2007年10月19日

国語能力低下の原因1~外圧の低下と個人主義

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精神科医の和田秀樹氏がその著『国語力をつける勉強法』(東京書籍)で、日本の子どもの国語力の低下は国力の衰退を招くと警鐘を鳴らしています。
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OECD(経済協力開発機構)が(各国の子どもたちの学力到達度を調べるために)行っているPISA調査において、日本の子どもたちの読解力は世界の平均以下であることがわかったのだ。しかも、2000年調査から2003年調査までのわずかな期間に大きく順位を落としているのだから、私たちはこの結果を重く受け止めなければならない。(中略)それは国語力の低下の問題が、やがては国際競争力にも影響を及ぼしかねないという意味である。たとえば、日本人の言語を扱う能力が低下すれば、国同士、企業同士の交渉の場で相手にいいようにやられてしまうことになるかもしれない。そうなると国際社会における日本や日本の企業の立場は危うくなるだろう。国語力の低下は、じつはこのような深刻な問題をはらんでいるものなのである。

「国語能力の低下は国力の衰退を招く」という指摘は実に正しい。が、まず考えるべきは、子どもに限らず日本人の国語能力が衰弱した根本原因である。それは1970年以降顕著になり、2000年以降加速度的に進行しているが、実は戦後から始まっている。戦前の人々の書いた文章を読むと、その国語能力の高さに驚愕する。
戦前の教育において重視されていたのが、漢籍の音読・暗唱である。それが戦後教育との大きな違いである。戦前の国語能力の高さを支えていたのは漢文的素養だったと考えられる。
その中身は何か? 論語に代表されるように、漢籍の中心は儒教=序列規範である。序列圧力が強固であったからこそ、序列規範を言葉化した漢籍が絶対的な権威性をもち、それが強い引力となって漢籍の中身を吸収しようとするモチベーションを形成していた。だから昔の人は「読書百遍、意自ずから通ず」というように、音読を100回繰り返す努力を惜しまなかったのだ。現代人にはとても真似の出来ない所業である。
国語能力とは相手の話や文章の意図を読み取る能力であり、対象に同化し吸収する能力に他ならない。それを規定するのは外圧である。外圧があってはじめて対象に同化・吸収しようとする内圧が働く。
実際、2007年7月12日の記事「アメリカによって戦後植えつけられた教育は、奴隷の個人主義ではないか?」で述べたように、幕末から戦前にかけて強い外圧にさらされた日本においては「社会をどうする?」と真剣に考え続けたからこそ、凄まじい能力を発揮する人物が輩出した。外圧=内圧⇒能力なのである。
戦後一貫して序列圧力は衰弱し続け、対象に同化しようとする内圧も衰弱し続けた。とりわけ1970年貧困の圧力がなくなって以降は何の圧力も働かなくなり、漢籍に限らず対象文全般が「難しいのはイヤ」「面白くない」「面倒くさい」といった自己判断によって対象拒絶されている。それが国語能力の衰弱の根本原因である。
根本的な対策は、序列圧力に代わる共認圧力を高めるしかない。が、外圧の衰弱に加えて、国の教育政策が国語能力の衰弱に拍車をかけているのではないか。
敗戦後、日本の教育は集団主義から個人主義へと転換させられ、集団主義的・国家主義的なるものとして漢文教育は大幅に削減された。より本質的には、個人主義は自分に都合の悪いものを排除する。それは、あらゆる社会的圧力・集団的圧力の排除につながる。(序列圧力に代わるべき)共認圧力に対してはその破壊物でさえある(ex.「人それぞれ」という文句は共認を妨げ、思考を停止させる)。
つまり、個人主義による外圧の捨象が、日本人の国語能力の衰弱のもう一つの原因ではないか。その延長上にあるのが「個性教育」「ゆとり教育」である。その結果が、2000年以降の子どもの国語能力の加速度的低下なのではないだろうか。
(この稿続く)
(本郷猛)

List    投稿者 hongou | 2007-10-19 | Posted in 未分類 | 6 Comments » 

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コメント6件

 晴耕雨読 | 2007.12.14 21:33

今後の世界と日本

■ “新世界秩序”は米国の一極支配をめざすものではない
 戦後世界こそが米国の一極支配構造であり、“脱戦後世界”は、それとは違った新しい支配構造がプラン…

 大工の息子 | 2007.12.14 23:50

 国連憲章には、日独について国連決議に拘束されること無く軍事制裁を行うことが出来るという「敵国条項」が残っています。このことを一般に知らせることなく放置して、国連を世界政府のように喧伝する政府の頭の中はいまだに「連合国の占領下」なのでしょうか。

 どんべえ | 2007.12.15 20:01

確かに歴史を見るとそうですが、今のところ世界の国が話し合う場というのが国連でしかないのではと思います。それを全て置き換えるよりは、この国連を変えていく、例えば安保理での拒否権剥奪、敵国条項の削除、IMF/WBなど資本による投票権の廃止、WTOなどの自由経済至上主義の撤廃など改善することがたくさんあります。
ともあれ、国連の歴史をこのようにまとめて頂けると新たに理解が深まるのでとても助かります♪

 米流時評 | 2007.12.15 21:40

テロ戦争黙示録「核のテロ時代のアポカリプス」

   ||| 核のテロ時代のアポカリプス |||
核のテロの恐怖は現実だ!スロバキアで起きた濃縮ウラン密輸事件
昨年だけで濃縮ウラン紛失252件!恐る…

 本郷猛 | 2007.12.15 22:23

大工の息子さん、どんべいさん、コメントありがとうございます。
国連を話題にしたのは、金融資本による世界支配秩序の枠組みが大きく変わりつつあるのではないか?という問題意識からなのですが、その解明のためには、国連そのものよりも、その一機関であるIMFや世界銀行といった金融機構の解明の方が重要ではないかと考え始めています。
アメリカは国連とは軋轢を起こしているが、IMFや世界銀行といった自分の思い通りになる機関とは関係がいいらしいですし。この辺を追求しようかと考えています。
またコメントをお願いします。

 visit my webpage | 2014.03.28 16:33

hermes darmstadt 日本を守るのに右も左もない | 国連の出自~第二次大戦の戦勝国の軍事同盟

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