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ベーシックインカムの歴史。英国で提唱されて200年、ついにその社会的期待と実現の可能性が顕在化した。

現在、様々な国家や研究機関で、本格的な導入の検討が行われているベーシックインカム(BI)。このブログでもその可能性についての記事をいくつか紹介してきましたが、今回はBIが提唱されてきた歴史とその背景について考えたいと思います。

最先端の経済システムと思われるBIですが、その歴史は古く、18世紀後半のイギリスにその萌芽を見ることが出来ます。
当時のイギリスは産業革命が起こり、労働、消費、社会保障等、国家の枠組みが大きく変化した時期でした。

ちなみに当時の日本は江戸時代の後期にあたります。
商品経済と民間資本が台頭し、これまでの農業中心の国家運営に代わって老中田沼意次による重商主義への転換が試みられた時期でした。
一方、伊能忠敬や間宮林蔵による日本沿岸の詳細な測量、フェートン号事件やゴローニン事件など、開国・通商を迫る諸外国の圧力、すなわち極東を欧米の経済システムに組み込もうとする列強の圧力と、それに対する国内の危機感が高まっていた時期でもありました。
日本もまた、既存の政治、経済、外交の枠組みが大きく揺らいでいた時期でもあります。
以下、るいネット「ベーシックインカムの系譜」リンク [1]から引用します。

 【18 世紀】
~英国の産業革命を契機に、労働所得で生計を維持する社会に変化。~

☆1796 年:イングランドの哲学者トマス・ペインが、著書「土地配分の正義」において、成人時に生活の元手として現金給付(ベーシック・キャピタル)を提案。
☆1797 年:イングランドの哲学者トマス・スペンスが、著書「幼児の権利」において地域共同体ごとに地代(税金)を集め、公務員の給料などの必要経費を差し引いた後の剰余を年4回老若男女に平等に分配するという案を発表。

 【19 世紀】
~ドイツで世界初の社会保険制度制定、欧州各国に普及。「救貧から防貧へ」。~

★1848 年:英国の哲学者ジョン・スチュアート・ミルが、著書「経済学原理」の中で、労働の可否に限らず、最小限度の分配を行うことを提案。
☆1848 年:ジョゼフ・シャルリエ、共有地の地代を財源とした所得保証を提唱。

 【20 世紀前半】
~世界大恐慌。社会不安の増大から先進国では様々な社会保障体系を提案。~
~第二次大戦後、「戦争(warfare) から福祉(welfare) へ」。欧州を筆頭に多くの先進国が福祉国家として社会保障を充実。~

☆(1879-1952):クリストフォード・ヒュー・ダグラスが、貨幣発行益を財源とする国民配当を提唱。これに対して正統派の経済学者であるケインズ は否定的であったが、のちに肯定的な立場をとっている。
☆1930 年:日本の哲学者である土田杏村が、著書「生産経済学より信用経済学へ」で、BI 理論を日本に紹介。

【20 世紀後半】
~1980 年代、新自由主義的政策(サッチャリズム、レーガノミクス)、「小さな政府」、社会保障制度の見直し。~
~1990 年代、社会保障の重要性再認識。米英から始まった「福祉(welfare) から就労(workfare) へ」の方針転換、各国に広まる。就労促進、自立支援の制度強化。~

☆1962 年:ミルトン・フリードマンが「負の所得税」を提案。
☆1960 年代:欧米や日本の社会運動のうねりのなかでBI を要求する動き。シングルマザーを中心とした女性運動の文脈でも議論が拡大。
☆1969 年:米国で負の所得税法案提出、議会で否決。
☆1970 年代前後:米国、カナダでBI 実証試験。
☆1975 年:米国で勤労所得税額控除制度導入。
☆1995 年:ヴァン・パリース、政治哲学的視点からBI の体系整理。

 【21 世紀】
~世界的に格差拡大、貧困問題の議論が広がる。~

☆2000 年前後:南米諸国が相次いで条件付き現金給付制度導入。
☆2004 年:ブラジルで市民ベーシックインカム法制定。将来の段階的導入をうたったもの。実現しているのは、条件付き現金給付のみ。
★2016年:オランダが、国内第4の都市ユトレヒトにおいてベーシックインカムを試験導入。受給対象者は社会保障給付の受給者300人ほど。2017年から実験対象が最大25の自治体に住む約21,843人に拡大。
★2016年:スイスが、ベーシックインカムを国家レベルで導入するかどうか、世界で初めて国民投票を実施したが否決。
★2017年:フィンランドが、ヨーロッパ地域において初めて国家レベルでベーシックインカムの導入。但し、試験導入で、2017年1月1日から2018年12月までの2年間に限定。

以上引用終わり

 BIの議論の歴史は、当時の経済や社会保障システムがどこに向かっていたか、と密接に関係していること、その発端こそ18世紀の英産業革命ですが、BIの議論や試みが特に活発になるのは20世紀後半から21世紀にかけてである事が分かります。

 戦後、先進国では豊かさが実現し、新たな活力源と経済システムの模索がはじまりました。

一方、経済の停滞により先進国はどこも恒常的な赤字経済に苦しみます。福祉や社会保障は財政負担として国家に重くのしかかって来ました。

 BI実現の議論はこうした既存の経済の行き詰まりと新たな経済システムの渇望を受けて登場してきた事が分かります。
逆にいえば、英国で提唱されてから200年を経て、ついにその社会的期待と実現の可能性が顕在化したといえるのでは無いでしょうか。

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