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鳩山は、なぜ辞任したのか? ~後ろ盾を失い官僚組織に抱きこまれた鳩山政権~

大方では予想されており、しかしタイミングとしては”突然”だった鳩山・小沢辞任劇。
普天間問題も結果的には「失敗」に終わり、(マスコミによるアヤシイ世論調査とは言え)支持率が急低下する中にあって、このまま7月の参院選に突入すれば、自民党・麻生と同じ轍を踏むと考えてのことだろう。
今回の鳩山民主党政権には、様々な期待が集まっていたが、「暴走する官僚組織に歯止めを掛けて欲しい」という潜在的な期待が強かった。特に小沢は、当初から強く意識していた。当然、官僚組織の強い抵抗があり、この間の民主党政権下では、政治家と官僚との間で、「誰が国家の主導権を握るか」を巡って激しい戦いが繰り広げられてきた。
鳩山(民主党)は、この戦いに敗れたのだ。


①事業仕分け
天下りした人間も含めた「官僚組織」への攻撃として注目を集めたのが「事業仕分け」だった。今まで密室で行われてきた財務省主計局の予算査定が、公衆の面前で行われたことで、様々な”ムダ”が削減された。
民主党は、当初、政府支出予算の組み替えと、ムダの削減で16兆円(総支出の8%)の新財源を作ることができると明言していた。しかし、フタを開けてみると仕分けで出たのは、昨年の一次分で7000億円に過ぎず、目標には遠く及ばなかった。
これでは、単なるパフォーマンスであったと言われても仕方ない。実際、鳩山民主党は、少数の分かりやすい”ムダ”にスポットを当てただけで、それ以上の構造的な切開には手を出せなかった。
そもそも、財務省主計局がやってきたことを民主党が代行したようなものだったと捉えれば、官僚組織を抑えこもうとしていた一方で、「財務省の言いなりだった」とも言える。
②「政治とカネ」を巡る執拗な攻撃
特に小沢に対しては、衆院選挙前から執拗な攻撃を官僚組織(検察庁)が加えていた。根拠の無い不名誉な情報をメディアにリークし、起訴も出来ないような案件にも拘らず、小沢・民主党の権威を貶めていく。起訴できないような事案を、さも「犯罪」であるかのように「演出」して追い込んでいった。
官僚(検察)の執拗な攻撃、そして検察からのリーク情報を使ってネガティブキャンペーンを張り続けた大手マスコミ。特に「クリーンな政治」を標榜している鳩山は、苦しい状況に立たされたいたと想像できる。
③普天間問題
続く普天間問題は、純粋な「外交問題」ではなかった。官僚の影響力を排除し政治主導で進めようとする民主党と、権力にしがみ付き影響力を誇示しようとした官僚組織(防衛省・外務省)との闘いでもあった。
5月末決着を明言した鳩山の『腹案』は、普天間海兵隊をグアムかテニアンに返すことだったのだろう。これは、アメリカ・オバマ民主党とウラの合意が成立していたものと思える。鳩山の『できれば国外』は、当時の彼にとっては十分に根拠があったのだ。
しかし「国外移設」になった場合、思いやり予算をはじめとする対米予算を握る防衛官僚・外務官僚の権限は大きく損なわれる。しかも、「政治主導」でこの案件に決着が付いた場合、対外的にも国家の真の権力者が、自分たち官僚ではないことが明らかとなってしまう。
だから、官僚組織は自らの権力を維持するためには、受け入れられない。防衛官僚・外務官僚は「アメリカが怒っている」「鳩山は愚か者と言われた」と情報をメディアに流し、鳩山・民主党攻撃を強めていった。
しかも、この案件に関して、鳩山最大の自信の基盤であったアメリカ・オバマ民主党の力が封じ込められていった。よく言われるように、アメリカは一枚岩ではない。米軍基地に対しては、オバマ、国務省、国防総省・軍需産業、海兵隊トップがそれぞれの利害を持って関わっており、これらの力関係で「アメリカの方針」は決まる。特に、オバマの軍縮路線に危機感を覚えていた軍産複合体(国防総省・軍需産業)=戦争屋がオバマを封じ込めたため、オバマは鳩山支持(海外移設支持)を明確にすることが出来なかった。
鳩山からしてみれば、「はしごを外された」格好となったのだ。
④官僚に対する意識の差 小沢と鳩山
自民党政権時代は、「名目的権力は政治家、実質的権力は官僚」という不文律が存在していた。それを鳩山と小沢は本気で崩そうとしてきた。社会から隔絶されたところで、現実離れした”ゲーム”をしているかのうような官僚を放置しておくと、どこまでも官僚は暴走し国家が崩壊してしまう。そこで「政治主導」を回復するというのが民主党連立政権の基本方針だった。
しかし、ずっと以前から官僚と対峙し検察とは生きるか死ぬかの闘いを続けてきた小沢と、理念として「政治主導」を掲げた鳩山とでは、官僚への警戒心に決定的な差があった。徐々に鳩山は官僚組織に取り込まれ、官僚組織が言うところの「現実的な線」に落ち着かざるを得なくなっていった。
官僚組織に取り込まれ雁字搦めにされ、オバマ民主党という後ろ盾を失った鳩山が、「辞める」という決断をいつ下してもおかしくなかった。
⑤参院選、どうする?
前回の衆院選挙では、全国得票率ではそれほど差が無かった(小選挙区得票数:民主党が47.4% 自民党が38.7%)とは言え、この微差によって小選挙区では、民主党が73.7%(221議席)、自民党が21.3%(64議席)という157議席の大差だった。今回も得票数の僅かな違いが、議席数に増幅されて反映されるだろう。
だから、自民党が勝つ確率がない訳ではない。逆に、マスコミのネガティブキャンペーンが激しさを増しても、民主党が勝つ確率もある。小政党が薄く広く議席を獲得し、新たな連立が組まれる可能性も高い。
いずれにしろ、現在の最大の課題は、鳩山政権の迷走振りを見ても明らかなように、「官僚の暴走をどう抑え込むか」という一点に絞られている。次の参院選挙でも、投票するべきは「官僚を抑え込める政党・政治家」になるだろう。
<参考>
おとなの社会科:鳩山総理辞任を「官僚の勝利」として読み解く [1]
佐藤優:鳩山総理と小沢幹事長の間を緊張させる官僚の「罠」 [2]
山崎行太郎:鳩山首相、退陣。小沢幹事長も辞任。その「政変劇」が意味するもの・・・ [3]
09年総選挙 10%の自公支持層が民主党へ [4]
(ないとう)

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