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中国どうなる?18 党と地方~組織や企業、メディアや法律の操作は日常的な仕事~

第六章 皇帝は遠い「党と地方」  

中国の経済成長 [1]

前回は「腐敗撲滅運動と中央規律委員会〜政治のための監視システム〜」という題材で、中国政府が抱えている重大な欠陥について見てきました。今回は中国共産党の「中央と地方」というテーマでその実態に迫りたいと思います。

(※エントリーの引用は全て「中国共産党 支配者たちの秘密の世界 リチャード・マクレガー著」からの抜粋です。)

中国は中国共産党の一党独裁政権であると言われています。

中国には共産党を含め9つの政党があるが、政権を有しているのは共産党だけであり、ほかの党には政権を取る機会も能力もない。

しかし憲法によれば、共産党は「国家を指導する中華人民共和国唯一の与党」と規定されており、共産党以外の8つの政党は野党として存在している。要するに、建前上は共産党の独裁ではないという事を表している。

よって、大衆は言論の自由がなく政府筋の情報以外は知るよしもない状態に近いと言え、報道など公の場で共産党中央を批判したり、共産党と違う見解を述べることにはかなりの制限がある様です。

国外から見れば、中央の強力な権力が北京を起点に党中央部から中国全土の省や市、県の共産党の役人たちに浸透していく様に思えるがそうではない。中央から出された最新の指示は取りこぼしなくキャッチする事が必要となる。地方まで政策が行き渡っている様に見えるのは、暗記教育を受けた優秀な地方幹部達の努力の賜物なのである。

実際に中央の顔を伺いながら、地方では何をやってきたのか?を事例で紹介していく。

 

1、オリンピックと「毒粉ミルク」事件  

北京オリンピックの開幕の約一週間前に、圏内最大の粉ミルクメーカー「三鹿集団」は国民の健康を及ぼす不祥事を起こした。

オリンピック開幕に影響があっては絶対ならぬと、隠蔽工作が講じられた事件。政府から直接指示された訳では無いが、この類の判断は当然の様に行われている。

 

毒入りミルク [1]

…事件の実態は白日の下にさらされた。完全に田の判断ミスだった。化学物質の混入が表沙汰になったのは、それから数週間後の九月半ば、オリンピックがすでに大成功の宣言をもって閉幕したあとのことだった。 …世間の関心は非常に高く、怒りも大きかった。しかし、地方政治の実態を知る者からすれば、この騒動も中国ではよく見られる欺鵬に満ちたものだった。批判が集中しているのは政府や監督官庁、法制度といった政治の表舞台に限られ、一般市民が日常のなかでメディアや情報交換を通じて得る情報の範囲でしかない。 あえてカーテンに隠れた舞台裏を覗き、そこにある党の不透明な権力とゆがんだシステムがどのようにこの事件の発端から細部にわたって影響を及ぼしたのか、明らかにしようとする者はほとんどいなかった。 国外から見ると、中国の権力は北京から激流のごとく流れ出し、党中央部から中国全土の省や市、県の従順な共産党の役人たちに浸透していくように思える。だがこのイメージは、政治的に抜け目のない地方の役人たちのたゆまぬ努力の結果、作られたものなのだ。何よりも暗記学習を重んじる学校制度のなかで鍛え上げられてきた地方幹部たちは、北京からどんなに遠く離れていようと、中央から出された最新の指示を一言一句間違えることなく、国外からの来訪者にも伝えることができる。 …津々浦々に浸透する圧倒的なプロパガンダシステムを誇る中国では、新たな政策が公布されれば、どんな役人でも知らなかったでは済まされない。もちろん、どの役人も中央の指示を正確に暗記する抜け目なさを備えているので、そのような心配は無用だ。 …党が全権力を握り強力であるがゆえに政府は脆弱となり、未熟な機関が生み出されるという逆説的な現状があり、その現状が地方の党幹部に事実上の絶対権力を与えているという図式である。

 

中国では民主的な政府や聞かれたメディアによる権力のチェック機能がない。よって地方の党幹部の命令ともなると、それは法律にも等しいという権力構造が常である。

 
 

2、遣り手女性幹部のジレンマ  

共産党がメディアを規制する。国民の安全が脅かされる内容であっても規制された報道には一切手を出す事が出来ない。

時には逆上し、反帝国主義思想によって正当化の態度(反撃)を露わにすることもあるという。

 

