2009年05月24日

『近代国家成立の歴史』まとめ4 近代国家とマスコミと市場は一体不可分の存在

近代国家の理念、つまり国会を頂点とする議会制民主主義国家の理念は世界中に広がっていきます。もちろん、日本も例外ではありませんでした。封建制度から民主主義国家への転換における一番の動因は、「自由に金儲けができる国家への転換」だったのです。
つまり、近代民主主義国家とは、その成立過程から今に至るまで、市場拡大をその最大の目的とした国家と言えます。そうである限り、近代国家とは市場における最大の権力者である『金貸し』に支配された国家であると言えます。

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■国会は、なぜ「多数決」か?
「多数決」は何を実現しているのか?
このような(民主主義)国家では、その内部の意見調整も多数決で行わざるをえません。なぜなら、各人とも自身の私権を最大化する方向で頭を使うため、一度対立すれば、合意の形成には至らないからです。
しかも、近代民主主義国家の理念(『個人』概念や『人権』概念)に従えば、各人の意見の質よりも、一人一人の意見は『平等』に扱われなければなりません。つまり、意見の対立は、その質において優劣を判断し最終的な合意(方針)を得ることで決定されるのではなく、賛同する人数の多寡によって止揚されることになります。(一人一人の『人権』を定量的に計ろうとすれば、必然的に到達する地平です。)
加えて、近代民主主義国家の頂点に立つ国会、その中の政治家において、観念の拠り所は(個人、人権、平等といった)『近代思想』しかありません。私権獲得(市場拡大)を正当化するために作られた近代思想を拠り所にして頭を使う限り、議論においても、その根拠を問い、中身をより洗練させていくことにはなりません。近代思想を駆使して、「なんとなく良さそう」という雰囲気を作り出し、より多くの賛同者を得ることにしか頭を使わなくなります。
現代政治家の無能さの原因は様々ありますが、多数決という仕組みにおいては、原因や根拠を問うことよりも、如何に多くの人間に賛同してもらうかという方向にしか頭を使わないという構造が存在することも、大きな原因のうちの一つでしょう。
■“民主主義”と“マスコミ”は、一体不可分の存在
民主主義国家は、国民こそが最大の「主権者」である、という理念に貫かれています。その実態は、ひたすら私権追求に埋没する個人の寄せ集めでしかありません。このような状況では、当然国家として統合された状態を作り出すことは不可能です。
そこで必要になったのが、 「見えない統治者」でした。「(実際には特定の人間に支配されているにも関わらず)大衆自身が誰の支配からも自由になり、全ての事を自分自身の意志で選んでいると思い込ませること」「そして、選択した方向を一致させること」が必要でした。そのような状態を作り出さなければ、民主主義国家としての体を成しません。
「見えない統治者」の必要性
このための機関となったのが、マスコミでした。彼らは、政府からの情報を一手に引き受け、独占的に情報を流します。捏造、ゴマカシ、様々な手法が用いられてきましたが、「報道することとしないことを決めることができる」ことが最大の特権です。国民が知らなければならないこと、知らなくていいこと、それを決めるのは最終的にはマスコミ自身です。
また彼らは、「みんながそう思っている」という“大衆の声”を流布し、大衆全体を洗脳しコントロールしてきました。(実態のない)“大衆の声”を根拠にして、“大衆の声”を作り上げてきたのです。
つまり、「世論」とは、国民から自然発生的に生じたようなものではなく、マスコミによって“作られたもの”であり続けてきたわけです。
○か×かを判断するだけの民主主義に意味はあるのか?
時には、政治家や官僚を攻撃することもあります。しかし、誰をどこまで攻撃するのかも、彼らによって決められており、しかも、個々の政治家や官僚を攻撃することはあっても、民主主義システム全体を疑い、これを覆すような行動は、彼らからは出てきません。結局、マスコミによって恣意的に作られた「対立関係」に大衆は巻き込まれ、どこまで行っても、政治家・官僚・マスコミの網の目に掛かっている状態が作られ続けてきました。
“民主主義”だからこそマスコミが必要性が残り続けたのであり、両者は一体不可分の存在です。
■“市場”の破綻・行き詰まりは、“民主主義国家”の破綻・行き詰まり
ローマ帝国に代表される古代国家は、私権闘争を活力源とする、力の序列原理に貫かれた統合体として登場しました。そして宗教改革→大航海時代以降、市場拡大の可能性が顕現したことにより、商人が国家を作り始め、立憲君主制を経て、全ての国民を自由な私権獲得(利益追求)の主体とする近代民主主義国家が成立していきます。
市場拡大に邁進することこそが近代民主主義国家の本質です。だからこそ、1970年豊かさを実現した先進国において、国家は膨大な国債を発行し市場をムリヤリ拡大し続けてきました。
2008年から始まった世界金融危機は、国家が国債を発行することで市場に投入してきたマネーが飽和状態に達し、それまで積み上げてきたバブルが全世界的に破綻したことによって発生しました。これは国家主導の市場拡大が破綻を迎えたことを意味します。
市場の崩壊、金融システムの瓦解が避けられない現在、近代民主主義国家というシステムも破綻を迎えつつあるということであり、従来の「国家と市場」という枠組みを超えた仕組みつくりこそが、人類的課題となりつつあることを意味します。
世界大恐慌→私権闘争の終焉によって国家も終焉を迎える
このように、市場、近代国家、民主主義、マスコミはそれぞれが独立して存在しているわけではなく、相互に関係を持つシステムとして存在しています。
2008年以降の経済危機は、市場のあり方の見直しを迫られているだけでなく、国家のあり方の見直しを迫られていくことになるでしょう。

