選挙期間中は「イラク戦争反対」「中東からの米軍撤退」「独裁者との対話」を打ち出し、厭戦ムードの米国民の支持を集めたオバマ大統領だが、今後の中東・イスラエル政策はどのようになるのか、1/20の大統領就任へ向け、予測してみた。
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まず選挙期間中の発言。
ブッシュ政権下でも水面下で着々と進んできたイランとの対話路線だが、これを引き継ぐ形で、北朝鮮やイランの指導者たちとも無条件の対話を行う、と名言した。
2008 06 03
「「ならず者国家」とも対話」対話外交 どう具体化
北朝鮮やイラン、キューバなどの指導者とも会うつもりなのか――。
昨年の米大統領選民主党討論会で「イエス」と答えたバラク・オバマ上院議員(46)は、党候補指名を確定させた今月3日の演説でも「タフな直接外交」の必要性を力説した。「タフな直接外交」とは、ブッシュ大統領が原則的に直接交渉を拒否してきた「ならず者国家」とも対話を行い、必要なら大統領自ら「独裁者」との首脳会談に応じるというものだ。
読売新聞 [1]
これに対しては民主党のヒラリー候補、マケイン陣営からも”naive”だとの手厳しい攻撃を受け、やや軌道修正するが、対話重視の路線は概ね国民の支持を得る。
そして、11月。結局は「Change」を掲げたオバマの歴史的圧勝だった。すぐさまエールを送ったのが、核兵器開発疑惑と反米・反イスラエルの急先鋒、アフマディネジャド大統領だった。
2008 11 05
イランの大統領がオバマ氏の勝利を歓迎
Iranians welcome Obama as sign of Bush defeat
Jerusalem Post [2]
しかし、同日のニュースは、イランを始めとする中東が歓迎しないであろう人物の人事情報を伝えた。
2008 11 05
オバマ氏、エマニュエル議員に大統領首席補佐官のポストを打診=民主党筋
オバマ次期米大統領は、民主党幹部のラーム・エマニュエル下院議員に対し、大統領首席補佐官のポストを打診した。民主党筋が明らかにした。
同筋によると、オバマ氏は5日、大統領選での勝利が決定した数時間後、エマニュエル議員に打診。同議員はすぐにも承諾するとみられている。
同筋はまた、オバマ氏の側近は「経済及び国家安全保障チームのポストを埋めることに尽力している」と述べた。
Reuters [3]
ラーム-”ランボー”-エマニュエル – Wikipedia [4]
過激な言動で知られるエマニュエル氏は、ユダヤ移民二世。1991年の湾岸戦争時にはイスラエル国防軍に参加していたという。イスラエルの諜報機関、Mossadに関係しているのではないかという話もある。
Rahm Emanuel – Israeli Spy [5]
Rahm Emanuel’s father: An Israeli terrorist?
Belfasttelegraph.co.uk [6]
オバマ政権は中東政策をチェンジできるか
しかし投票日から2日後、オバマ氏がラーム・エマニュエル(Rahm Emanuel)下院議員(48)を次期大統領首席補佐官に指名したとたん、イスラエルには安堵の空気が流れ、メディアは「われわれの仲間がホワイトハウスに」と一斉に報じたという。
リベラル21 [7]
オバマは直面する金融破綻に対し、「ニューディール政策」を打ち出しているが、これはエマニュエル氏が2008年3月、Wall Street Jurnal紙に寄稿した提言にもその言葉は見ることができる。クリントン政権で辣腕をふるったこの人物が、オバマ政権における最も重要なキーマンとなることは間違いない。
A New Deal for the New Economy
Democratic Caucus [8]
この中で、エマニュエル氏は、New Deal For New Economyとして、①教育改革など人的資本への投資②メディケア・メディケイド、小児医療プログラムの拡充③環境保護政策、そして最後に経済政策の見通しを明らかにしている。
Wall Street journal紙に寄稿された提言(後半部分)
最後になるが、我々は、再び普遍的な貯蓄計画に基づく貯蓄の国であらねばならない。
現在、 フルタイム労働者のうち、7500万人が貯蓄をもたず、あるいは社会保障以上の退職後の保障を得ていない。
ユニバーサル貯蓄口座は、労働者に対して、より安定的な退職後の経済をもたらすものだ。401kプランのように、これらの口座は社会保障に取って代わる物ではなく、追加補給的なものである。
雇用者および被雇用者は、税金基礎控除の給与の額の1%に相当する支出によって、追加的な積み立てを選択することができる。
