中国の社会経済体制~改革・開放前夜まで
この金融危機は「100年に一度の危機」と形容されていますが、実は数百年、あるいは数千年間にわたって続いてきた人間社会におけるシステムへの見直しが迫られているのではないか、という問題意識に基づき、まずはお隣の中国が挑戦した共産主義革命とは、そして改革/開放とは何だったのか、を考えるシリーズを書いてみたいと思います。
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■清朝中国を巡る経済情勢
イギリスは18世紀から東インド会社を拠点に中国貿易を独占し、茶・絹織物・陶磁器を輸入し銀で代価を支払っていた。中国は発達した養蚕技術と広大な農地による貿易黒字国だった。
これを一変させたのが18世紀から19世紀にかけて起こった産業革命である。工業化による大量生産に成功したイギリスの綿織物やセイロン茶が市場に出回るとともに、日本の絹織物などが興り、中国の対外輸出は著しく落ち込むことになる。
さらにイギリスは、乾隆帝没後の弱体化した清へアヘン輸出を始める。「我が国は自立し豊かであるからイギリスに1ペニーも支払うつもりはない。」と言わしめた中国は、アヘン汚染と国内治安の悪化、当時の新興独立国アメリカが行った銀相場操作によって経済・社会が破壊し尽くされることになる。
興隆を誇る一方、イギリスの開国の申し出をはねつけ鎖国政策を敷いたことで、結局は外国勢力への抵抗力を殺ぎ清朝滅亡を招く結果となった
乾隆帝 – Wikipedia
■清朝を巡る列強の構図
イギリス:インドを拠点としたアヘン貿易
アメリカ:中国国内で流通していた銀相場を操作し、現銀が暴落
日本:生糸生産で世界市場を制覇、関東軍の進出、日中戦争
清国:政治腐敗・国内治安の悪化と国家財政の窮乏
→清朝末期から辛亥革命後の中国大陸の産業構造は列強によって食い物にされる
■共産党政府の樹立
1945年、日本敗戦が敗戦し大陸から撤退すると、それまで合作路線を採っていた国民党と共産党は内戦に突入する。1949年、ブルジョアジーや欧米勢力の支持を得ていた国民党政府は台湾へ逃亡し、ソ連の後ろ盾によって共産党単独政府が大陸に樹立される。
一時は国共合作という同盟関係にあった共産党毛沢東(右)と国民党蒋介石(左)。蒋介石は戦後、訪れた日本人に対し、南京事件に関連して処刑された松井石根に対し、涙を流して謝罪の言葉を述べたという。
ことの真偽はノート:松井石根 – Wikipedia
南京事件と蒋介石 – news archives
■旧体制の共産主義的改造
新生中国において、共産党はマルクス・レーニン主義に基づき、政治経済体制の全てに共産主義的改造を行う。共産主義が理想として掲げるのは資本家階級の搾取をなくすことであるが、そのためには「商品」「貨幣」を追放し、市場を国家の厳格なコントロール下に置く必要がある。
1953年までには民間銀行、銭荘と呼ばれる私営銀行はほとんど消滅し、華北銀行を改組した中国人民銀行を頂点とする国家銀行へ統合される。改革開放までの時期、中国では資本主義経済で不可欠な手形、証券、株式、リース、保険などの経済行為はほとんど行われることなく、計画経済の元、全てが国家の指導体制によって運営されるようになった。
■マクロ政策
社会主義におけるマクロ経済で最も重要な指標は物価水準の安定である。古典的な市場原理による物価は、需要と供給のバランスにゆだねられるとされるが、需要と供給そのものを国家指導体制による計画経済が担う社会主義では、原理的にインフレーションは起こり得ない。換言すれば、マネーサプライと「マネー」そのものの流通を厳しく統制することで、市場は管理下に置くことが可能である、という思想であるが、むしろ古典主義経済学と通底しているとも言える。
■マネーの統制
資本主義経済では、マネーとして価値を持つ対象は手形や証券、不動産や人的担保など、実態の紙幣の形態に囚われない。モノの価値を自由につけられることが自由主義経済の「自由」の本質だからである。当然、余剰金を何かの投資に回すことも、銀行へ貯蓄することも自由である。
一方、社会主義経済では、マネーとは狭義の紙幣を指すので、その流通量は国家が発行し貸し出す貨幣量と一致する。企業体が蓄積した現金についても、短期運用のものを除き、一切が国家銀行に預け入れることが法律で定められていた。従って、通貨の発行から市井への流通に至るまで、貨幣価値の全てが国家に把握され総量を規制することが可能なのである。
■統収統支
労働価値として生み出されるもの全てを国家が吸い上げ、国家の政策に基づいて再分配するという意味で、これらの体制は「統収統支」と呼ばれた。もちろん、自由な経済活動を厳しく制限するには、「全ての権力を共産党に」という権力の集中構造が不可欠である。こうした社会では、物々交換も、闇市も許されない社会統制が必要になるからである。
