メディア・コンテンツビジネスは、過去の偉大な名作と競争しなければならない構造にある ~クリエイターにとっては非常にツライ時代の到来~
前回に引き続き、『グーグルに勝つ広告モデル』より、インターネット・メディア・コンテンツ・広告というものを考えるにあたって参考になる視点や、メディアの可能性を追求していく上で皆さんに役に立ちそうな部分を紹介させていただきます。
また、クリエイターの代名詞であるプランナーやデザイナーをはじめ、建築家や作曲家、作家・・・たちにとっては、非常に厳しい時代が到来しているということにも気付かされます。
おおよそ新しいものを生み出したり、創り出したりするコンテンツやメディアのクリエイターたちは、過去の偉大な名作や傑作と対決・競争しなければならない宿命にあるという指摘には深く唸らされます。
■メディアに回せるアテンションの潜在量は1日平均5時間/1人が限界
マスメディアビジネスの本質がアテンションの卸売業であるということは、成長の鍵はアテンションの取扱量ということになります。この点について考察してみましょう。
これは、縦軸に時間を、横軸に日本の人口をとったチャートで考えるとわかりやすいです。縦軸の最大値は24時間、横軸の最大値は1.2億人ということになります。このタテ24時間、ヨコ1.2億人という長方形が、日本という市場で獲得できるアテンションの総数ということになります。
この面積を様々なサービスやモノが奪い合うことになります。一番大きなシェアを占めているのが睡眠で7.4時間あります。次に大きいのが仕事で同4.5時間。ここまでで11.9時間というところです。
これにあとは育児や家事、身の回りの用事や通勤、通学を加えていくと、だいたい平均で19時間くらいになります。つまり、24時間のうち、メディアやエンターテインメントは、残りの5時間を奪い合うという構図になっているわけです。
(※メディアに使える時間は一人あたり約5時間×1.2億人分しかない。これを多くの競合メディアやエンタメ、ゲーム等で奪い合うことになる。)
この状況下で、5時間に占めるマスメディアの獲得できるシェアを上げることはできるのでしょうか!?
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■メディア・コンテンツビジネスは「過去」と競合するビジネス
結論からいえば、この数値は増えるどころか、急激に減る蓋然性が高いのです。その理由は、過去のコンテンツにシェアをどんどん奪われるからです。
テレビを含めたメディア/コンテンツ産業が、他の産業と大きく異なる点の一つとして、「過去のストックが競合になる」という点が挙げられます。
(※コンテンツビジネスでは、各年で新たに生み出されるコンテンツと、過去のコンテンツ資産が競合関係を形成する。)
今日オンエアされるテレビ番組は、自宅にあるDVD等のコンテンツストックと競合します。コンテンツストックは時間がたてば経つほど蓄積していく=過去の蓄積です。つまり、今日オンエアされるテレビ番組は、自宅にあるDVDや本、雑誌と競合するわけです。これは他の産業では見られない、コンテンツ産業の際立った特徴です。
ストックは、時間の経過に伴い、いずれ無限大まで増加しまう。一方、需要はその瞬間に存在する市場に限定されるため、需給バランスは時間が経つに従って、ストックが無限に大きい方向に振れ続けていく、というのがコンテンツ産業の持っている宿命的な流れです。
加えて、名作とか傑作は一定の出現率に基づいて生まれてきますから、時間が経てば経つほど過去のストックの価値が増大していきます。つまり、常に「現代のコンテンツ」が歴史上どの時点と比較しても、より厳しい戦いを強いられるということになります。
現代のクリエーターには、常に全力を出して最高のものを創造する圧力がかかります。そうして出来上がった音楽や映像は、やがて「過去のもの」になり、未来のコンテンツと競合します。これはもとより解決不可能なジレンマです。
過去のコンテンツが現在のクリエイターの競合になってきたのは、19世紀ごろからです。
例えば、音楽を取り上げてみると19世紀までは同時代の作曲家の音楽を鑑賞するのが常識で、過去の作曲家の音楽を聴くことは慣習として存在していませんでした。
有名なバッハのマタイ受難曲は、多くの音楽関係者が地球上で最高の音楽としてこれを挙げるほどの傑作ですが、バッハの存命中に一度演奏されたきり、メンデルスゾーンが発掘するまでは死後全く演奏されませんでした。それぐらい過去のコンテンツに対する関心が薄かったのです。
翻って考えてみると、現代の音楽会のほとんどが、過去の作曲家にの作品に依存し、現代音楽家の作品はめったに取り上げられない状況ですから、19世紀とは完全に状況が逆転してしまったことになります。
なぜ、こういうことが起きるのでしょうか?
次回、その辺を探って行きたいと思います。
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