…海外で事件が相次ぎ、中国への非難が高まったことから、政府は明確な対応を見せる必要があった。しかし、反帝国主義思想を注入された共産党のなかで育った幹部の一部には、こうした非難には反撃するべきだと考える者もいた。輸出入される食品の品質管理を担当する局〔欄時間団時制局〕の局長、一料開山は「外国メディア、特にアメリカを拠点とするメディアは、いわゆる危険な中国製品について悪意に満ちた報道を行っている」と発言した。李局長は外国人が「白を黒と言い募っている」と訴えたが、こうした猛烈な抗議の裏には、食品の安全に関する中央政府の深い懸念が隠されていた。 2007年後半、政府はついにこの問題について、最大限の力を振りしぼって強い意思を示した。鄭篠頁・国家食品薬品監督管理局長が、自社製品の市販について政府の承認を求めた製薬会社から賄賂を受け取ったとして有罪判決を受け、処刑されたのだ。閣僚クラスの高官の処刑は非常に稀で、中国の姿勢を強くアピールしたわけだが、オリンピック前の暗いニュースは避けるべきという当時の党の最優先事項のために、かき消されてしまった。 …一世紀近く前のアメリカやヨーロッパも同じだ。しかし西洋と中国のあいだには重大な違いが1つある。それは共産党と、党によるメディア規制である。アメリカでは、スキャンダルを追いかける記者たちが、悪徳資本家の罪の数々を暴くことで、キャリアを築きあげていた。中国で増えつつある民営メディアのジャーナリストたちにも、同じような欲求はある。しかし彼らには、宣伝部という、メディアを一貫して支配する乗り越えられない壁があるのだ。強い権力を持つ宣伝部は、情報に明るい市民などというジェファーソン流の理念など、とうの昔に覆してしまった。宣伝部の創立精神によれば、メディアの存在意義は共産党の役に立つことであり、市民のことなど二の次なのだ。 …7月後半までには、三鹿も地元政府の研究所で独自の検査をしていた。そして8月1日に報告されたのは、ただならぬ結果だった。16セット送ったサンプルのうち、15のサンプルに有害レベルのメラミン混入の可能性が認められたのだ。この検査結果によって回文華にのしかかったのは、消費者の健康と企業としての責任というジレンマだけではなかった。党の幹部でもある彼女にとって、最大のジレンマはきわめて政治的なものだった。つまり、党の指令によって彼女は2つの相反する選択肢から一つを選ばなければならないというジレンマに陥っていたのだ。 田文華には、企業経営者として危険な商品の製造、販売を禁ずる法律に従う義務がある。そして三鹿の党委員会書記として、党からの指示を最優先するという政治的責任がある。当時の政治的責任とは、中央政府が短期の政治的最重要課題として掲げていた、オリンピックの確実な成功だ。開催を目前に控えて、宣伝部による報道規制はさらに強化されており、三鹿も石家荘市も知らなかったでは済まされないほど明確な指示が出ていた。8月初旬に出された21項目からなる命令書の8項目目には「食品の安全問題について一切のコメントを禁ずる」と明言されていた。オリンピック開会を1週間後に控えたこの時期に、三鹿の粉ミルクの大規模なリコールを行ったり、ミルクを飲んだ乳児が汚染を受けたと認めたりすることは、国内外で騒動を引き起こし、三鹿のビジネスを壊滅させるだけでなく、三鹿幹部と地元役人たちの党員としてのキャリアを台無しにすることも意味していた。

 

ジレンマとは、

1、企業経営者として危険な商品の製造、販売を禁ずる法律に従う義務。三鹿のビジネスを壊滅

2、党委員会書記として、党からの指示を最優先(オリンピックの成功)するという政治的責任。党員としてのキャリアを台無し

ということであり、このジレンマから伺えるのは、党の収束力とその圧力は相当なものだということだ。

 
 

3、地方同士はみなライバル  

中国の経済はこの30年の間、年間10%近い成長を達成してきた。

低コストを売り物にする製造拠点と果敢に戦い、他国における経済的成功の事例を取り入れる事にも積極的であると認識され、経済成長の土台はここにあると思われてきた。しかし実態は、地方同士が火花を散らして戦い、弱肉強食の様な熾烈な競争がこの国の経済を推進するのである。

地方政府ライバル [1]

 

