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【世界の力を読み解く】~ウクライナ情勢で加速する実物経済主義~

ロシア・ウクライナの停戦協議など、マスメディア的には進捗があるように見られますが、
原油などのエネルギー関係、鉱石など資源関係の供給停滞で世界的な影響が出ています。
(私の仕事は建設関係ですが、資材価格への影響が出始めています)

一方で、なかなかメディアには出てこないですが、もう一つ重要な視点があります。
それは、『食』に関する状況です。
実はロシアとウクライナは、エネルギー・資源大国でありつつ、食料大国でもあります。

[1]

(画像:社会実情データ図禄 [2]

◆ロシアとウクライナは世界有数の穀物輸出国です*1。
世界貿易の中では、ロシアとウクライナの2カ国だけで、
小麦の30%以上
大麦の32%以上
トウモロコシの17%以上
ヒマワリ油・種子・粕の50%以上*2
を占めています。

世界で取引される食料をカロリー換算すると、少なくとも12%をこの地域が生産しています*3。黒海周辺のこの地域は、肥沃な黒土として有名なチェルノゼムが広がっていることでも知られ、現在の世界の食料システムにとって不可欠な地域なのです。
GREENPEACE [3]より引用)

◆ウクライナ侵攻で小麦価格高騰、影響を最も強く受けるのはどこの国か?
>ロシア、ウクライナが小麦の大輸出国になった理由

図2に旧ソ連諸国の小麦の純輸出量を示す。値がマイナスの場合は輸入していることになるが、旧ソ連は小麦の輸入国だった。輸入量は1980年代に入ると2000万トンにもなった。この図からも旧ソ連の社会主義農政が1970年頃から機能不全に陥ったことが分かろう。それが1989年の体制崩壊へとつながって行った。

そんな旧ソ連だったが、21世紀に入るとロシアやウクライナは小麦の大輸出国に変貌した。最大の原因は社会主義農政から資本主義農政に変更したことにある。

本来、広大な国土を有するソ連は小麦の生産に適している。それにもかかわらず大量の小麦を輸入せざるを得なかったのは、社会主義農政が機能しなかったためである。

蛇足になるが、我が国の農政は保護主義的、言い換えれば社会主義的と言ってよい。昨今農水省が音頭をとって農作物の輸出を振興しているが、なかなか上手くいかない。日本農政を語る上でも旧ソ連の小麦輸出量の変遷は大いに参考になろう。

金融政策と小麦価格の関係
今回の小麦価格の高騰の背景には新型コロナの蔓延以降に米国が進めた金融政策がある。

21世紀になってから、小麦価格が高騰したのは今回が初めてではない。2007年から2008年にかけて大きく上昇した。その原因はグリーンスパン米FRB(連邦準備制度)議長が行った金融政策にあった。FRBは2000年に起こったITバブルの崩壊から立ち直るために、金融緩和を続けた。その結果として住宅価格が高騰し、それがサブプライムローン問題を引き起こした。住宅バブルの最終段階で小麦価格が高騰した。これは不動産から矛先を変えた過剰マネーが穀物に向かった結果と考えられる。

当初小麦価格急騰の原因が分からず、我が国では、ついに世界食糧危機がやって来たなどと大騒ぎになった。その当時バイオマス燃料がブームであったことから、食糧が燃料に使われることが価格高騰の原因などとも言われたものだ。だが、リーマンショックによってバブルが崩壊すると小麦価格も自然に元の価格に戻っていった。

今回の価格上昇の背景にも金融緩和がある。新型コロナショックから立ち直るためにFRBだけでなくECB(欧州中央銀行)や日銀も大幅な金融緩和を行った。現在、市場には過剰マネーが溢れている。その過剰マネーがウクライナ戦争をきっかけにして、小麦市場に流れ込んだとものと考えられる。

では、金融バブルが崩壊すれば小麦価格の高騰は収束するのか。前回はリーマンショックによるバブル崩壊で小麦価格は元に戻った。だが今回はロシアに対して貿易の決済手段への制裁が行われ、かつウクライナは小麦の輸出どころではないだろうから、実際に世界の貿易市場に出回る小麦が3割ほど減少する可能性が高い。そのため今回は、金融バブルが崩壊しても戦争が続く限り、価格が高騰し続ける可能性がある。

dmenu [4] より引用)

◆そして、この間の周辺諸国の動きをみていると、騒いでいるのは食料自給率の低い国々。
インドや中国などの食糧自給率の高い国々は、静観の姿勢が目立ちます。
なんと、中国の米・小麦・トウモロコシの自給率は、『98.75%』にも上ります。(SciencePotalChina [5]より)

しかも中国は、ここ数年で一気に自給率を上げてきたので、まるで今回の騒動を見越していたかのようにも思えます。
今、実物経済への転換が世界的に加速していますが、この『食料』という領域を見てもそれは加速しているように思えます。
エネルギーも食料も、外交の重要な武器。この実物を押さえた国が世界の覇権を握るのは、言うまでもありません。

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