■貸し出しは信用貸付
貸し付け業務についても、自由主義経済ではほとんど見られない信用貸し付け制度が一般的だった。信用貸し付けとは、無担保・無保証で行う貸し付けのことだが、農村や企業体が設備投資をする場合であっても、国家の計画に基づいて行うのだから、その投資主体に担保を求めるというのは原理的におかしな話である。
■開放前夜
しかし、信用貸し付けとは、逆の見方をすれば、国家と銀行が全てのリスクを取るということであり、政府の無謬性という虚構によって成立しているに過ぎない。こうした国家銀行へ蓄積され続けた巨額の不良債権は、70年代の改革・開放路線への転換によって明らかになる。
「統収統支」政策の元、物価は実体経済と連動し、マクロ指標上は低い水準で安定を保っていたが、国際政治の情勢の変化は、否応もなく中国経済に転換を迫ることになる。
■軍備拡張へ
米ソ対立を基軸とする冷戦は、両陣営の際限のない軍備拡張競争を生んだが、中国も例外なく、むしろ苛烈な軍備拡張を必要とした。歩兵が陸上で白兵戦を行う素朴な戦争が、戦術核と高度に発達したレーダー網など、最新の科学的治験を総動員した最終戦争の時代に突入したからである。
10億人民を飢えさせることなく統一するという新中国の国家目標は、個人の欲望を際限なく許容し、そのエネルギーを成長の糧とする市場主義経済との戦い、そして経済成長を前提とした軍備拡張の果てにたどり着くことになった核戦争後への生き残りへと、大きく転換することになる。
~続きます
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コメント13件
はっしー | 2009.05.28 19:40
鄧小平が、『3度の失脚と復活』ができたのは支援者がいたのですか?
支援者がいたとすれば、それはロスチャイルドですか?それともロックフェラーですか?
ひらの | 2009.05.28 19:42
今の中国の共産党権力を支えている資本はロスチャ?それともロックフェラー?
辻 裕彦 | 2009.05.28 19:44
中華人民共和国成立後、大陸内で誕生した新興革命財閥と、ロスチャイルド等ユダヤ系マネーメジャーとの密接な関係が、具体的には、歴史的にどのような面で見られるのか? その根拠をより鮮明に論じて欲しい。
hiromi | 2009.05.28 19:49
コミンテルン(=共産主義の活動をする場)で学んだはずの鄧小平がその後180度趣旨転換(農業政策→市場開放政策)したのはなんででしょうか?
当時のコミンテルンの活動が気になります。
こーん | 2009.05.28 19:53
勤工倹学の学生たちは自分たちを援助してくれるだけで社会主義を選択したんですか?その時代の中国の内政が知りたいです。
たっぴ | 2009.05.29 0:30
多くのコメントありがとうございます。
毛沢東が目指したものも、
鄧小平が目指したものも、ソ連のような社会主義国家・共産主義ではなく、それを少しづつ変速させて、如何にして自国が大国になる為の手段として、レーニンが提唱したコミンテルンがあったにすぎない。
毛沢東は、中国の国力を世界に誇示する為に農業を中心とした政策に舵を切ったが、大失敗してしまった。
毛沢東の部下として、鄧小平は中国の復権を目指すという事が、彼が望んだのは、『マルクスの唯物史観』にべったりしていたわけではなく、彼がもっとも望んでいたのは『中国復権』の中心であった。
すなわち、彼の言動からもわかるように『白い猫でも黒い猫でも、ネズミを酉さえすればいい。』という言動や、『毛沢東の農業路線から、軽工業産業や都市部の開発・市場経済化というフロー』は全て、いかにしてソ連の革命手法をいかして、中国の権威を取り戻すかに尽きる。
ソ連の革命論に習うべき内容は、
その為の方法論にしかすぎず、上記言動からも、
鄧小平は『現実主義者かつ民族主義者』という観点から全ての行動を取っている事が分かります。
また、金貸しとの関係は、
中国の国交が回復するまでの間は、ロスチャ主導であり、
アメリカで70年代に力をつけだしロスチャと力関係が対等になってきたロックフェラーが、中国に入り込んできました。
71年のキッシンジャーの中国訪問や、ニクソンの訪中などは全てロック主導で行なわれています。
また、新興財閥と金貸しとの関係性は、もう少し具体的に詰めていかないとわからないですが、いづれにしても金貸しが裏にいて、中国共産党のトップ層と連関して現在の新興財閥が作られていることはたしかです。
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いけち | 2009.05.28 19:33
コミンテルン(第三共産主義インターナショナル)とは何ですか?
1つの国から出来ている組織ですか?
聞いたことがないもので、良ければ教えて下さい(^^)