合。次に、多細胞生物では体細胞と生殖細胞に分化した。これが殖産分化。次に、生殖細胞が精卵分化した。ここでも一つの個体は精子・卵子を両方持っているが、最後に、精子をつくる雄と卵子を作る躯体が分化した。これが雌雄分化の概略史です。
こうして、雌雄に分化した生物は、DNAの変異を多様化させ、適応=種としての成功体験を塗り重ねていったのです。

以上のように生物は様々な外圧を受けて長い年月をかけ、雄雌に分化してきました。結合から躯体分化まで生命の雄雌分化過程を辿ると、雄雌分化とは様々な外圧に適応して雄と雌が作り上げてきた結晶物であり、数億年に及ぶ進化の上に塗り重ねられてきた壮大な成果であると言えます。そして、こうした雌雄分化による生物進化の最先端にいるのが哺乳類であり、人類なのです。私達人類は、この脈々と塗り重ねられてきた生物の性の分化をしっかりと理解し、それぞれの役割についてもう一度考えてみてはどうでしょうか。
 
次回は性の差別化を広げてきた「安定と変異」について、さらに詳しくどの段階でどのように実現されているかをみていきます。

List    投稿者 GO-MITU | 2012-12-10 | Posted in 13.認識論・科学論No Comments » 

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