子どもたちの活力衰弱の突破口は?~秋田県はなぜ学力が高いのか~
体力・運動能力の低下、学力の低下だけでなく、意欲の低下、不登校や引きこもりの増加など、現代の子どもたちは極めて危機的な状況にあります。
子どもたちの活力衰弱をどうする?というのはこれからの日本の社会を考える上で、最重要課題です。
そこで今回は、全国学力テストで毎年上位常連の秋田県の事例を基に、突破口を探してみたいと思います。
上の表のように、令和3年度の全国学力テストでも、秋田県は小中学生とも、国語・算数の両科目で上位にランクインしていました。(一概に「学力=活力」とはいえませんが、今の子どもたちはそもそも活力が無い状態では勉強課題には向かえません…。その意味では、秋田県の子どもたちは一定の活力がありそうです。)
「秋田県はなぜ学力が高い?」というのは、これまでも色々なところで言われており、
・少人数学級を早期から導入している
・探究型授業を約20年前から実践している
といったあたりが、要因としてあげられています。
しかし、少人数学級や探求型授業は他の都道府県でも取り入れられており、それだけが要因とは考えられません。
では、他にどんな要因が考えられるでしょうか?
大きなヒントになると思われるのが、
秋田県知事:佐竹敬久氏の以下の言葉。
>昨今は全国的にモンスターペアレントが横行しているということですが、秋田県では先生と地域住民とが一体となって活動に取り組むとともに、先生と保護者がダイレクトに付き合うなど、学校と地域が自然なかたちで垣根をとった共存関係を保っています。
>秋田県では年中行事や「秋田竿燈まつり」といった地元の祭典に、学校側が積極的に参加。竿燈の実演や体験を通してふるさとの良さを感じ、郷土を愛する心を育んでもらえるよう秋田市内の小中学校へ竿燈を派遣したり、学校ごとの山車を出したりと、学校と地域が連携して「地元の文化を継承する」といった風潮が深く根付いています。※月刊:事業構想(2018年8月号)
当然ですが、子どもの教育は学校などの教育機関の力だけで完結するものではありません。保護者との協働や、地域と一体になって取り組むのが本来の教育の姿。
そしてそこをベースにした教育を行っていることが、現在の成果につながっているのではないでしょうか。
要は、子どもの活力(学力)を再生するポイントは、『学校・保護者(=家庭)・地域の一体化』。これができて初めて、現場での少人数学級・探求型学習といった具体的な活動が活きてくるということ。
そこで問題になってくるのが、「ではどうやったら一体化できるの?」ということ。
ここに関しても、秋田県の歴史をさかのぼると見えてくることがあります。
『昭和30年代、秋田県は全国学力テストで40位台に低迷していた』
今でこそ、秋田県は学力テストの上位常連ですが、昭和39年の「昭和の学力テスト」では、45都道府県中(福岡県は不参加・沖縄県は返還前)、小学6年生の算数が43位、中学3年生の数学が37位という結果でした。
この結果に、県の教育関係者たちは「これでは県外にいる県出身者は、胸を張って故郷を語れない。このような状況を何とかしなくては」強く危機感を持ったそうです。
『高度経済成長期に出稼ぎ者が増加=片親だけの環境が長期間にわたる』
昭和39年、出稼ぎ問題に取り組んでいた教育庁の社会教育主事は次のように語っています。
「父親が毎年6か月間出稼ぎに出ていくと、その子は義務教育期間9年のうち半分の4年半を片親だけの環境で過すことになる。出稼ぎ家庭の子どもの作文をみても、彼らが父を慕う強い気持ちを知ることができる。人格形成に大きな影響のある時期における家庭教育の欠除が一番恐ろしい」
このように、当時の秋田県は教育に対して圧倒的な危機意識を持っていたのです。
そして秋田県は、ここから本格的に“教育”に力を入れ始めます。かつ、小畑勇二郎知事の「本県を生涯教育の先進県にしたい」という強い想いをベースに、子どもだけにとどまらず“生涯”教育を推進していきました。
『県民一人一人の意識も高めていった小畑知事の思いと行動力』
昭和45年:「生涯教育プロジェクトチーム」発足
昭和46年:秋田県教育庁社会教育課内に生涯教育企画班を設置
生涯教育推進パイロット市町村に3市町村を指定
昭和47年:生涯教育推進本部を設置
昭和48年:市町村の生涯教育推進体制の整備・支援を重点施策とする
など、県は着実に生涯教育を推進していきますが、それぞれの自治体で開かれた生涯教育推進の集会には小畑知事も参加されており、県民と一体になって進めようという想いを強く持たれていました。そして、集会に出席されていた県民の意識もどんどん高まっていきました。
以下は、ある『村の生涯学習をすゝめる集い』に参加されていた参加者の声です。
「私にとっては30数年生きてきた人生の反省と、これからどうあるべきかを考えて話し合う唯一の場であると安らぎを覚えました。(中略)最後に県生涯教育推進本部長である知事の激励の言葉を頂き、これからは生涯教育パイロット指定村の名にふさわしくするために、村一人一人が積極的に新しい知識を、そして生きがいのある人生を送りたいと思いました。」
県の一方的な政策としてではなく、県民ともしっかり共有しながら進めてきたのが、秋田県の教育改革なのです。
つまり、自分たちの置かれている状況に対しての危機感と、何とかしたいという強い想い(=欠乏)。そして、どうする?をみんなが共有すること。これこそが、今の『学校・保護者(=家庭)・地域の一体化』につながっているのです。
学力向上に限らず、何事においても危機と欠乏を明確にして、方針もみんなで共有方針化すること。それが全ての出発点であり、そこから一体化へとたどり着くのではないでしょうか。
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