【世界の力を読み解く】~覇権争いの土俵にある中央アジアのいま~
前回の【世界の力を読み解く】シリーズでは、近代の世界覇権には必ずアジア掌握を行っていた構造を読み解きました。
では、そもそも当ブログでなぜ「中央アジア」に注目しているのか。
いま日本で報道されている世界動向や外交の情報は、「COP26」や「日米同盟」についてです。しかしこれらに対して、世界の覇権争いの中心にいる中露は見向きもせず、むしろ中央アジアとの関係構築を進めています。
日本では、中央アジア域を、テロ、砂漠、石油といったイメージ、世界の最果て地のような印象を持っている方も多いかもしれません。ですが、実は世界の覇権争いの土俵になっいるのが中央アジアなのです。
いま世界では、“本当は”なにが起きているのか。中央アジアをもとに読み解いていきます。
○これからの世界覇権の中心はアジアにあり
米国がアフガニスタンから撤退し、中央アジアでの制覇力が空洞化したかというと、そんなことはありません。
プーチンが12年12月の年次教書演説にて宣言した「東方シフト」。クリミア危機も相まって、ロシアは、急速に西から東へ、欧州からアジアへ対外経済の重心を移しています。
これと連動し、ロシアを中心とする「ユーラシア経済連合」も自由貿易協定(FTA)をベトナムとの間で発行するなど、アジア圏での経済活動を加速化させています。
そして、21年に締結した、中国の一帯一路やASEANを包含した「大ユーラシアパートナーシップ」で、アジア圏を中心とした他国間主義を急速に進めています。
また、「上海協力機構(SCO)」は、19年のサミットにて、テロ組織などから加盟国に脅威を与える勢力への対抗を協力して行う長期善隣友好協力条例などを結んでいます。今年9月には、イランが正式加盟したことで、イランが持つ陸・海の交易路の取り込み、そして内政が混乱するアフガニスタンへの干渉を強め、最終的にはSCOへの加入へ持ち込み、中露主導の多極化社会の実現性をより高めていくでしょう。
【各組織加盟国】
上海協力機構:中国・ロシア・カザフスタン・タジキスタン・キルギス・ウズベキスタン・インド・パキスタン・イラン
ユーラシア経済連合:ロシア・ベラルーシ・カザフスタン・アルメニア・キルギス
ASEAN:インドネシア・カンボジア・シンガポール・タイ・フィリピン・ブルネイ・べトナム・マレーシア・ミャンマー・ラオス
以下、中央アジア各国の動き
・イラン
中国とロシアが主導する SCO にイランが加わることで、強力な「対米同盟」ができあがることを意味しています。イランの参加で加盟国が 9 カ国となった SCOでは、アフガニスタンの復興とユーラシア大陸の統合に注力していくことを中露の両リーダーが高らかに宣言したということです。
・カザフスタン
カザフスタンのトカエフ大統領は、SCO が地域のマクロ経済の発展を進めるべきだと述べましたが、これは SCO が米ドルを使わず、地域の通貨を使って貿易を行おうとしていることを意味しています。
・シリア
2015 年以来ロシアの傘下にありロシアの支援がなければシリアは内戦でもっと多くの市民が死んでいたと思われます。シリアにとってロシアは恩人です。そんなシリアは中東諸国との関係はすでに良好です。今年レバノンへのパイプラインを修復するという事象がありましたが、その際にはエジプト、ヨルダン、シリア、レバノンが協力して修復が進められていました。
・アフガニスタン
これまでアメリカの好きにされてきたアフガニスタンを SCO 加盟国は、テロ、戦争、麻薬のない、独立した、中立の、統一された平和な国家に戻すために積極的な支援を行っていく事を表明しています。
中露は中東に支配という形ではなく現実的な課題を通して共闘関係を作っています。それはお互いにとってメリットのある関係であることが分かります。
これらの中央アジア圏各国の動向ついて、日本ではほとんど報道されていませんが、世界情勢を読み解く上で本当に注目すべきは、前述したアジア圏の同盟「上海協力機構」や「ユーラシア経済連合」、そしてロシアの「大ユーラシアパートナシップ」宣言と、中国の「BRI(一帯一路)」構想です。
そして、これらの動きが意味するのは、反米(反単独主義)、そしてユーラシア大陸の統合(多国間主義)へ世界が大きく動き出しているということです。
中露の構想や同盟がより醸成していくほど、米国による一極集権の単独主義に対して、「多国間主義が世界で勝ち残る」と主張してきた習近平の言葉を体現する、アジア中心のユーラシア大陸ができていくことを意味しているのです。
ここまでで紹介してきたように、近代以降つづいていた欧米諸国による支配構造が終わり、中露によって世界の重心が中央アジアはじめ、アジア圏域にシフトしてきています。
かつての中央アジアも、大国に囲まれながら、高い武力で侵略を防ぎ、東西の陸路・そして航路をつなぐ世界交易の中心地でした。独自の民族性と生業を築いていた中央アジアが、なぜ欧米諸国に支配され、世界の重心が西側に移ったのか。次回、欧米・アジアそれぞれの民族性から紐解いていきます。
by Shota
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