「大阪都構想」と「道州制」議論の本質とは?
橋下知事や大阪維新の会が提言している「大阪都構想」と、古くから議論されている「道州制」 。この二つは、共に行政区画の仕方についての議論なのですが、一般大衆からすれば、いまいち議論の本質がつかめない印象があるように思います。
そこで今回は、 「大阪都構想」「道州制」論議の本質とな何なのか?
それぞれ賛成意見 、反対意見を見ながらその中身について追求してみたいと思います。
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◆大阪都構想
【概要】
大阪都構想(おおさかとこうそう)とは、かつての東京府、東京市を東京都としたように大阪府、大阪市を廃止し、新たに大阪都を設置する構想である。
大阪市は、政令指定都市(人口50万以上の市)として都道府県と同格の権限を持つことになるため、大阪府は大阪市を直轄でコントロールできない。
(1)大阪府域全体を「大阪都」とし、大阪市と堺市は解体。
(2)その上で、現在24ある大阪市の行政区を8~9つの特別区に、7つある堺市の行政区を3つの特別区に再編。今ある行政区は2~4ずつで合併される。
これまでは重要な決定事項について、府は市の了解無しには動けないという支障があったが、これも解決できる。
(3)広域行政を一人の指揮官の下に1本化する。この結果、府と市の二重行政(同じハコモノや外郭団体が重複している)が解消され、人員削減、財政健全化。
(4)それぞれの特別区は独立した自治体とし区長を公選制にすることで真の住民自治を実現する。
【賛成派意見】
リンク→大阪都構想とは?政策的には、以下の2本柱により景気UPと住民サービスの向上が見込めるというもの。景気UPができれば、その結果税収が増え、住民サービスに使えるお金が増える。これを選挙で選ばれた区長が住民を向いてサービスを提供するのでサービス向上に繋がる。ということらしい。
①広域行政の一本化
②特別区長の公選化
図解にしてみると以下のようになる。
目的:景気UP⇒財政の集中投資
↓ ↓↓
↓ 二重行政の無駄廃止(市と府で重複する行政サービス廃止)
↓ ↓↓
↓ ①広域行政の一本化・・・政策
↓
税収UP
↓
↓ ②特別区長公の選化(今の区長は市の役人)・・・政策
↓ ↑↑
目的:住民サービスの向上
また景気UPについて大阪維新の会のHPにある大阪都構想への疑問についての回答では以下のように答えている。(リンク→大阪都構想への疑問)
【問】本当にONE大阪(大阪都)にしたら大阪経済は活性化するのか?
ひとつは、今まで府と市がばらばらに行ってきた交通インフラなどの投資を、協調して集中的に加速できる(なにわ筋線、淀川左岸線高速など)。
2つめは、大阪市が所有する膨大な資産が有効活用できる。あわせて大胆な行政改革もできる。たとえば府と市の水道事業を統合すれば、老朽化して効率の悪い柴島(くにじま)浄水場が廃止できる(新大阪から至近距離)。ほかにもゴミ焼却施設など統廃合できる施設が目白押しである。
3つめには、大阪の司令官を一人にすると中央との政治折衝力が増す。東京や名古屋の首長と連携すれば、政権与党に対して、都市の成長戦略を進めるうえで必須の 規制改革 や 権限委譲 、あるいは 特区指定 を迫る政治力が得られる。
【反対派意見】
リンク→未だ具体性を持たない「大阪都構想」・・・「構造改革」と中身の無いスローガンなのではないか
・二重行政の解消は、財政健全化にほとんど寄与しない
・都に一本化することで、府議会議員、市議会議員のスリム化が図れるというが、新たな都議や区議が増え、結果増えるのではないか?
・特別区を設置し、地域の実情に応じた決め細やかなサービスが出来ると言うが、現在の大阪市と区は、共通部分を市が負担することによって効率的な行政サービスを提供している。区ごとに分けると、重複部分が増え、非効率な行政となるのではないか?
・都知事であれば強力なリーダーシップが発揮できると考えているようだが、東京都ですらそんなことにはなっていない。東京都は常に23区と協議しながら行政を行っている。毎年、財源の配分などを巡って、都と23区は大喧嘩している。だから、東京23区は今、東京都からの独立、そして都制度の廃止を目指している。大阪都構想など、時代錯誤も甚だしい。
・こんな状態になるのに、大規模な広域行政など可能なのか?