我々が新しい経済のためのニューディールに注力することで、Naftaの議論も可能になるのである。しかし、ここが最も大事な部分であり、最大の課題になるのだが、アメリカの労働者たちは、政府と新しい社会契約を再び結ばねばならないが、それは他ならぬ我々自身である。
「新しい社会契約」(New Soial contract)とはいったい何なのか?単なる社会保障制度改革ではない、何か重大な変革であることを示唆しているようにも聞こえる。
そしてブッシュ路線の修正を期待されていたはずのオバマ政権で国防を担当することになったのはゲーツ国防長官である。大統領安全保障補佐官は、NATO司令官のジム・ジョーンズを起用した。
これらの人事によって、少なくとも、軍事的路線はChange!ではなく、stayであることが次第に明らかになった。
2008 11 26
オバマ次期米政権:ゲーツ国防長官留任、指揮の一貫性重視
オバマ次期米大統領がゲーツ国防長官を少なくとも1年間留任させる見通しとなったことは、「テロとの戦い」の戦時下での政権移行を考慮し、イラク、アフガニスタンの実情を知るゲーツ氏による指揮系統の一貫性を重視したためとみられる。特に治安が悪化するアフガニスタンでは来年に大統領選が予定されている。オバマ、ゲーツ両氏ともアフガンを対テロ戦争の主戦場と位置づけており、アフガン安定化への道筋を付けるうえで当面はゲーツ氏の協力が不可欠な状況と言える。
毎日新聞 [9]
そして、クリスマスムードを吹き飛ばすように12/27、イスラエルがガザを攻撃した。
イスラエル、ガザ攻撃300人死亡、700人負傷
IBTimes [10]
ブッシュ政権がレームダック化する末期を狙ったハマスによる砲撃の最中、オバマによる、ブッシュの中東軍事拡張路線継承のメッセージを、イスラエルは攻撃の合図として聞いたのである。
この背景については↓を参照。
ぼやきくっくり | 「アンカー」オバマ新政権と中東情勢裏側&日本の政局 [11]
オバマ政権で外交の顔となるのは、民主党予備選で敗れたヒラリー・クリントンだ。ヒラリーは夫のビルがインドネシア華僑や指名手配中の中国人から献金を受けるなど、チャイナ・ロビーの強烈な影響下にあるとされるが、13日、国務長官就任への承認公聴会が上院外交委員会で行われた。
「スマートパワー」で指導力 ヒラリー国務長官 承認審議
MSN産経ニュース [12]
そこでの要旨米国は、軍事力に加え、外交を中心とした「スマートパワー」によって国際社会の指導力を発揮する
「米国は差し迫った課題を単独で解決できないが、世界は米国抜きでこれらの問題を解決できない」
「外交政策は理念と現実の結合であって、硬直化したイデオロギーに基づくものであってはならない」
中東戦略に関する具体的な政策の明言は行われなかったが、硬直化したブッシュのネオコン路線から対話重視型外交への転換のメッセージが発せられたと言うことだろう。
このクリントンの上級アドバイザーとして、久しぶりに外交の最前線に復帰したのが、デニス・ロス元中東特使だ。父ブッシュとクリントン旦那政権の両方で、オスロ合意を始めとした和平プロセスの中心的な実務を担った人物である。マイケル・ハーシュがNewsWeek誌に書いている。
Obama’s Peace Offensive
Newsweek.com [13]
子ブッシュ政権では、中東問題はほとんどイランの核開発とイラク戦争に注力され、ブッシュはパレスチナ和平にはほとんど関心を示さなかった-というよりは、”The road to Jerusalem goes through Baghdad”(エルサレムへの道はバグダッドから続く)という理屈によって、イラクに民主主義を分け与えればパレスチナに和平がもたらされる、というばかげた主張を繰り返していたのである。
イスラエルに対し、「パレスチナ国家建設」の言質を取ったロスが中東問題に乗り出したとなれば、と、アラファト率いるPLOにこうした最高の条件でさえ飲ますことのできなかった失敗を彼が犯している事実にもかかわらず、ハーシュはこの人選に期待している。
言うまでもなく、時間がないからに他ならない。イスラエルとレバノン、イランで選挙が間近に迫っているからであり、このままでは、イスラエルでは超強硬派のネタニヤフ・リクードが大きく票を伸ばし、穏健派アッバースPLO議長は失脚し、ハマスが優位に立つ可能性が高いからである。
6月にはアフマディネジャド大の再選を賭けた大統領選がイランで行われる。原油急落によって急速に支持を失いつつあるアフマディネジャド大統領が、再び攻勢に転じる恐れがある。
オバマが大統領に就任する最初の10日間、彼がどのような政策に踏み出すかを世界が注目している。
自国の経済クライシス救済か、中東和平か、今そこにある危機はひとつではなく、しかも相互に絡み合い混迷の度を深めている。