…この国の経済を推進しているのはまったく別のもう一つの要因であることは、国中を旅してみれば明らかである。それは、地方が火花を散らして戦う、弱肉強食のような蟻烈な競争だ。「中国株式会社」を構成する魚の群れと同じように、それぞれの省や市、県から郷に至るまで、投資を呼び込むための何かしらの特徴を出そうと必死になっている。 …地域経済を促進する上で地方政府の重要な役割とは、各地方があたかも独立した1企業のごとく活動するということだ。地方政府自らが投資を促し、銀行に融資を強要し、株を保有するのである。言い換えれば、地方は会社と同じように機能している。同時に、地元党幹部の圧倒的な権力を背景に、裁判所や経済活動を管理する地方条例をも支配することで、事実上独自の自治区を作り上げてもいる。 このような仕組みのなかでは、各地方が企業であり、各企業が地方ということになる。そしてそれらすべてが強い動機を持って互いに競い合っているのだ。中央政府は地方の活力を利用して新たな施策を試し、成功した場合には国の政策に反映させるという賢明な策をとってきた。 …胡錦薄と温家宝があとで気づいたのは、税金の徴収を急激に中央集権化に戻すことは、逆説的ではあるが、中央政府の権力強化よりむしろ地方経済の自由化をいっそう促進するだけだ、ということだった。 …予算不足を補うため、地方政府は「農民をいじめ、労働者を搾取し、環境を破壊した。一方、中央政府はこうした事態が進行していても見て見ぬふりをし、GDPと税収ばかりを気にしていた」とも梁は述べている。

 

4、中央が“見えざる手“を総動員  

あらゆる局面において中国共産党による成功は絶対であり、その序列は末端にまで完璧に貫かれている。

2008年の四川大地震や2007年の河南省炭鉱事故においても、政府の対応は目を見張るものがあると言われているが、メディアに係る内容には細心の注意が敷かれているに過ぎない。

四川大地震 [1]

…国家が危機に直面したとき、中国共産党は世界でもほとんど類を見ない規模の動員を行い、指導力を誇示することができる。たとえば2008年5月、マグニチュード7.9の四川大地震で9万人近くが命を落とし、何百万もの人々が家を失ったとき、党の迅速な対応は目を見張るものだった。まず、温家宝総理が、地震発生からわずか数時間以内に飛行機で被災地に降り立った。 そして何千もの高官、兵士、一般市民が即座に救済活動にあたったのである。「人民日報』はこう報じた。「このような恐ろしい自然災害に直面したとき、党と政府は社会主義国家ならではの強力な動員力を発揮する」「どんな困難も乗り越えられるのだ」 しかし災害当初、精力的に救援活動を行ったのは当局というよりむしろ一般国民だった。裕福な企業家や、できたばかりのNGO、民間企業や個々の市民までが、かつてないほどの自発的な活動力を発揮し、独自の援助活動をすべく大挙して被災地に押し寄せ、当局もあえて彼らを排除しようとはしなかった。 数週間後、中央組織部は異例の記者会見を行い、まるで誤りを-訂正するかのように、救援活動における党の成果を列挙した。マルクス主義の伝統のなかで自らを人民の先導者と考える中国共産党は、救援活動で後塵を拝したという印象を持たれることに我慢がならなかったのだ。この記者会見で、中央組織部の副部長、欧陽訟はまるで月間生産統計でも読み上げるかのように、地震の救援活動において党が貢献した項目を並べ立てた。500以上の党委員会からの兵士、1万近い地方の党、1000に及ぶ党の臨時組織、そして4万人以上の党員がみな「怯むことなく危険と困難に立ち向かった」と。 …すべての成功は一つの源、すなわち党によってもたらされる。この教えが浸透している中国では、しばしば信じがたい報道を耳にする。 2007年、河南省で起きた炭鉱事故に関して、国営メディアは次のように報じた。暗闇のなかから日の光の射す地上に助け出された瞬間、1人の炭鉱作業員が上げた第一声は 「党中央部に感謝いたします!国務院にも感謝いたします!河南省政府にも感謝いたします!そして国民のみなさんありがとうございました!」 だったというのだ。 救出された炭鉱作業員が家族や愛する人について言及しなかったという事実はさておき、この発言で注目すべきは、支配階層の序列が完壁に守られている点である。党を先頭に、次は中央政府、そのあとに省の指導部、最後に国民という序列だ。

 

 

■まとめ   

・以上の実例では、秘密主義かつ神秘主義を奉じる中国共産党の姿を浮き彫りにしたが、その内容はごく一部に過ぎない。実際に党がとった行動を確認できるのは内部の党員だけである。二十一世紀の中国では、いまだにこうした秘密主義が公然とまかり通っている。中国を支配する党(中国共産党)にとって、様々な組織や企業、メディアや法律を操作することはごく日常的な仕事なのである。

・国とともに発展してきた中国の民間企業に関しては、党はおおっぴらに表舞台でその栄誉を分かち合う事で、舞台裏での活動を打ち捨て、党の存在感を前面に打ち出す。それによって、党は民間部門と一体となって相互利益を目指し、互いに調和しながら事業を推し進めているというイメージを植えつけようとしている。

・大きな反発が無いことからも、党に対する集団意識は思った以上に収束力の高いものであるとも言える。

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