などが主なものとして挙げられる。つまり、大阪都構想には、具体的なメリットが見えないというのだ。
だから、橋下知事の狙いは、大阪市の財源と権限が欲しいだけではないか、という人間は多い。
(※実は「大阪都構想」は橋下が初めて言い出したことではない。太田前知事も提唱していて、当時の大阪市長の猛反対にあって、うやむやになった経緯がある。このことから、「大阪都構想」を狙っているのは、実は官僚ではないか、という意見もある。)
首長が変わったにも係らず、大枠の構想自体は変わっていない。それはなぜか?そもそも政策の中身を実質的には作っているのは官僚で、首長が変わっても官僚は変わらない。そのことをふまえれば、「大阪都構想」を狙っているのは官僚ではないかという見方ができるのです。
また、橋下知事や大阪維新の会が、より財政危機が深刻な大阪府の問題を棚上げにして、(都構想に反対する)議員や大阪市を総攻撃する姿勢に疑問を持つ者も多い。
確かに、未だ具体性を持たない「都構想」というスローガンだけをぶち上げ、それに反対する議員を古いとか狂っているなどと攻撃する姿は、「構造改革」というスローガンだけぶち上げて、反対議員を抵抗勢力と切って捨てていった小泉元首相とダブって見える。
地方首長が、これほど実現的具体性の無い”構想”を全面に出すのも珍しい。
4月の統一地方選に向けての、マスコミ向けアピールと見て間違いないだろう。
◆「道州制」
【概要】
道州制とは行政区画として道と州を置く地方行政制度。北海道以外の地域に複数の州を設置し、それらの道州に現在の都道府県より高い行政権を与える構想を指す。地方分権の推進及び地方自治の充実強化を目指している。
【賛成派意見】
リンク→道州制議論を巡る賛成派の意見~道州制の目的
・都府県合併による地方公務員の削減および国から都道府県への権限委譲による国家公務員の削減。 都府県合併による地方議会議員の削減。
・都府県単位より大きな資本の選択と集中が可能。地域の実情に応じた政策・事業が実行できる。
・広範囲な交通網の整備が、広い視野の観点で実施できる。このため、不要な空港の濫立といった浪費を節約できる(大前研一などが主張)。
・自然環境や治山治水に関する事業は、県よりも広い広域自治体を設置した方が処理しやすい(奥野誠亮などが主張)。
・東京一極集中の抑制、過密化の抑制、過疎化の抑制、二重行政の解消や国や県の出先機関の廃止・縮小が可能になる。(九州地方知事会などが主張)
・中央政治・行政が無能でも、地方政治・行政がしっかりしていれば、日本全体が衰退するような悪循環・連鎖を回避できる。
(参考:wiki日本の道州制議論-肯定論リンク)
【反対派意見】 リンク→ 道州制議論を巡る反対派の意見
・都府県の廃止(合併)によって州を設置すると、州都とその周辺の声ばかりが重視され、合併で行政権を失った地域の声が軽視される。(新潟県加茂市長小池清彦)
・強大な権限を持った道州知事が中央政府の意向に従わない可能性がある。(東京大学教授:森田朗)
・財政の弱い自治体同士が合併しても、財政が強くなるわけではない。「道州制は財政的にみると、自立性が高まるのは南関東など一部だけ。強いところはもっと強くなり、弱いところはさらに弱くなる。(富山県知事石井隆一)
・道州議会所在地、道州庁所在地(県庁所在地)や政令指定都市にのみ人・金・有名店などが集中し、それ以外の市・町・村や離島の扱いが蔑ろになる(京都府知事)
・「道州制」が導入されることになれば、日本全国に展開している大企業などは地域からの撤退をちらつかせつつ政治的発言力を強め、それによりかえって「官民癒着」の構造が強まるのではないか(一部労働組合)
・国籍条項との整合性。現在では「公権力の行使または国家意思の形成への参画にたずさわる公務員となるためには、日本国籍が必要」(内閣法制局の見解)との理由から国家公務員の任用資格の一つとして日本国籍を必要とする。一方、「地方自治体は主に地域に関連した職務を執行する」との理由から、地方公務員に日本国籍を持たない外国人が任用されることも自治体の判断で可能である。地方に大幅に権限を委譲した場合、地方公務員が公権力を行使するケースが出てくる可能性がある。
・「地方分権」のかけ声とは裏腹に、上からの道州制推進は中央集権的な体制の再編強化につながる恐れがある。
・結局は「はじめに補助金削減ありき」で、国の「お荷物」と化した赤字の地方自治体を体よく切り捨てるための単なる方便ではないか。
(リンク)より
総じて言えるのは、道州制によって地方がこれまでよりも大きな力を持つこと、またそこから派生して力の集中していない地方が蔑ろにされるのではないかということへの不安が多いということ。
ところで、この「道州制」をはじめに提唱したのは誰なのでしょうか?
