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「AIGの発行済み株式総数の約80%分の株式取得権」とは?

★新聞によれば、AIGの株式の80%を取得する「権利」をFRBが得て、それを担保に9兆円融資したということだが、80%を取得する「権利」とはどういうことなのか? 空証文にすぎないのでは?

この仕組みの解明に入る。
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読売新聞2008年9月17日の記事「AIGに公的資金、850億ドル融資…米政府が株8割取得」 [1]

米連邦準備制度理事会(FRB)は16日、経営不振から株価が急落している米保険最大手のAIGに、最大850億ドル(約9兆円)を融資すると発表した。米政府はFRB融資の見返りとして、AIGの発行済み株式総数の約80%分の株式取得権を得る計画で、AIGは事実上、当局の管理下で再建を図ることになる。融資はFRB傘下のニューヨーク連邦準備銀行を通じて実施する。期間は24か月で、AIGの全資産を担保とする。米政府は株式を取得することにより、優先株や普通株への配当実施を拒否する権限を持つ。AIG内部の資金が不当に流出するのを防ぐことができる。

まず、株式取得権とは何か?
ストックオプションという仕組みがある。AIGはこれをアメリカ政府に与えたのではないか?

ストックオプション制度とは、会社が取締役や従業員に対して、予め定められた価額(権利行使価額)で会社の株式を取得することのできる権利を付与し、取締役や従業員は将来、株価が上昇した時点で権利行使を行い、会社の株式を取得し、売却することにより、株価上昇分の報酬が得られるという一種の報酬制度です。
報酬額が企業の業績向上による株価の上昇と直接連動することから、権利を付与された取締役や従業員の株価に対する意識は高まり、業績向上へのインセンティブとなります。また、結果として、業績向上が株価上昇につながれば株主にも利益をもたらす制度とも言えます。ストックオプション制度は、平成9年5月の改正商法において導入され、平成14年4月施行の改正商法において「新株予約権(*)の無償発行」として新たに整備されました。
(*)「新株予約権」・・・ 権利の保有者が会社に対し権利行使することにより、会社から予め定められた条件で新株あるいは会社の有する自己株式を取得することのできる権利。

ストックオプションの仕組み
① 会社(子会社を含む)の取締役や従業員に対し、「新株予約権」を無償で発行
② 株価が上昇し、権利行使価格を上回った時点で、取締役・従業員は会社に対し権利を行使
③ 会社は権利行使を受け、新株あるいは会社の有する自己株式(金庫株)を交付
④ 取締役・従業員は権利行使価格で取得した株式を時価で売却することにより譲渡益を取得

「ダイワベンチャーランド~公開基礎情報~ストックオプション制度について」 [2]より引用。
AIGはアメリカ政府に対して、新株予約権を与えたのではないか?
では新株はどうやって発行するのか?
AIGの授権株式数(株主総会の決議なしで、取締役会の決議だけで発行できる株式数)は50.00億株
AIGの発行済み株式数は27.51億株
今後AIGは授権株式数から発行済み株式数を除いた22.49億株の新株を、取締役会の決議だけで発行できる。
新株発行可能数22.49億/発行済み株式数27.51億株≒80%である。
つまり、AIGは発行済み株式を除いた残りの授権株式22.49億株全てに、アメリカ政府に新株予約権を与えたのだと考えられる。それが「発行済み株式総数の80%の株式取得権」ではないか。
株価が上昇すれば、アメリカ政府が権利行使価格(タダ同然の価格)でAIGの新株を買いとり、それを市場で売り抜けることで政府は売却益を得られる(AIGの普通株式はニューヨーク・アイルランド・東京の各証券取引所で上場されている)が、それが850億ドルの融資の担保ということは有り得ない。売却益で融資を返済するために必要な一株当りの売却益は38ドル(=850億/22.49億株)にも上り、1ドルまで急落したAIGの株価が40ドルまで持ち直すなど有り得ない話である。株価が上がらなかった場合、AIGはFRBの融資に対し融資期間2年の間に返済しなければならないが、これも無理な話である。
結局、AIGはその資産を売却して返済するしかない。
実際、AIGは資産を売却することで融資額を返済すると声明している。 [3]
政府が権利行使して残りの新株を全て取得すれば、政府の持ち株比率は22.49億/50.00億=45%となり、おそらくは筆頭株主になる。アメリカ政府がAIGの決定権(資産の処分権)を掌握できることが「担保」になるという理屈で、FRBは850億ドルの融資を決定したのではないか?
しかし、それなら850億ドルに相当する担保をとれば済む話であり、なんで「獲らぬ狸の皮算用」のような新株予約権を「担保」にしたのか?
850億ドルに相当する担保が差し出せない理由があるからでは?
(本郷猛)

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