情報戦の歴史的意義と今後を展望する、情報戦シリーズ。近代諜報の拠点、イギリス情報局の設立まで解明を進めてきた。シリーズを通じて、もともと諜報のもつメリットよりもデメリットの大きかったヨーロッパでいかに金貸しが諜報活動に力を入れ、ついに諜報国家イギリスをつくったかが見えてきた。
◆十字軍遠征 ヴェニス人が東方貿易の競争相手を破滅させようとして始まったのが十字軍遠征
十字軍の遠征は、当時、勢力を拡大しつつあったセルジュク・トルコによるパレスチナの占領、および聖地エルサレム巡礼を行なうキリスト教徒への迫害に対する、解放をめざした「正義の戦い」というのが通説とされてきました。しかし、これこそキリスト教的世界観のみに偏した、「独善的」な歴史観といわねばなりません。
十字軍はフランスの修道士ペトルス・アミアネシス〔1050~1115〕の提唱によって始まりました。彼が語るイスラム教徒の〝残虐〟物語が人々の心をゆさぶり、大きな原動力になったのです。ところが、それは真っ赤な嘘だったことがわかっています。エルサレムへのキリスト教徒の巡礼の旅を軍隊なしではできないようにしたのは、こうした完全にでっち上げられたイスラム教徒の残虐行為なる風説にもとづくものだったのです。
第1回十字軍では、ゴドフロア・ド・ブイヨン〔1061?~1100、エルサレムの王(1099~1100)〕に率いられたロレーヌ人やトゥールーズ伯レモン〔1041/42~1105〕に率いられたプロヴァンス人たちが辛酸をなめました。兵士として徴募された男たちは、大きな利益が得られると約束されて十字軍に参加したのですが、実際に利益を手にしたのは、ヴェニスの黒い貴族やゲルフ家などでした。
第2回の十字軍では、商業的利益と略奪が主目的でした。ノルマン人のシチリアのルッジェーロはギリシアの島々を奪取することによって資産を形成したと言われています。
第3回の十字軍では、イングランド王リチャード一世〔1157~99〕が大金と引き替えにギドリュジニャ〔1129~94〕に売却したキプロス島を奪い返しました。ギドリュジニャは、フランスの十字軍指揮官で、エルサレム王の娘と結婚して1186年にエルサレムの王になりましたが、翌年にはイスラムの英雄サラディンに敗れ、捕虜になっています。
http://rekishijyoho.seesaa.net/article/19784417.html [2]
商業的勢力および略奪者としてのヴェニスの商人達の役割は、8回の十字軍を通じてなんども繰り返して現われるが、特に1202~04年の第4回十字軍はその暴虐ぶりを如実に示している。騎士団は彼らヴェニスの黒い貴族たちとゲルフ家(後の英王室ウィンザー家)らが東方貿易の競争相手を破滅させようとして作り出した略奪集団であったのだ。
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◆第4回十字軍遠征 聖地奪回という大義名分をかなぐり捨てて、略奪にあけくれたヴェニス人たち
4回十字軍(1202~1204)は、北フランスの諸侯・騎士を中心に編成された。目標をアイユーブ朝の本拠地であるエジプトとし、海路による遠征を決定し、海上輸送をヴェニス人に依頼した。彼らは兵士・資財の輸送と1年分の食料調達を銀貨8万5千マルクで請け負った。
十字軍士らはヴェニスに集結してきたが、約束の船賃が6割しか調達できなかった。交渉が難航したが、ヴェニス側がハンガリー王に奪われたツァラ(アドリア海沿いの海港都市)を取り戻してくれるなら船を出す、不足分の支払いは後でよいと提案してきた。
十字軍士はやむを得ずこの条件を受け入れ、ツァラの町を襲い占領して略奪を行った(1202)。十字軍が同じキリスト教徒の町を襲ったという報を聞いた教皇インノケンティウス3世は激怒し、第4回十字軍士全員を破門した。「破門された十字軍」という前代未聞の事態となった。
翌年、破門された十字軍士を乗せた艦隊はツァラからコンスタンティノープルに向けて出航した(1203)。ヴェニスの商人と亡命中のアレクシオス(ビザンツ帝国の内紛により廃位させられたイサアキオス2世の子、後のアレクシオス4世)そして十字軍の指導者の間で、廃位させられた皇帝を復位させる、その代わりに皇帝は十字軍のヴェネツィアに対する負債を肩代わりし、さらにエジプト遠征の費用を負担するとの密約が結ばれていた。ヴェニスの商人達は十字軍を利用して商敵であったコンスタンティノープルに打撃を与え、東地中海へ商権を拡大することを企てていた。
http://www.sqr.or.jp/usr/akito-y/tyusei/112-europe12.html [4]
十字軍は始めからヴェニスの商人等が裏で動いていたが、200年以上に亘る遠征により、富の大半を領有する貴族や騎士の大半が、交易に関わり、商人貴族化していく。これが現在の金貸しの上位に位置する欧州の金主へと繋がっていく。
また、第4回十字軍の遠征以降、ヴェニスの商人達は東地中海や黒海の主導権を奪い取り、ヴェニス、ジェノヴァ等の国家が力を付け、商人・金貸しに都合の良い法制・芸術・思想を生み出していく。
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●まとめ 近代市場社会の起点=十字軍遠征も金貸しのウソで始まった。
次回は改めて、何故、黒い貴族たちはイギリスに進出したのか。何故、イギリスは諜報大国となったのか、について検討してみたい。