リンク→道州制議論を巡る賛成派の意見~道州制の目的
道州制の本当の目的
日本ではじめて道州制を提唱したのは、大前研一(経済評論家、一新塾創設者リンク)です。その大前氏は、道州制とはどんなものなのかを、次のように語っています。
「産業突然死」の時代の人生論~道州制に移行しなくてはいけない新の理由(リンク)より
□本来のメリットは長期衰退の日本を救うこと
道州制は市町村合併とはまったく異なる次元の話だ。決して市町村合併の延長ではない。道州制の本当のメリットとは繁栄を世界から持ってくることだ。納税者のお金を使わずに、世界中に余っているお金を呼び込む単位、産業基盤を確立する単位、としての道州制なのである。
-中略-
道州ごとに経済を膨らませるプランを立て、それをベースに繁栄を競うことになる。納税者の税金で景気を刺激するのではなく、世界に有り余る資金を吸引して繁栄する。それがわたしの提唱する「地域国家論」に基づく道州制というものだ。
(引用終わり)
◎大前氏は、道州制を導入することで、地方分権を実現し、道州それぞれにあった方法で、景気回復を図るのが道州制の真意としている
→最近話題の大阪府「大阪都構想」や、愛知県「中京都構想」、新潟県「新潟州構想」のような”合併論”とは違って、国が持っている立法権を地方に分散=日本の細分化を行なおう、というのが、道州制の目的なのです。
また政策シンクタンク PHP総研のHPには道州制について以下のように書かれています。
リンク→政策シンクタンク PHP総研
Q:地域主権型道州制で何がどう変わる?
国からのコントロールを排し、地域が独立したかたちでその役割領域の事項については決定できるようにする ことで、地域住民の生きがいや満足感が生まれると同時に、地域のニーズや特性に応じた行政サービスや経済政策が行えるようになります。
たとえば、法人税率を他の州よりも下げて企業を呼び込むなど、これまでは不可能だった取り組みができるようになります。こうした努力を重ねてある州が成功すれば、それに刺激を受けて他の州も頑張るという「善政競争」が行われるようになり、その結果として、全国各地に繁栄発展の拠点が生まれ、東京だけではなく、日本全国が元気になることが期待されます。
PHP思想については、かつてこのブログでも取り扱いました。
参考:リンク→噂の松下政経塾とは?~日本はロックフェラーに都合の良い市場にされている~
以上見てきたように、都構想も道州制も共に行政区画の仕方についての議論していますが、出発点は一見違っています。
大阪都構想 : 現在の行政区画では小さすぎるから拡大させろ!(中央集権)
道州制 : 現在の中央集権的な行政では大きすぎるから小さくさせろ!(地方分権)
☆結局これは、日本に最適な行政区分の規模はどれくらいなのかに決着がついていないことを示しています。しかし決着がついていないのに、実質的には道州制を推進しているのはなぜでしょう?
大阪都構想の方は、実現性よりも選挙に向けたアピールの意味合いが大きいと考えられますが、将来的には道州制の方を視野に入れているらしいのです。道州制が実現された時に、大阪府内で意思統一が図れていないとまったく意味がないため大阪都構想を掲げているにすぎません。
【備考:00年の地方自治法改正で、これまで都道府県が扱ってきた権限を市町村に譲ることが可能になった。国の権限を都道府県に移譲する手続きは、07年に施行された道州制特区推進法で定められている。現在の対象地域は北海道のみだが、3都府県以上が合併した自治体も権限移譲の対象となる。】
共通点としては、大阪都構想も道州制もどちらも交通網の整備だとか経済特別区の創設などを政策の中に盛り込んでおり、企業誘致を通じて景気回復を図ろうとしています。(ここに外資系企業が入りやすくなる)
そこから推測するとこの議論の本質は、住民にとってどうかが重要ではなく、実は企業にとって優位な制度を作れるかどうかが最も重要になってくるのです。
現在の中央集権的な国家体制のままでは、企業優位(外資含む)の制度を作ろうとしても法整備を国家単位でするためには、様々な議論や壁が立ちはだかります。しかし道州制のように地方分権が進み、中央とは別に立法権を持つ州ができれば、規制を緩和した企業優位の法律を作りやすくなります。(例えば、法人税を獲らない地域を作り企業誘致を促す法律等)
奇しくも国策としてのTPP加盟(関税撤廃)が叫ばれる中、国内では「道州制」等の整備が実現されてしまえば、アメリカによる日本属国計画はあっという間に完成されてしまうでしょう。
はたしてこのような企業優先(外資含む)の日本の行政区分が実現してしまってもよいのか?
そこに住む人々をないがしろにした政策にいったい何の意味があるのか?
景気を回復させたら全てがうまくいく=市場第一という前提は時代遅れの発想ではないのか?
様々な疑問が出てくるように思いますが、最も重要なのは行政の効率化やサービス向上、税金の無駄遣い防止、規制緩和などという、一見聞こえの良い国民のための表向きのいい言葉に騙されてはいけない!ということなのです!
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