ないとう@なんで屋でした
※『近代国家成立の歴史』シリーズの過去ログです。
 『近代国家成立の歴史』1 はじめに ~市場拡大が第一の近代国家~
 『近代国家成立の歴史』2 国家と教会の結託 ~ローマ帝国を事例に検証する~ 
 『近代国家成立の歴史』3 教会支配の拡大と金貸しの台頭
 『近代国家成立の歴史』4 教会と結託した金貸し支配の拡大~宗教改革~
 『近代国家成立の歴史』5 国家と新しい商人の台頭 ~宗教改革~大航海時代~
 『近代国家成立の歴史』6 自治権を獲得したオランダ商人
 『近代国家成立の歴史』7 商人が国家をつくる
 『近代国家成立の歴史』8 オランダ商人が作った近代国家イギリス
 『近代国家成立の歴史』9 金貸しが支配するイギリス帝国へ
 『近代国家成立の歴史』10 近代国家の理論的根拠=社会契約説とは、何だったのか?
 『近代国家成立の歴史』11 国家と個人を直接結びつけたホッブス
 『近代国家成立の歴史』12 個人の「所有権」を最大限認めたロック
 『近代国家成立の歴史』13 私権社会を全的に否定できなかったルソー
 『近代国家成立の歴史』14 そして、市場拡大を第一とする国家理論が出来上がった
 『近代国家成立の歴史』15 市場拡大を第一とする国家アメリカ合衆国~独立戦争開始まで~
 『近代国家成立の歴史』16 世論を背景としたアメリカ独立戦争
 『近代国家成立の歴史』17 司法権力社会アメリカ
 『近代国家成立の歴史』18 新たな私権獲得の可能性「フランス革命」

List    投稿者 tnaito | 2009-05-24 | Posted in 未分類 | 4 Comments » 

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コメント4件

 のりか | 2009.09.05 22:40

>本源性の高い日本がどの国と市場原理を超えた共認型地域ブロック経済を築けるか?については、その相手国に私権意識が強く残存しているかどうかを確かめる必要がありそうです。
なるほどです!地域ブロック経済を創るには、単に足りない産業を補い合うだけでなく、そもそも、同じ意識を持つ(統合原理を持つ)国とでないと、共同できないですよね☆

 米流時評 | 2009.09.06 8:06

R.I.P. アメリカ民主主義の魂 テッド・ケネディ

   ||| Rest In Peace, Kennedy |||
 アメリカンスピリットと民主主義の魂、民衆に愛されたテッド・ケネディ追想
 

 kenya | 2009.09.08 21:42

「国民生活の格差が少ない程本源的な国家をなす」という認識は目からウロコです。
確かにそうです、国民生活水準は高くても格差が大きければ、底辺に属する人たちの私権意識は高くなるし、格差の上位にいるものも更にどん欲な私権意識が芽生えてくる。先進国でも日本の様に比較的格差が少ない国はそんなに私権を巡る格差競争はする事は少ない。

 dark blue hermes handbags | 2014.02.03 7:22

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